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 おなかがすいた、と。
 あまく溶けて鳴いた同じ声が、たえだえ、といった風情で言ってきた。
 思わず、笑いがこぼれた。まったく、オマエは。
 身体を重ねたすぐあとには思えない、それでもどこかあまったるい呆れ混じりの愛情。
 そんなモノがぽかり、と浮き上がった。
 唇を落とす、まだ熱って赤い、ソレ。
 それでも、目が。ふわりと蕩けて。
 身体を浮かせた。
 
 放り出してあったデニムを雑に引っ掛けてキッチンへ向かう、水と。
 暗い中、フリーザーのモーター恩が耳についた。
 水、あとは・・・・ああ、そういえば。
 ふ、と記憶。
 揺れた。
 ヴァニラ・アイスクリーム。
 くすくす、と笑っていたサンジ。
 指を舐めとって、冷たいね、と笑っていたガキ。
 フン。
 
 フリーザーから取り出す。
 手っ取り早くカロリーと糖分はコレで取れるだろう、ぱしりとドアを閉め。
 ふ、と息を吐いた。
 自覚した、まだ。飢えている自分を。
 どうしようもねぇな、けれど。
 口角が勝手に上がった。
 水を一口含んでから。適当にスプーンを取って冷たい容器を手に。
 ベッドルームへ戻った。
 
 
 ドアを開けた。
 ベッド、真ん中あたり。
 ちっさな頭が変わらずにあった。暗い中。
 ドアの開いたのにも反応せず、くったりとしたまま。眠ったか?
 足音を殺して戻り。サイドテーブルの小さな灯かりを点けた。
 「…わ…まぶし…」
 する、と剥き出しの肩を撫でた。
 「…ふ」
 「タダイマ、」
 「おかぁーり…」
 なだらかな線、舌先で触れた。
 「んん…ぞ、ろぉ…」
 「みず、いるか?」
 「…うん」
 手を上げようとでもしているのか、けれどままならない様子に。
 口付けてやめさせた。
 「…ん…」
 頬を撫で。
 サイドテーブルからボトルを取り上げて口に含み、薄く開かせた唇の間に移した。
 
 「…ンん…」
 こくり、と。喉が動き。
 その僅かな動きや吐息にさえ。ソソラレル。
 ふう、と息を継ぐ、その様子まで。
 「手、持てるか」
 「…ダメ…チカラ、はいんなぃ…」
 何度か繰り返し。唇を重ねるごとに、離れがたくなり。舌を撫でてから離れ、啄ばんでから浮かせ。
 「ふ…ゥ」
 指先、なぞって確かめても。握り返す力がますます揺れる。
 「んん…」
 オマエに食わせる前に、また肉に歯を立てたくなってきた。
 そんなことをちらりと思い。喉もとに掌を沿わせる。
 「…ぞ…ろ…?」
 「そろそろ、溶けたとおもうぜ?」
 触れるだけの口付けをハナサキに落とし。
 半身を起こす。
 「…と、け…?」
 冷たい容器を手で手繰り寄せ。
 するり、と銀の匙を潜り込ませる、白い表面。
 掬い上げ。
 ひたりと。まだ冷たいソレをサンジの唇にあてた。
 
 「ヴァニラ」
 「…ぁ」
 に、と。わらったのだと思う、自分でもわかる。
 「食わせてやる、こんどはおれがアンタに」
 「…ン…」
 つるりと。もぐりこませた。
 「…んん…おいし…」
 口の中で溶かすように食べている。
 「オマエの中、熱いからな。すぐ溶けるだろ、」
 「…ん」
 ほら、どうぞ、とまた差し出す。少し唇から浮かせて漂わせ。
 こくり、と飲み込み。薄っすらと唇を開いている。
 斜めにした銀の先から。溶けかけたヴァニラが落ちていき。
 「ッ…」
 ひくん、と撥ねた。
 唇の赤に散る白。
 舌先で舐めとっていった。
 「ふ…ッ」
 「わるい、外れた」
 「…にゃあ」
 自分から匙に手を伸ばし。まだ匙を持ったままのおれの手ごと、口もとに持っていこうとしていた。
 ソレをやんわりと取り上げた。
 
 「…んにゃ?」
 ちゅ、と冷えた唇にキスを落とす。
 「にゃ…」
 啄ばむようにし。
 とろり、とサンジに笑みが浮かぶのをみていた。
 指先、ヴァニラを掬い上げ。離した唇の変わりに差し出した。
 「ん」
 「喰うか?」
 ぱくん、と指先ごと含み。
 つるりと舐めとる。
 「おいしい」
 ふにゃり、と浮かべる砂糖菓子めいたあまさの笑みを目の端に捕えながら。
 冷えた指先と、掬いとる湿った熱さを愉しんだ。餌付けもしながら。
 チビが。
 オトナはずるいなあ、と思っていた事を不意に思い出した。
 いや、チビ。
 「おれたち」は運がイイんだ。多分な?
 上機嫌なネコを甘やかし、時折口付けてからかいながら。
 そんなことを思っていた。
 
