Saturday, June 15
…なんだか、ひさしぶりに。
ぐっすり、と眠った気がした。
深く眠っていたからだろうか、身体がなんだかずっと重くて。
それでも…鳩尾あたりでグルグルと渦巻いていた焦燥感は、…無くなっていた。
…泣きすぎた、かなぁ?
なんだか…喉が、痛い。
ん…熱でも、あるかなぁ…気だるい。
でも…どこか、すっきりしてる…。
…?
どういう、こと…?
ふ、とリアルな感覚が戻ってきた。
熱。
オレの…あ、あ。
あの感覚は…クチで、されたときの…だ。
一瞬で、身体に火が回った気がした。
…うわ。
これ…この、身体…の。
…イった時の感覚みたい、だ…。
けれど、下肢にあたる下着は、濡れた気配はない。
…どういう、ことだろう?
夢精…しなかったのかな?
…夢精。
うわ…。
オレ、…オレってば…うわ…そこまで…。
ゾロ…と…している夢を…見た。
夢…だよね。
身体、触れて。
唇と、手と、…愛撫されて。
最後に…口腔内で果てた夢を見た気がする…。
うあ…。
ごめんね、ゾロ。
…オレ、マジでダメかもしれない…。
あ、あ。
オレは
…どこまで、ゾロを求めているんだろう…?
顔…合わせ…らんない、かも。
顔を手で被って。
遠くで、鳥の鳴く声。
聴こえたような気がした。
「…そうだ、仕事」
不意に、現実が戻ってきて。
時間がちくたくと動き出したような気がする…。
慌てて服に着替えた。
寝室のドアを開ける。
ゾロ。
もうシャワー浴びたんだ。
…髪、濡れてる。
…ぞくり。
ゾロの熱、ここからでも感じ取れそうなくらい、だ。
昨日の夢を、思い出すと。
…触れたい。
ぷる、と頭を振った。
ゾロはエスプレッソを淹れていた。
匂いからして、丁度出来た頃合いみたいだ。
ゾロ。
…どうしたんだろう?
ひどく…憔悴してる。
目がキツクなっていて…。
ぞくぞくぞく。
…あ…。
ずきん、と熱が上がった。
だめ。
ダメだってば。
ゾロは…ちゃんとした人が、いるだろうから。
「…おはよう、ゾロ」
オレに気付いて、振向いて、少しだけクチの端を吊り上げた。
…あ、あ。
キス…したいなぁ。
「こいよ、あンたのも淹れてある、」
目を閉じて、思考を投げ捨てた。
「うん。顔を洗ってきたら、すぐに行く。待ってて?」
うわ。
酷い掠れ声。
…風邪、引いたのかな?
…やっぱり、ベッド…じゃないと。
ゾロに手を振って、バスルームに急いだ。
顔を洗いながら、考える。
…一緒に眠ることは、できない、なら。
…新たなベッド、買った方が、いいかな?
それとも…。
ふ、とバスルームの空気がとても冷たいのに気付いた。
…ゾロ、どうして…?
ちゃんと…お湯、使えたのに…?
慌てて、キッチンに戻った。
「ゾロ!」
「……ん?」
背中向けたままの声が、返ってきた。
「大丈夫、カゼひいてないよね?」
額、触って。熱を確かめたいけれど。
「アア、」
…ゾロ、に、嫌がられるのは…イヤだ。
「ゴメン、オレがソファで寝れば…」
ゾロは、オレの方、見ようともしない。
「あのなぁ、」
…ああ、やっぱり…ゾロはこのままここには、居てはいけないかなぁ。
くるり、とゾロが振向いた。
何かを決意した顔。
「ベッドで寝たければ、おれはあンたの隣にいるさ、」
「…いやじゃない?」
カップ、差し出された。
少し震える指先で、受け取る。
「―――いや?」
「…おれがアナタにひっついて寝てしまうの」
すい、と片眉が引き上げられた。
「あンたは抱き心地が良すぎるからな」
…やっぱり、いやってことなんだろうか…?
…どういう意味だろう…?
…?
「こまるだろ、」
「…え?」
困る?
くしゃん、と前髪、握られた。
大きな、ゾロの手。
熱。
温かい。
オレが…焦がれるもの。
きゅう、と抱き寄せられた。
かぁ、って身体が、勝手に熱くなった。
…すがり、ついちゃいそうだよ…。
溜め息。
オレの頭の上。
髪の中に、鼻先があるのを感じる。
困る?困るのは…アナタじゃないの?
ぎゅう、と抱きしめられて。
それから不意に、熱が遠ざかった。
急に、淋しくなった。
視線、外された。
…どうして?
ぴぴぴぴ、と携帯電話が鳴った。
「あ、オレ、行ってくる!」
時間、だ。
慌ててコーヒーに口につけた。
「あチ」
びくり、と身体が撥ねた。
舌先、火傷した気がする。
「ほら、バカ」
それでも、3口ほど呑んで。
「…ジョジョ?」
あ、ヘンな発音。
そうしたら、ちゅ、とキスが降って来た。
舌先、熱いの。
まだビリビリしている火傷のところを、舐めていった。
…ぞ、ろ…?
「行ってこいよ、」
ひらり、と手を振られた。
「あ、ウン。行ってきます」
慌てて、電話と鍵を持って、家の外に飛び出した。
混乱する頭は、しばらく置いて。
「ええと…ええと、ゾロ、夜、会おうね!!」
とりあえず、それだけ告げた。
ゾロは、肩を竦めた。
…オレ。
…ゾロと、先ず、話をしなきゃ。
「絶対!オレ、アナタに言わなきゃいけないコトがあるから!!」
駆け戻って、ゾロの首筋にぎゅう、としがみ付いた。
なんとなく、淋しそうな笑い顔のゾロ。
…ああ、オレは。そんな顔のアナタは、見たくない。
「またな。」
「お願い、だからね!!」
とん、と頭を撫でられた。
「オレ、ジョーンと、誓ったことがあるんだ」
ねえ。オレは、誓約したんだよ?
アナタは、だから。ジョーンのこと、全部、きっちり。
思い出して。
夜、帰ってきたら。
話したいことが、あるから。
「約束、ゾロ。どんなにオレが疲れてても…今日、オレと話をするチャンスをください」
ゾロに向かって、頭を下げた。
それから、返事は待たずに。
車に、飛び乗った。
窓から頭を出して。
叫ぶ。
「だから、アナタは、思い出してね!!!」
答え、いらない。
一方的だって、構わない。
ワガママ?
そうかもしれない。
でも、それでも。
オレは、きっちりと、全部を考え直す時間が必要で。
何かがクリックした。
オレ、ゾロを手放しちゃ、いけないってこと。
「エースさん、お願い。ゾロを…繋ぎとめておいてください」
優しい黒髪の彼を思って、勝手な願いを口にした。
車は、代わり映えのない砂漠を走る。
時間は一方向性。
だけど。オレは…立ち止まりたくない。
後ろになんか、向いてやるもんか。
絶対に、前に進んでやる。
だから、オレに祝福をください、エース。
オレがゾロと、同じ方向に足を出していけるように。
…負けるもんか。
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