サンジ、ベイビィ。
オンナノヒトの声。
キモチよかったでしょ?
ああ…これは。
初めて関係を持ったシーナだ。

年上の、気の強いヒト。
遊ぶように、教えてくれた。
オンナノヒトの身体。
快楽の種類。
交尾とセックスの違い。
ヒトの進化の結果。

「サンジ、コラ」
アニキの声。
「オマエね…あー…オマエに言ってもアレかな?」
なぁに?
「…オマエ、すげぇオンナのセレクションしてるなぁ!」
…どういう意味?
「…はン?…いや、いいよ、サンジ。意味はわかんなくても」
…そうなの?

「ただ…あー…オマエ、ほんと、老若男女問わずモテるっていうか…ヤバそうなヤツには気をつけろよ?」
…どんなヒト?
「…オマエを、間違った風に扱うヤツだ」
…どんな、ヒトだろう?黒いモヤモヤを纏ったヒトは、オレ、近づかないけど?
「…ああ、それでいい。お兄ちゃんは、心配だよ」
…どうして?
「…オマエをかわいがりすぎちったかなぁ?」
…それって悪いことなの?
「…オマエが、後で…辛い目に合うかもしれない」
…???
いいことばかりじゃないって、知ってるから。多分、大丈夫だよ・・・?
「…ああ。オマエを泣かすヤツは、オレがぶっ殺しにいくからな?サンジ」
…自分の身は、自分で守れるようにするから。だれも殺さないで、セト。
「…あーあ。いつでも、兄ちゃんが側にいてやれればいいんだけどなぁ…」
???
「愛してるよ、ベイビィ」

キス。
セトとキス。
大好きだから、キスをする。
唇は、特別。
「安売りすンなよ?せいぜい高く売っとけ」
ひゃひゃひゃ、と笑ったセト。
あれは、いつのことだったんだろう?

「サンジ」
緑の目。
オレを見詰めるのは…ジョーン、だ。
「オレ、あなたがスキです」
うん。オレもアナタがスキだよ、ジョーン。
「あなたを愛してると思う」
うん。オレも、そうだよ?
「でも…ゾロは?」

…ゾ、ロ。

「ゾロを、スキになるって言ってくれたでしょ、サンジ」
…スキ、だよ?
ゾロは…とても
…ゾロを、とても…スキになってしまった。
オレは…ゾロを、スキになりすぎてしまった。

「…サンジ」
つ、と触れる、ジョーンの手。ゾロと同じ、手。
「泣かないで、サンジ」
口付け。唇に。
「…諦めないで」
諦める…?何を?
「…ゾロ、を」

ジョーンが指差した、その先には。
ゆったりとソファに寛ぐ、ゾロの姿。
黒い髪の、オレのアニムス。ゾロに、手を伸ばしている。
カノジョが振向いた。
「だって、カレはオトコだもの。こうなるのが自然でしょう?」

ゾロは、オレが見えないかのように、カノジョの首筋に顔を埋めた。
吐息、感じる。
自分の首筋にも。
どうして?オレは…カノジョではないのに。

「バカね、サンジ。アタシとアナタは、一人でしょう?」
くすくすと笑う彼女が、ゾロの頭を抱え込んだ。
熱い舌先、首筋を舐めて。
ぞくり、と快楽が走っていった。
「ふふ…イイでしょ。ぞくぞくしちゃう」

ア…は…身体が熱くなる…。
「そう、だって、身体は果物。熟れるものだもの…」
ゾロの指が、背中を辿り落ちた。
震えが走る。
鳥肌が立つ。

「…あァ…アタシが果物なら、ゾロは何かしら…?」
…?
「もっと、食べてよ、ゾロ。アタシがアナタを満たしてあげる」
ぎゅ、と抱きしめられた感覚。
ゾロがカノジョを抱きしめている。
目を閉じる。
「ムダ、よ、サンジ。…アナタは、ワタシなんだから」
くすくす声。
すぐ側で喋られているような感じがする。
ゾロの手、とてもリアルに感じる。
身体の表面、滑って。

「…オンナノコだったらよかったのに、って。そう思ってるのかしら?」
…は…。
息を吐いて、頭を振った。
だって、オレはオレ以外には、なれないもの。
「…残念?」

ゾロの唇が、降って来る。雨のように。
カノジョが笑って、それを受け止める。
「…バカね、サンジ」
うん。そうかもしれない。
「全部、解ってるんでしょう?」
…うん。全部、解ってる。

