Sunday, June 16
負けたな、と思っていた。月明かり、ライトの照らす道を睨みつけながら。
けれど。それは酷く甘美な負けで。
シートに埋まる姿を眼の端に捉える。とろりと。藍が潤むほどの熱をもった視線と、絡む。
勝手に、口もとが笑みの形を作った。
片腕を伸ばし、頤に触れた。
「…にゃあ」
にこお、と。笑みを作っていた。

捕まったな、とも。自覚した。
意識を二分する。道と、手の伝える感覚とに。
分岐路を過ぎ、目印の岩を過ぎ。あとは、直線だ。
首筋の線にそって、指を滑らせた。とくり、と鼓動が伝わる。
「んん…」
喉元、撫で上げる。
耳に届く声は。ぼう、と穏やかで。
すこしばかり笑った。

「…にゃあ」
ああ、まったく。とんだネコを見つけちまった。
すう、と細められた目が。
艶を刷く。


ざ、と砂を巻き上げる音が響き。
エンジンを切った。到着。
キィを抜き取り、ドアを抜け出た。かち、と律儀にシートベルトを外している音が耳に残った。
反対に回り込み、ドアに手をかけた。
ああ、なにやってる?早く降りて来いって。
ドアを開けた。
する、と。首に腕が巻きついて。笑って抱き上げた。
笑い顔のままで唇を寄せた。

「…ン」
肩が、ちいさな笑みで僅かに揺れ。
口付けを解かずに灯かりの落とされた家へと向かう。
舌先がからかい混じりに唇をなぞっていき。ぺろり、と。コドモとオトナの中間の動きに煽られる自分がいる。
薄く唇を浮かせ、眼を覗き込みながら言葉にした。
ポーチから続く、開けっ放しの扉の前で。
「なあ?」
「…なぁに?」
ふい、とまた軽く啄ばんだ。
「随分と無用心なハネムーンスウィートだな?」
「…だって。必死だったンだもん」
言葉を終える間際、かぷ、そんな擬音が浮かぶような拙さで唇を噛んでくる。
開かせて舌を掬い上げた。
「…ン」
笑み。眼に刻みながら、開かれっぱなしの扉を抜ける。

腕のなかの身体を離す事など問題外だ。片手で雑に閉め、また辺りが暗くなった。
穏やかに充たされる気持ちと、張り裂けそうな渇きと。同時に背筋を伝い落ち。
抱きしめる腕に熱が篭もった。
する、と唇に滑り込んでくる柔らかな熱に。深く笑みがこぼれる。
確かめていくように探る、応える。

「…ン」
あまい、息が耳に届く。
そう、と捕まえて食むようにすれば。不満げに肩に回された手が、掴む力を増した。
ベッドルームまで、ほんの僅かの距離がひどく遠く思える。
オマエの上がる熱が時間までおかしくさせる。…・・・参ったな。

ぼう、と霞んだように。抱き上げられたままのサンジが。
切なげな息を洩らし。
その吐息を、ベッドに降ろしながら取り上げた。
前髪、梳き上げ額に唇を落とし。
頭を抱いた。
「…ゾロ」
頼りないほどの柔らかさ。頬にあたる。
なんだ、と額をあわせた。両の手はサンジのカオを挟み込んだまま。
「スキだよ」
長く、息を吐いた。
ふわり、と笑みが浮かぶ、オマエに。
愛おしさは、痛みに似ている。
「ああ、」
答え、頬を撫でた。指先、冷たくなっているのが自分でも判る。

「だから…しよう?」
「オマエが。イヤだって言ってもやめる気はねぇよ」
「…ウン」
ふわふわと。羽の散るような笑みが浮かび。
その一つ一つを唇で確かめる。
背に掌を滑り込ませて。薄いコットンを引き上げる。
「ン…」
ふわり、と金が散る。
乱れたソレを手で梳き、耳もと、口付けた。
「…にゃあ」
肩の骨の窪み、背骨の描くライン、撫で下ろし。
くすぐったい、と身じろぐのすらイトオシイ。
くすくす、と掌が肌をすべり、なぞるに連れて小さくこぼれていた笑いは吐息に変わっていき。
唇で肩に触れた。

「ン…」
薄い骨、確かめるようにたどり。窪みに熱を移し。
ふと。髪に手を差し入れられたのを感じた。笑みのままに喉の下、薄く歯を立てた。
「…は…ッ」
ひくり、と。指が縋る。
膝をついたまま、滑らせていった。滑らかな胸の線、ゆっくりと。
「…んん…」
掌の下、身体がふるり、とゆれたのが伝わる。
灯かりの落とされたなか、それでも茫と浮かぶようなオマエ。
淡く色を落とされたなだらかな胸にのるアクセントを含み。デニムに手をかける。

