| 
 
 
 
 朝ごはんを、何とか作って。
 もそもそと口にしていたら、携帯電話が鳴った。
 ドクターからで、コヨーテの様子を見に来い、とのことだった。
 その旨をゾロに伝えると。
 「行って来いよ」
 にこり、と笑った。
 ああ…一緒には、これないか、どの道。
 でも、今の笑顔。
 オレから離れられて、嬉しいって顔かなぁ?
 …でも、オレのことはスキだって言ってくれてるし。
 
 「よかったな、ドーブツが回復して」
 …ダメだ、全部マイナスに走っちゃう。
 「うん。そうだね」
 ああ、白々しい声になっちゃった。
 「じゃあ、お昼はテキトウに食べてね?」
 笑ってみた。
 「ああ。」
 逃げるように支度して。
 ああ、こんな態度じゃ行けない、と思って。
 頬にだけ、ちいさなキスをした。
 
 「行ってきます」
 あ、ぴくってした。…うん、これももうヤメよう。
 「何も轢くなよ?」
 「轢かないよう!」
 わざと笑ってみせた。そうじゃないと、涙が零れそうで。
 ゾロも笑って、手を振って別れた。
 車に飛び乗って、スタートさせた。
 
 「…ふぇ」
 走り出した途端、涙で前が見えなくなった。
 …よかった、砂漠で。とりあえず、なにも撥ねる心配はないし。
 そんなことを思う自分が可笑しくて、少しだけ笑った。
 ああ、オレは…どうゾロと、過ごしていけばいいんだろう?
 
 なんとか涙が治まって。レジデンスの中心部に入った。
 動物病院のパーキングに車を止めて。
 顔をハンカチで拭いて、中に入ったけど。泣いていたのは、やっぱりバレバレで。
 ドクターが、溜め息を吐いて、今日は一日、コヨーテくんの看病をしてなさい、と言った。
 いい機会だから、慰めてもらいなさい、と。
 ナースたちは、やさしくて。御昼ごはん、差し入れてくれた。
 …あんまり喉を通らなくて、また少し泣けてきた。
 
 いいのよ、ムリしなくても。
 そう言って、変わりに温かい飲み物と、ハグをくれた。
 また泣きそうになった。
 コヨーテは無事に体力を回復し始めていて。メソメソと泣くオレを、興味深げに見ていた。
 時折鼻を鳴らして。
 泣くだけ泣きな。そしたら後は笑っとけ。
 そんな風に、くたりとケージの中から、オレを見上げてた。
 傷付いたコヨーテに慰められるオレ。
 
 そうしたら、ドクターが、今度はボブ・キャットの小さいのを、オレの腕の中に入れていった。
 ソイツはまだ小さいから、ミルクを飲ましてやりなさい、と。
 温かい哺乳瓶、渡されて。無心でミルクを飲むボブ・キャットに励まされて。
 どうにか泣き止む事ができた夕方。
 その眼じゃ運転に支障が出そうだから、真っ暗になる前に帰りなさい、と送り出されてしまった。
 ゾロに会えるのは嬉しい。
 早くゾロに、会いたかった。けれど。
 朝みたいに、気遣われるのは…辛い。
 …はぁ。
 どうしよう?
 
 
 
 サンジが出て行った後。
 知らずにながく息を吐いていた。
 泣いたカオ。無理に作る笑顔。時折不安げに揺れた眼差し。
 そういった一々に。反応しかける自分がいた。
 半日以上、でかける用事が入って助かったと、正直思った。
 
 あと何時間か、何分かいたならば。
 ディールは取り消しだ、と言い出しかねない自分がいた。
 泣こうが喚こうが知るか。おれはアレが欲しいんだ。
 歯噛みする。
 厭きれたモノだ。
 強姦はヒトしかしねぇ。
 獣以下じゃねえか。
 
 部屋を見回した。
 気晴らし。
 探して、自嘲と一緒に思いついた。
 まずは。
 モノを動かそう。扉に背中を向ける位置のソファ。
 壁際に移して。寝室と隣り合わせになるが、それは無視した。
 後は、なんだ?
 いくつか散らばったイス、これはどうでもいい。
 
 ああ、暖炉。
 夜は相当寒かったな。
 フン、いいことを思いついた。
 炎天下で蒔でも割るか?
 クソバカバカしいことこの上ないぜ?
 あとは?―――ないな。
 
 持て余す熱は。
 明日にでも処理すればいいか。
 どうとでもなる。
 なるべく、ブルネットのオンナを見繕って。赤毛でもいいか。
 サンジが言っていた。シティの方のどこかの銀行に。
 ペルから相当額の謝礼が振り込まれていた、と。それとは別に、おれのお偉い子守りは。
 「御小遣い」も用意したらしい。
 
 手をまわしやがったか、ひどく簡単な身分証明で事が足りるようだ。
 オンナ、素人は後後が面倒だ。金で片がつく連中でイイ。抱きごこちさえ良ければ。
 それじゃあ、健康的に過ごしますか本日は。白々しい台詞を頭の中で詠唱した。
 いっそ、ここを出ていった方がいいのだろうが。その選択肢は、最後まで取っておきたかった。
 
 現実味を帯びたセリフが甦る。
 「オレ、このままここで死ぬね、」
 やりかねないじゃないか。アレは。本人にその自覚がなくとも。
 食事もしない、水も取らない、そんなことを何日か続ければ。
 砂漠ではソレはいとも簡単だ。
 置いて、いけねぇよ。
 
 
 
 
 
 next
 baxk
 
 
 |