 ふ、と伸ばされた喉に。
 ぽとり、と溶けた塊を指の間から落とし。
 「わ…」
 舐め上げた。
 「ふァ…」
 「フン、美味いな?」
 肌が。ふわりと熱をもったのを。感じた。
 「にゃ…ぞ、ろ…」
 やわらかく食む、薄い皮フ。耳が拾うあまい声。
 「んん…ふ」
 
 「ゾロ、…アイス…は?」
 「ああ、食べてもいい」
 肌を吸った。
 
 
 
 ゾロに、アイスクリームを食べさせてもらった。
 ゾロの指から。
 冷たくて、甘いソレ。
 空腹感は、やがて埋まり。
 胸も、なんだか一杯になって。
 そういえば、ゾロもランチ食べてないよなぁ、なんて思い当たって。
 訊いてみた。
 オレの肌を替わりに舐めてたゾロに。
 
 そういえば、前はジョーンに食べさせてあげてたっけ。
 あの時は、ドキドキしたなぁ。
 今は、といえば。
 …実は、ウズウズしてる。
 空腹感が満たされてみれば、ゾロが開いていった場所が、妙に落ち着かなくて。
 感覚はまだ研ぎ澄まされたまま、ゾワゾワがぶり返していく。
 だけど。
 今は、ゾロにアイスを食べさせてあげようと思った。
 ゾロの指から食べてたら、なんだか不思議な気分になった。
 オレが、ケモノになったような。
 
 …ゾロ。
 本性は、きっと…オレの大好きな彼らに最も近しいもの。
 見てみたい、と思った。
 今度は少し余裕を持って、オレに餓えるダイスキなオトコを。
 ぞくぞくする。
 
 アイスクリーム、指で掬った。
 冷たい。
 笑った。
 差し出した。
 「ハイ」
 ドキドキ。
 赤い熱い舌が伸びて、クリーム色のそれを掬い取っていった。
 「…おいしい?」
 次のスクープを取る。
 いい具合に溶けたアイスは、指にやわらかく、リッチな感触だ。
 ゾロの瞳孔が、すう、と少しだけ細められて。
 ぞくぞくする。
 
 「もっと食べるよね」
 じい、と見詰めてくる目に笑いかけて、指を差し出した。
 餌付け、なんてもんじゃなくて。もっとキケンなことをしているような気分になるのは、ナゼだろう。
 アア、って低い声が答えて。
 口の中に含まれた。
 熱い中。
 すこしばかり甘噛みされて。
 「んん」
 ぞくりと這い上がった感覚に、声を漏らした。
 指先、てろりと舌先で撫でられた。
 「ふふ」
 笑った。
 
 もう少し掬った。
 カートンを抱え込んでるオレの腕、冷えてきたけど。
 中のアイスは、とろとろしだしていて。
 面白そうな光を浮べたゾロの唇に、アイスをそうっと押し付けた。
 指を伝って、溶けたクリームが垂れる。
 くすぐったくて、少し笑って。
 ゾロの唇に指先をつけたまま、自分でその雫を追いかけた。
 「んん…」
 自分の指を辿って、ゾロの唇に到達。
 
 引き込まれた指は、ねっとりとした舌先に舐められ。
 少し開いたその先に、舌を滑り込ませた。
 指を引き抜いて、代わりに舌を差し出す。
 ぞくぞくする。
 なんだろうなぁ、とてもイケナイことをしている気分に似てる。
 熱い舌先が、オレのを捉えて。
 くぅ、と弄くられた。
 ぴちゃ、と濡れた音がして。
 なんだか、そんな音に煽られる。
 
 アイスクリームのカートンを、サイドテーブルに乗せ。
 ず、と身体をずらして、ゾロにもっとこっちにきて、とベッドをトントンと叩いた。
 すい、と眉が引き上げられた。
 けれど、ちゃんとベッドの中央に、マットレスに脚を投げ出す形で座ってくれた。
 ドキドキ。
 わー…。
 なんか、…楽しい。
 ゆっくりと身体を起こして、膝立ちになり。
 それから、よいしょ、と心の中で呟きながら、ゾロの太腿の上に乗っかった。
 にゃはははは。
 楽しいぞう。
 
 「にゃあ、ゾロぉ」
 腰を掌が掴んで、熱を感じた。
 「ん?」
 「スキだよ」
 ちゅう、と吸い付いてみた。
 ゾロの唇。
 すぐに離して、笑った。
 なんだろう、この幸福感。
 さら、と背中、撫でられて、更に笑った。
 
 「そうか?おれは、」
 「ん?」
 「アナタをあいしてるよ」
 …わぁ。
 すごい。
 なんか、胸の奥。言葉が落ちていった。
 あったかくて、ほやん、ってしてる。
 泡みたいに、ふわふわ。
 
 
 
 
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