「…ブーツ…先…」
離れようとした身体を片腕で引き寄せ。
黙ってろ、と。ぷつりと、歯を立てた。
「…は…ぁ」
舌先で舐め取るほどに。
ウォーキングブーツ、こんなものを履いているオマエが悪い。
「…あ…ァ」

紐を解く間。耳もと。熱った指先が弄っていた。
気が散るじゃねえかよ?
カリ、と。立ち上がる胸の印、牙でうすく穿つ。
「…ぁン…」
ひくん、と脚が揺れた拍子に、ようやく紐が解けた。
ぺろり、と脇腹まで舐める。
「…は…ン」

自分の身体からシャツを落とし。
ブーツを遠くに放った。
腰、口付けた。
腰骨、掌でたどり。
身体を合わせる、肌の熱。取り込み、リネンに縫いとめる。
覗き込み、頬に口付けてみた。閉ざされてしまった眼を開けさせようと。
「…んん…」
「サンジ、」
とろり、と。潤んだ目が見上げてきた。
藍が、揺れる。ああ、おれはコレが見たかったんだよ。おまえの蕩けた眼の中に映るおれが。
見つめれば。熱った唇を、サンジの舌が舐め取っていた。

「エモノかよおれは」
わらった。
「…キス、して」
舌、閃かせて。唇より先に触れ合う。
「ふ…」
引き出す。
「…ン」
なあ、もっと。オマエを喰わせろよ。
擦り合せ、濡れた音をたてて。もっと、喰わせろ。

「ンん…」
頭を抱きこむ。噛み合わせ、ひくり、と喉が苦しげに動くのさえ。
一層に渇いていく。
脚にあたる硬い布地も。邪魔だな。
前を寛がせ、引き抜き。
「…ふ…」

膝を立たせ、愛撫する。
「ふァ…」
撫で下ろす、内の深いところへと。
「…あ…ァ…ッ」
熱を持った中心。手を伸ばしゆっくりと撫でた。薄い布地越し。
「…んぁ…ふ…ゥ」
手の動きに添って、腰が揺れた。

声が。
聞きたいかもしれない。
耳もとにずらせた。唇。
「…はぁ…ァ…ッ」
布を引き下ろし、直接に握りこむ。
「あ…ァ…ッ」
滑り込ませる掌、僅かに濡れた感触に知らずに口端が上がる。
「ふ…ァ」
揺らぐ腰、一層に引き寄せる。

「あ…ァ」
声の端、跳ね上がり。それでも、うっとりと微笑むのを見て。ずくりと、疼いた。
体温が跳ね上がる。
指先、指、手、手のひら。五感のすべて、オマエを愛撫する。昂みまで。
腕に、すがるように指が這わせられるのを感じながら。
「ぁア…んッ…」
耳朶、舌で濡らし。
「あ…ゥん…ッ」

「―――サンジ、」
音。
「…ッ…んン」
触れる下肢から。
潤んだ目が瞬き。
手の中で反る、熱をもったオマエが。震える。
洩れる甘い声に。
酔う。

「…ぞ…ろぉ」
ぐ、と。デニムを引かれた。
呼ばれる声が。沁みいる、どこか深いところに。
「―――ん、」
ああ、そうか。
デニム、自分からも取り去る。ひやりとしたリネンと。熱った肌と直に感じ取る。

「んん…」
「我侭いわねぇで、そろそろいっとけ」
足を摺り寄せ満足気な、笑いがおに向かって告げる。
「や…もぉ…ッと…ぉ」
押し付けられた腰、く、と先端を押し開き爪で押さえ込んだ。
「んああ…ッ」
擦り上げる
「はぁ…あ…ッ」

「…ぞ…ろォ…ッ」
腰をあわせて、一層。
キュウ、と手が腕を掴み。
「…ンあ…ああ…あああッ」
背が、反り上がる。
揺するように抱き寄せた。
びくりと大きく震えて熱が吐き出された。
掌、濡れる熱さ。
ふるふると抱きしめた体が震え、弛緩する。背中、強張りが解かれ。
洩れる細かな息が、耳もとを掠めた。
頬、唇で触れ。
「…ふ…ッ」

宥めるように、肩口に口付けを落とし。
身体をずらす、胸元から、たどり、浅く呼吸に揺れるすべらかな腰下までつづく線を。
藍を、目に捕えながら。
舌先でたどっていく。
「…ッ」
残滓、掬い取り。
薄い肉を食む。




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