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 意識を飛ばしてしまった身体が、くたりと。全身を預けるように、自分に明け渡された。
 受け止め、その肌の熱さに笑みが浮かんだ。隙間無く、繋がったままの身体は酷く奇妙な感覚を連想させた。
 閉ざされた目の縁、零れ落ちた涙の名残がわずかに乗っていた。
 泣き濡れた頬に唇で触れた。
 上気してまだ熱が薄い皮フを通して伝わった。
 
 生ぬるい水、日に晒された海面に浮いているような感覚がじわりと拡がった。
 呼吸に合わせて、わずかに動く内にごく緩く締め付ける、というのでもない、埋められているとでもいうような。
 穏やかさ、に近い。
 確かに、欲情してはいるが。
 それと同時に、自分の内はひどく静かだ。奇妙なことに。
 この静けさの流れていく先は、多分。二つに分かれている。
 愛情と、後悔。衝動と渇望。
 
 もう一度、すぐそばにある頬に唇で触れる。
 ゆっくりと抱く腕に力を込めた。
 いつの間にか、少し縺れてしまった髪を指で梳いて。
 少しばかり、泣かせすぎたかなと苦笑が過ぎった。
 背中に痛感を感じ。こんどは小さく笑いが零れた。
 「やっぱり、あンたネコだな」
 そ、と声を落とした。
 
 呼吸にあわせて、穏やかだった吐息が少し浅くなった。
 身体に、感覚が戻り始めたらしいな、と思い。口付けてみた。軽く。
 「ん…」
 微かにうめいて、瞼がゆっくりと開けられた。
 見つめているうち、何度か瞬いて。深く息を吐いていた。
 僅かな刺激と、その眼の色を認めただけで、自分に熱が戻って行くのを感じ取った。
 「ふ…」
 凪いでいた感情がゆらり、と揺れるのを。
 「サンジ、」
 声に乗せれば。うっすらと笑みを浮かべ、熱の残る指が頬を撫でていった。
 抱きしめたまま、髪を撫でた。
 ゆっくりと口付けられた。そう、と。眠りの縁にまだ半ばいるようにしっとりとしたソレ。
 
 「天国、見てきちゃった…」
 半ば押し返すようにすれば、笑いを含んだ声がそう言っていた。
 ふわり、と笑みに蕩ける藍。
 「あれだけ泣いたのにか、」
 眦、口付けた。
 「…ウン」
 ふぅ、と息を吐く。
 背骨に添って、指を長く落とした。描かれる微妙な線を。
 中が。きゅう、と締め付けてきてサンジが小さく笑った。
 「ふふ…ゾロ、すごい、ね」
 
 身体を入れ替えた。とさり、と金がまたリネンに散った。
 見下ろす。
 「ん…」
 じわり、と拡がる快意。
 まっすぐに見上げる藍が、蕩けている。
 ゆるく、身体を押し上げた。
 「は…ぁン…」
 「眼、美味そうだな」
 瞼に舌先で触れた。
 「ゾ、ロの…も」
 くすくすと微かな揺れが。伝わる。
 「やるよ、」
 口付けた。
 「…ん」
 伸ばされた手に、頭を抱きこまれるのを感じた。深くなる繋がり。
 
 「んん…」
 ゆっくりと味わう、逃げる舌を追い、歯列のその裏までもなぞり。
 こくり、と喉が上下するのに煽られる。
 じんわり、と。
 「んぁ…」
 息を継ぎ、吐息を洩らすサンジの。熱が、挟まれた体の間で戻り始めるのを感じ取る。
 唇だけを啄ばみ、舌先で触れ。
 「んん…ぞ、ろぉ…」
 「溶かしてやるよ、好きなだけ」
 声に乗せた。
 「うん…して…」
 
 耳朶を食む。
 「ふぁ…」
 「止めなくても、泣いちまうか、オマエ?」
 「オレが、泣くのは…嬉しいから、だから…」
 笑うように、蕩けた声。
 「もっと…しよう…?」
 食んでいた耳朶から舌先を潜り込ませ。蠢かせる。中を広げたその同じ動きで応えた。
 「んん…ぞくぞく、するよぉ…」
 くちゅり、と音を漏らす。
 「あァ…んん」
 
