夢を見ていた。
ゾロ、間近で笑ってる。ああ、よかった。
オレ、アナタの笑顔がスキ。
手が頬に触れた。
よかった、オレに触れてくれる。

「…」

ゾロが、オレじゃない名前を呼んだ。
ゾロ?
それはオレじゃないよ?
さらり、と髪を撫でられた。長い髪。
黒い、長い、髪。
びっくりした。

誰?
さらり、指が髪から辿り落ちてくる。
ふわ、と柔らかく握りこまれた。
…え?…乳房、だ。
…白い、薄い布のドレス。
突き出ているのは、大きな乳房。
柔らかい。

「もっと触って?」

声。
甘い声。高くて。
甘えるような。強請るような。
オレのじゃない、声。
なのに、喋っているのは、オレ、だ。
どうして?
ゾロの手が、やわやわと乳房を揉んだ。
オレの乳房。

名前、呼ばれた。
カノジョ…入れ物のオレ、の。
柔らかな口付け。
そうっと舌が滑り込んできた。
覚えのある熱。覚えのある味。

ふ…。
身体が震えた。
ん…。
声が漏れた。オレは笑って。

「もっと触って」

強請る。
ゾロが腰を抱いて、ぐ、と倒した。
柔らかな手、身体の表層を辿る。
容を確かめるように。
ボタン、ゆっくりと外されて行く。
ドレスの。
オレは笑って、もっと、と強請る。
熱い掌、露わになった肌を滑る。

「キス、して」

赤い舌をわざと閃かして。ゾロを誘う。
もっと。
もっと。
欲しい。
口付け、与えられた。
舌の根っこから、食べられてしまいそうなの。

掌、どんどんと身体を触って。
熱くなる。甘くなる。
際限なく、蕩けて。
容を忘れて。

足、開いた。

「チョウダイ?」
笑って強請る。
手を引いて、ゾロを引き寄せた。

「アナタを全部、チョウダイ?」

ねぇ、なかまで来てよ。
奥深く、誰も知らないところまで。
満たして。全部。
アナタだけで。

アナタだけ、で。

ずくり、と覚えのある疼きが、身体の奥で灯った。
どくどくどく、と血が走り始める。
鼓動。
早い。
ドキドキしてる。
ゾワゾワが止まらない。
肌が震えてる。


目、開いた。


木の天井、ベッドルーム、の。
手、自分の身体を触った。
寝起きだから、ってだけじゃない熱を持った身体。
ぺったんこの胸。オトコの身体。
オレの。
…うわ。
…ヤバい、かも。

オンナの身体、アレは夢だ。
ゾロを欲した、オレのアニムス。
遺伝子のX、無意識に潜むカノジョ。
身体がシンクロしてて。
自分の身体が、反応してることを知った。

…どうしよう。
どうしよう、オレ…。
涙が零れた。
オレ、オンナノコみたいに、ゾロを欲しいと願ってる。
もっと触って。もっとキスして。
アレはオレの願いだ。
どうしよう、オレ…ゾロが欲しい。
ゾロが欲しくて、しょうがない。

でも、ダメだよね?
ゾロは…きっと。
もう、オレに触れたくはないんだ。
もう、きっと、抱きしめては、くれない。

キスも、ダメ。
気付かれちゃう。オレの気持ち。
ゾロを求める、オレの気持ち。

…ゾロは…帰ってしまう。
あと4週間くらいで。
ずっと一緒に居たかったけど。
もう、ダメ。
オレが、ダメ。
こんなにゾロが欲しいなんて。

…どうしよう。
…どうしたら、いいんだろう、オレ?
泣いてたら、身体が勝手に収まった。
ずくずくと、まだ疼きは収まらないけれど。
枕に顔を埋めた。
…どうしたらいいんだろう、オレ?



夜半をとうに過ぎた頃。
勝手に目が開いた。まっくらな室内、空気が冷え切っていた。
ふと、隣の部屋で眠っているサンジのことが気に掛かった。
最後に見たときは、安らかに眼を閉じていたけれども。いまは、どうだろう。

漠然とした嫌な予感。
おれのこいういったカンは妙にあたるんだ。
ブランケットを跳ね除け、立ち上がり。ドアを音を立てずに開けた。
ああ、やっぱり。
僅かに開いた隙間からでも、苦しげな抑えた声が聞こえた。

「…んァ…ァ…ぁァん…ふ…ッ」
近づき、ふと。声をかけるのが躊躇われた。
微かに、艶を含んだように聞こえたのは自分の気のせいかと。
サンジ、と声に出さずに音にする。

「…は…あゥ…ッん」
夢か?
髪を撫で、頬に口付けた。ごく軽く。だいじょうぶだ、と耳もとに呟き。
宥めるために開きかけた唇に口付けた。

「んん…ふ…ッ…」
そっと食む。
「…ッ…ん……」
大丈夫だから。眠れよ、と。そっと押しあてる。
オマエに触れているのはおれの手だから。

額に唇を落とし、落ち着きかけた声を耳にする。
「ねむっちまえ、サンジ」
「…ッ……」
不意に。
きゅう、と。熱い掌がおれの手を握り込んだ。
酷く、感傷的な気分になった。
額をあわせる。
いまここで、あンたに触れちまったら。冗談にしてやれなくなるだろう?と。

手を抜こうとしたとき。
気付いた。
その甲に残る噛み痕。
口付けて、手を抜いた。指の力が、あっけないほど抜けていった。
けれど、もう一度傷跡に唇で。舌先で触れ。
段々と穏やかになっていく呼吸を感じ取っていた。

この場から離れろ。
本能が告げる。
抱きしめて、貪り尽くしちまえ。
情動が喚く。

シーツの内側に手を戻させ。
寝室から抜け出した、まさに。逃げるように。
横になってからも、意識のどこかにぽかりとあいた空ろに。苦笑が零れた。
サンジ。
あそこまで腕に、胸に。
添うカラダをおれは知らない。そして、知る必要も無いのだと無理矢理に眼を瞑った。

朝だ。はやく朝がくればいい。
そうすれば、おれはあンたに話してやれるから。
気に病むな、昨日のあれは性質のわるい冗談だった。やり過ぎたな、すまん。
そう言えば、あンたは思い煩う必要などないだろう?
オマエの笑い顔が歪むのは。それを眼にするのは。
銃を突きつきつけられるよりも、おれにはコタエル。
だから、また。ふわふわと上機嫌なネコに戻ってくれ。

ブランケットを引き上げた。
ふわり、と。
サンジの匂いがした。
ハハ、まいったな。おれはライナスじゃねえんだぞ?
抱き込むようにして寝返りを打った。




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