ドアを力任せに開けて、飛び込みながら叫んだその先。
今立ち上がったばかり、というような姿勢で、ゾロが、立っていた。
…なんだか、怒ってるみたいな。
くそ、オレの方が怒ってるんだからな!
すう、と眼を細めたゾロに近寄った。
日に焼けている…長時間、曝されたんだろう、太陽に。
「オレは、アナタに、話したいことがあるって言った!なのに、なのになんで…ッ!!」
あ、泣くな、オレ。
オレはゾロに言いたいことがあるんだッ。
ああ、でも。
ゾロ、無事で良かった。
すい、とリトル・ベアに向かって、右手を差し出した。
「キィ」
呟いた。
「なんで?オレの話、聴いてもくれないくらいに、オレと一緒にいるのはいやなのかよッ」
ああ、違う、そうじゃないんだ。
勝手に涙が溢れた。
くそ、勝手に流れてろ。
ゾロに手を伸ばした。
シャツ、胸倉、掴んだ。
オレから眼を逸らさずに、リトル・ベアを呼んでいる。
だめだ、涙。邪魔。嗚咽で声が出ない。
ぐ、と喉が鳴った。
首を振る。
「…一緒に居るって、いってくれたのに。オレのこと、スキだって言ってくれたのにッ」
力が抜けて、床に座り込んだ。
「―――ただの、言葉だ。」
涙がウッドの床に溜まっていく。
「…それ、でも。オレはアナタがスキなんだ」
ああ、声が掠れる。
「オレは、アナタがスキ」
フロアから、眼を離して。
ゾロを見上げる。
ゾロが身体を折って、髪に触れた。
「…行かないで」
お願いだから。
「オレを、置いていかないで…こんなのは、イヤだ」
嗚咽を押し殺して、声を紡ぐ。
ゾロのズボンの裾を握った。
「オレ…きっと、死んじゃう、このままじゃ」
お願い、オレの話を聞いて。
「"アナタを連れては行けない。ごめんね?サンジ。約束破って"」
「…イヤだ」
首を振った。そんな言葉、聞きたくない。
「アタマの中でそう言ってるヤツがいる。おれも同感だ、」
「オレは!」
一つ、息を呑んだ。
「サンジ。おまえのたてた誓約は、捨てろ」
「オレは…ジョーンとは、サヨナラできたけど…淋しかったけど…でも、アナタとは、できない」
首を振る。
「オレ…きっと、死んじゃう、アナタがいないと」
ぐ、と涙を噛み締めた。
「ソレくらいのことじゃあ、ヒトは死なない」
「アナタに焦がれて…アナタが欲しくて。オレはきっと、内側から死んじゃうよ…ッ」
この連中がさせるわけがないだろう。そう呟いて、ゾロが少し笑った。
チガウ。
そうじゃない。
「……ほら。手、放してくれ」
「イヤだ」
首を振る。
「おれは、あンたから逃げたいんだよ?だから放せ」
「オレは…アナタが欲しいんだッ。なんでオレから逃げたいんだよッ!」
眼が熱い。
涙が止まらない。
「オレ、アナタがスキで。アナタに触れられるだけで、体が熱くなってく」
体温の低い手が、指を一本一本はがしにかかる。
「オレから逃げたいのは、オレがオスだから?オンナノコじゃないと、アナタに愛してもらえないのッ?」
イヤだよ。オレを、引き剥がさないでよッ。
「いや。―――なあ、リトル・ベア。おれがここを出て行くまで。このネコ捕まえておいてくれよ、」
「断る。出て行くなら、勝手に車を使えばいい。誰かに返させろ」
「了解。」
ことり、とテーブルの上。鍵が置かれる音がした。
すい、と身体を起こしたゾロの足。
もう一度、掴まえようとしたけれど。
力が抜けて、指一本動かせない。
「オレ…アナタが欲しくて。アナタに愛される、夢を見た」
テーブルのほうに歩いていく音を、眼を閉じて聴いていた。
「―――あのな、サンジ」
「オレはオンナノコの体に入っていて…だからとても自然に、アナタを求めた」
声が掠れて、ささやきにしかならない。
「オレじゃ、アナタを満たせないの?オレじゃ、愛してもらえないの?…オレがオスだから?」
ちゃり、とキィを取る音がして、近づいてくる足音が
響いた。
「オレ、おかしいのかなぁ?だから、アナタはオレを置いていくの?」
ああ、胸がキュウキュウしてる。
「オトコのアナタが欲しくて、発情してるようなオスだから、だからオレを置いていくの?」
それなら仕方ない。
「オレは…アナタが欲しいんだ。アナタに焦がれてる」
涙の音、煩い。
「おれは。いつだったかな、あンたに言ったろう?」
「アナタに触れられると、身体の奥から、蕩けていって、熱くなる」
いやだ。
聴きたくない。
「泣くな、そんなカオするなって」
「オレは…そういう風になるの、ハジメテだったから、最初、わからなかった」
そうだよ、わかんなかったんだ。
白々しい、軽い声。
無視する。
「皮膚が過敏になって、身体に火が点いたみたいになる」
「サンジ。少しは黙れよ、聞け。おれが、抱きてェ、って言ったのはホントウだ」
眼をあけて、ゾロの足を見る。
ジョーンと買った、スニーカー。
「オレ、アナタの腕にいると、幸せで…蕩けて。それから、熱くなる」
抱きたいって、わかんないよ。
「もっと触って欲しくて、もっとキスしてほしくて。アナタに夢中になる」
ず、と洟を啜った。
ゾロの溜め息が聴こえた。
「オレ、アナタに発情してる。アナタの声、聴いてるだけで嬉しくて、触れられるともっと嬉しくて。でも、どっかで足りない、
って、餓えてる」
やっぱり、おかしいのかな、オレ?
「オレはアナタの子孫を残してあげられないけど、アナタが欲しい」
ゾロを見上げた。
「オレは…アナタが欲しいんだ」
どうしたら、伝わるの?
「…オレは、おかしいの?どうかなっちゃったの?」
「同じだったら、どうする。おれが、あンたの身体を開かせて無理にでも中に入りたいっていったらわかるのか?」
…ゾロの言葉に。
「あンたを見ていると勝手に身体が渇く、っていえばわかるか?」
こくり、と息を呑んだ。
「…解るよ」
息をした。
「だって…オレも、そうだもん」
「だから。おれは逃げるんだよ、おれがあんたを抱いちまう前に」
ゾロの眼を見つめる。
「…どうして?オレは、アナタが欲しいんだ」
どうして、逃げるの?
「オレはアナタで満たされたいよ」
逃げないでよ。
「オレはアナタだけで、満たされたいよ」
他のなにもかも、いらないから。
「オス同士のセックスなんて、方法しらないけど。オレは…アナタと、したいんだ」
…アナタだけで、オレの総てを満たしてほしい。
「あンたは、おれにとって。最大の弱みになる、」
「自分の身は、自分で守れるようにするから」
だからお願い。
「そこのクマにも言われた。怖いのか、とな。怖いさ、おれはあンたを守りきれるとは思えない」
「いい。自分で自分を守るから」
オレがアナタを守れるようになるから。
「ゾロ、お願い。きいてください」
「何よりも、よく知っている世界だ。あのなぁ、自力でどうとでもなることじゃあない」
聴いて。
「…I want to make love to you」
「だから。酷でも。おれはオマエを欲しない、―――サンジ」
アナタと愛し合いたいんだ。
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