 薄くわらって。小さく震えた身体、巻きつくように上げられていた足を下ろさせる。
 身体を抱き上げ、背を浮かせるようにし。
 「…ッ、っく」
 一瞬、身体を引こうかとも考えたが、却下した。
 抱き起こす。
 膝の上。
 
 「サンジ、」
 「んん…っふ」
 ちゅ、と唇を頤に落とし。そのまま首筋を下ろした。
 「は…ぁ」
 肩口、歯を立て。
 「っあ」
 「身体、反せ」
 きり、と牙を立て、舐め上げた。
 
 
 
 初めてセックスで気を失った。
 快楽。
 苦痛。
 その向こう側、海と空の間の場所。
 そんなところを、飛んでいた気がする。
 でも。
 そこは、とてもきれいで穏やかな場所だったけれど。
 目覚めた、ゾロの腕の中。
 まだゾロのもの、体内に留められたままで。
 
 熱い吐息。
 熱い皮膚。
 汗で濡れて、体液の名残に粘ついて。
 そういう場所。とてもいとおしい。
 ゾロの腕の中。
 ここが、オレがいたい場所。
 
 口付けて、身体を反転させられて。
 見上げたゾロのグリーン・アイズ。
 サイド・ランプに照らされて、キラキラ。
 まだ餓えを湛えたままの、ソレ。
 すごく、きれいで。
 ゾロはオレの眼が、美味しそうだと言った。
 オレは、ゾロの眼のほうがイイと言った。
 そうしたら、くれるって。
 オレに、ゾロの眼、くれるって。
 
 オレは…ゾロに、いつもオレだけのこと、見ていて欲しいとは思わない。
 世界は広く、やらなければいけないことも多いから。
 だけど、オレをその眼に映す時は。
 オレだけを映してほしいと思う。
 世界も、立場も、全部忘れて。
 
 少し動かれて、身体がまた熱を帯びていった。
 今日は、もう…3回も、しちゃったのに。
 …んん?朝入れると、4回…?
 それでも、まだゾロに応える自分の身体。
 可笑しくて。
 くすくすと、笑いが洩れていった。
 快楽に喘ぎながら、とても穏やかな気分。
 すぐに、何も考えられなくなるのだろうけど。
 
 ゾロの口が辿っていって、上半身、何箇所か、噛まれた。
 甘噛み。
 気だるい身体、すぐに火が点いて行く。
 抱き起こされて、ゾロの膝の上に戻っていたけど。
 身体を反せって、言われた。
 
 ふふ、ゾロ、だめだよ、オレを噛んでちゃ。
 チカラが戻らないってば。
 
 喘ぎ声に乗せて、そういった意味のことを言った…と思う。
 ああ…一度、外さないと、痛いかなぁ…?
 頭の中で、反転する方法を考えたけど。
 いくらオレでも、うん、そこまで身体、柔らかくないかなぁ?
 ゾロは、からかうような、けれどとても暖かい眼で、オレを見てた。
 ふう、と息を吐きながら、ゾロに口付けて。
 膝立ちになっていた身体を、ゆっくりと浮かせた。
 「…あ…あ…は…ッ」
 くちゅ、と音を立てながら、ゾロから離れる。
 抜かれる楔の引き起こす快楽に喘ぎながら、すう、と眼を細めたゾロに、笑いかけた。
 とろ、とゾロが抜けると同時に、何かが内腿を伝い落ちていって。
 「んん…ッ」
 ふるり、と身体が勝手に震えた。
 
 乗っかっていたゾロの膝から、少しずつ身体を離していって。
 ゾロが触れてくれた頬の感触の柔らかさに、うっとりとなって。
 緩慢な動作でゾロからシーツに視線を落としながら、四つん這いになった。
 …あ。
 この体勢だと…まるみえ、なのかなぁ。
 オンナノコたち。
 こういう格好をするのは…恥ずかしいものがあるんだぞ、って力説してくれてたっけ。
 うん、いまなら解るかな。
 あー…きっと…サイドランブに照らされて、隅々まで、ゾロに見られてる。
 うひゃあ…恥ずかしいぞぉ。
 …うん、全部ゾロにあげるって、決めてはいてもさ。
 ふるり、と身体が震えた。
 
