Thursday, June 13
身体が、気だるかった。
じくじく、熟れていくような。
はぁ。
溜め息すら、甘ったるい気がして。
嫌気がさした。
ごし、と涙を拭った。泣いていても、事態は改善しない。
そっと起き出して、顔でも洗えば。少しはこの熱も、冷めてくれるかもしれない。
…期待は薄いけれど。
まだ外はあまり明るくなくて。空気は冷たかった。
ゾロと一緒だった時は、結構遅くまで寝ていたのに。
眠れない。眠った気がしない。
寝るだけ、疲れた気がした。
イヤなパターンに陥るかもしれない。
…どうしようもないけど。
そうっとベッドルームの扉を開いた。
…ゾロ、やっぱりソファで寝てる。
ぽたり。
涙が勝手に溢れた。
やっぱりゾロは、オレと一緒には寝てくれないんだ。
もう、ハグも、してくれないかなぁ?
…オレは、どこで間違っちゃったんだろう?
…どこで、間違ってしまったんだろう。
ごし、と涙を拭いて、ソファの脇を抜けた。横目でちらりと見る。
ゾロ、ブランケットを抱え込んで寝てた。…寒いだろうに。
…オレ、どの道あんまり眠れないから、オレがソファで寝ようかなぁ?
…はぁ。
ぺたぺたと歩いて、バスルームに行った。
鏡に映った自分の顔。泣き腫らして、酷い顔になってた。
「…ッ」
水を流して、思い切り顔を洗った。
冷たい水。
肌はヒリヒリとするのに、頭はしゃっきりしてくれなかった。
気だるい熱さは、身体の奥でじくじくと残って。
水シャワーでも浴びるべきなのかな、と考えた。
…着替え、持ってきてないけど。…入っちゃえ。
服を脱いで、思い切り水を頭から被った。
冷たい。キン、と肌が冷える。
冬の川の水のようだ。不意に冬が懐かしくなった。
どんどん水を浴びて。
鳥肌が立ってきたところで水を止めた。
身体の奥の熱、奥で熾き火のように固まった。
けれど、消える気配はない。
ガチガチと歯が鳴った時点で、有効な手段ではないと知った。
仕方なく、タオルで身体を拭いて。
表面だけ冷えた身体を、元々着ていたTシャツとズボンを着込んだ。
…オレ、何してんだろ?
…オレ、やっぱりバカなのかなぁ?
はぁ。
結局冷えただけの身体を抱えて、バスルームを出た。
そうっと歩いていって、ベッドルームに戻ろうとしたら。
ゾロがじっとソファに座って、オレが出てくるのを見ていた。
そっか。起きたのか、ゾロ。
ゾロが立ち上がった。
笑いかけてみた。…失敗。
絶対、笑えてない、今の。
ゾロが近づいてきた。少し、怖い顔。
…どうして?
せめて、アナタは笑っててよ。
お願いだから、ゾロ。
ひたひたと。足音を殺して奥のバスルームまでサンジが歩いて行っていた。
目が覚めた。
僅かな音にでも目が覚めるように、戻った。以前の通りだ。
腕に柔らかな重みを抱いてまどろんでいられたことの方が驚きだったのだから、当然か。
出てくるのを待つ。
あンたが、きちんと眠れたのかどうか。悲しい思いをしなかったのかどうか。
それを確かめるまで、おれは放っておくことは出来そうに無いから。
やがて、水音がとまり。
ぼんやりと。サンジがおれを見ていた。
まるで一晩泣き明かしたような目許と。途方に暮れたようなやるせなさ。
無性に苛立った。
立ち上がり、近づけば。それでも、コイツは。おれが一番みたくなかったカオを作った。
いまにも泣き出しそうなくせに、ムリに貼り付ける笑み。
「泣いていたのか、」
きつくなりかける口調を宥めた。
「…ウン。夢見、悪くて…」
サンジをみつめた。
泣きはらして赤くなった目許。
冷えた空気、濡れた髪。
色を失った唇。
ああ、サンジ。おまえ、いったい何やってるんだよ?
両腕に冷え切ったカラダを抱きこんだ。
「冷たくなってる、」
「…っ」
びくり、と硬直したカラダ。おれの腕の中で。
―――もう、柔らかく預けられる事などないのだろう、ふと思った。
「サンジ、」
腕を緩めずに言った。おれに抱かれて、全身が緊張してやがる。
「な、に…?」
不意に、ナミダが零れそうになった。
「きのう、のことは。じじいに言ったことも、おれのしたことも。行き過ぎた冗談だった。悪い、だから。」
あンたは、なにも気にするな。気に病むな、と。続けた。
「すまなかったな、」
「…そう」
ゆっくりと腕を解いた。解きたくなど無かった。
ぽたり、とサンジの眦から。涙が零れて、俯いていた。
ああ、だから。泣かないでくれよ。
言葉にした。
「…ガンバル」
口付けて涙をぜんぶ吸い取ってやりたい、けれどできるはずもない。
サンジが、なんの力も感じられない笑みを浮かべた。
「昨日のこと…全部、忘れるから…ゾロは、気にしないでね?」
「あァ。あンたこそ、忘れてくれ」
「ウン。忘れることにする」
ぐい、と拳で目許を拭っていた。
だから。そんなに強く擦るな。だから腫れちまうんだ。
止めさせてやりたいのに。
―――術が無い。
「よし、忘れよう。ディール?」
ぽす、と頭に手を置いた。柔らかな金の感触。
「…ディール」
つい、と頬に。指を滑らせた。笑ってみた。
ほんの少し、サンジの藍が笑みに揺れた。
「オハヨウ、サンジ」
「…オハヨウ、ゾロ」
一日が始った。
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