「ゾロが、欲しいの?」
欲しい、よ。
「…でも、これはアタシの、よ?」
…どうして?オレは、…アナタ、なんでしょう?
「だって…だもの。ムリよ」

ッ。
首筋、噛まれた。
カノジョとオレの口から、同じ様な嬌声が洩れた。
ああ。
ゾロの熱が欲しい。

「…欲しいのなら、手に入れなさいよ」
カノジョが挑戦的に笑った。
どうやって?
「アナタが欲しいの。ワタシに頂戴、って。言ってみれば?」
…できないよ。
「どうして?」
だって…。

「いいじゃない。今が最後のチャンスかもよ?」
だって、ゾロは…オンナノヒトと。
「ばっかねぇ。愛が無くたって、セックスはできるって。教わったじゃない」
…でも。

ゾロの唇が、肌を食んで行く。
嬌声を、上げた。

オレは…オンナじゃないから。
「…アナタはワタシなんだから。ここに、いらっしゃい、サンジ」
カノジョがオレに、腕を伸ばす。
招かれて、彼女の中に入った。
途端、ゾロの熱を感じた。涙が出てきた。
嬉しくて。

でも…これは、夢、だから。
「そうよ、コレは夢。だから…アナタがオトコだって、いいじゃない」
ゾロの服に、しがみ付いた。

「アタシは…愉しんだわ。サンジ、アナタも愉しんでみれば?」

熱い舌先、口内に忍び込んできた。
手が身体を辿る、確かな熱。
身体が震えて、勝手に喘ぎ声が洩れていく。
甘い、だらしない声。
強請る。

「そうよ…もっと、素直になれば?」
どうせ、夢なんだから…?
「…ふふ」
甘え声を残して、カノジョのイメージが四散した。

ああ、そうか。
これは、夢なんだ。
ただの…夢。

現実じゃ、ない。
きゅう、と胸が痛んで、涙が零れた。
でも。
それでも、イイ。

オレは…もっと、して欲しいと願っている。
口付け、止めないで?
ゾロ…。

予想もつかない熱に、思考を手放した。
蠢く舌先。
指が頬を滑った。
くらり、眩暈がした。

もっと、欲しい…。
ぞくり、と身体が震えた。
熟れた身体、どうにかしてほしい…。
舌先で、ゾロを追う。
そうじゃないと…このまま熟れきって…身体が中から、ダメになっていきそうだ…。
口付けが解かれて、熱い息が耳元でした。

あ…ぁ…ぞわぞわ、する。
くちゅり、とゾロが耳たぶを齧っていった。
そこが溶けてなくなりそうなのに。
そこから熱が身体中に走った。

は…ァ…。
鳩尾の上、ゾクゾクする。
手が身体を滑る。
首筋、噛まれて。

あ…ァ…はぁ…。
ビリビリ、とそこから痺れた。
もっと…もっとオレを食って…。
そこから食い破って、内臓まで全部、食べられてしまいたい。

ドロドロに溶けた体。
容を、忘れる。
目を閉じた。

は…ァ・
口付けられて、喘いだ。
息が、苦しい。
このまま、溶け切って無くなってしまえるかなぁ?

けれど。
リアルな熱、揺らぐ腰の中心を掴んだ。
途端、脳が身体の形を鮮明に思い出させた。

喘ぐ。
思い出させないで、と。
祈る。
何か、に。

甘い声。
ほわん、と響いて。
何を言われたのか、理解できなかったけれど。
とても、安心した。
息を吐いた。
こみ上げるばかりの熱を、少しでも排出したくて。
握った手…ゾロを掴んでいる、手。
更に握り締めた。
けれど。

ゾロが、遠のく。
何かに呼ばれたように。
…イヤ。
行かないで。
オレを置いて、行かないで。

ゾロ。
何をしても、構わないから。
…オレを一人に、してしまわないで。
もっと、シテ・・・。
もっと…。
涙が零れた。
オレを、置いていかないで。

空気が、身体を滑って。
身体の中心に、火が点いた。
…覚えのある、感覚。
…は…ァ・やめないで…。
総てを、忘れた。

熱に、呑まれる。
蕩ける。
意識が、身体が。
甘く。
熱く。
ドロドロに。

もっと…。
何もかも、置いていけるように。
この熱しか…考えられない。
身体が、蕩ける。

あ…ア…は、ぁ…。
ずく。
鋭利な何かで、触れられた。
びりびり、と電流が走った。
スパーク。
ちかちか、する。
目の前。

ダメ。
蕩ける。

全部…溶ける。
ふ、と身体が軽くなり。
それでも、ぞわぞわとした感覚は、無くなっていなくて。
身体中、キスされた。
まるで、形を思い出させるように。
全部のパーツ。
一個一個に、熱が呼び戻され。
形に戻され。
繋げられていく。
オレの形へ、と。
けれど。

泥沼に引きずり込まれるような感覚。
全部が重くなっていく。
ゆっくりと、沈んでいく。
どこかに。
何かの中に。
あ…ぁ。
思考が…停止する…。





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