 腕に力が入らなくなって、胸を冷たいシーツに付けた。
 腰に、ゾロの熱い掌が当てられて。
 ぞくぞくぞく。
 そこから、蕩け始める。
 ぐ、と引き寄せられて、腰を少し落とした。
 肩甲骨の窪み、ゾロの熱い舌が押し当てられた。
 「…っふ」
 短く息を漏らす。
 思わず体重を移動させて、深くなった窪み。
 ゾロの唇が辿って、舌を差し入れられた。
 浮いた骨に、歯が立てられて。
 「んあ…ッ」
 シーツを握り締めて、喘いだ。
 
 もう片方の手は、シーツに押し付けていた胸の下にもぐりこんでいて。
 僅かにあった隙間の間から、きゅ、と立ち上がった胸の飾りを弄くっている。
 ひくり、と。
 後ろの襞が蠢いたのを、自覚した。
 また身体に血が走る。
 吐く息は、すぐにシーツを暖めていって、クラクラする。
 頚椎のところ、舐め上げられた。
 ぞわぞわぞわ。
 薄く浮いた筋に沿って、舌と唇が交互に入れ替わって、降りてくる。
 
 「っく」
 「甘いな、」
 低い声が、言った。
 もう片方の手は、腰骨を掴んだまま、時折揉むように、力が入れられる。
 「んあ…あ…ッ」
 ゾロはオレが甘いという。
 オレも、熟れて甘くなってると思う。
 だけど…オレを甘くしてるのは、きっとゾロだ、と思う。
 アナタじゃないと、オレは蕩けないし。
 ここまで底なしにやわらかくどろどろにならないと思うし。
 オレは甘い食べ物。
 ゾロのためだけに、熟す。
 …幸せ。
 
 かぷ、と腰のところ、噛んでいった。
 「…ッあ…!」
 痛いのかキモチイイのか解らない、刺激。
 でも、きっとこれはキモチイイもの。
 だって、オレは望みどおり、ゾロに食われてるんだし。
 そのまま、舌と唇と、時折立てられる歯が、腰のラインを辿っていく。
 はむ、と噛まれるたびに、腰が震えて。
 ぽたり、とシーツの上に、雫が落ちる音が、妙に鮮明に聴こえた。
 
 ヒップを、熱い手が掴んだ。
 ぞくぞくぞく、と身体に震えが走り。
 まだ閉じきっていなかったソコを、押し開いた。
 「う、あ…、は…あァ」
 熱い息、ソコに当たる。
 ああ…すごく…恥ずかしい。
 「オマエの、溶けそうだ」
 かぁって、顔に血が昇ったの。ぜったい聴こえてる気がする。
 「んん…っふ、ぞ、ろ…ぉ」
 硬く尖らせた舌先、じんわりと襞をなぞっていって。
 ふるる、と身体が震えた。
 きゅ、とそれは勝手に閉じようとし。
 チカチカと目の前が白くフラッシュした。
 
 「んんあ…ッ」
 腰が揺れる。
 すぐにひきもどされる。
 「美味そうだな、色づいてる」
 もっと強い力で、押さえつけられる。
 「ああ…ッ、ぞ、ろぉ…ッ」
 そんなに見ないでよぉ。
 すごい、恥ずかしい…。
 舌全部を使って、強く舐め上げられた。
 …母犬が仔犬の尻を舐めているような。
 
 「ふぁ…あー…」
 ダメだ。
 頭、熱くなってて。
 思考が途切れはじめる。
 きゅう、と舌を差し入れられた。
 まだ締まりきらない襞は、奥までそれの侵入を享受して。
 「ああ…ッ、ゃあー…」
 指が、じんわりとまわりを押してから、中に入り込んだ。
 舌と入れ違いで。
 比べ物にならない、硬さ。
 ぞわぞわが戻ってくる。焦らすように、指はゆっくりと奥のポイントに向かって蠢いていって。
 排泄感と圧迫感と、それとはベツの快楽が思考の総てを支配していく。
 短く喘いで熱を逃がしながら、勝手に揺れる腰に、シーツを握り締めた。
 
 「サンジ、」
 不意に覚えのある場所。
 ぐり、と抉るように撫でられて。
 「あああああッ」
 腰をぐ、と動かして逃げようとした。
 すぐに戻されて、更にそこを弄られる。
 「はぁ、あ、あ、ゃあ、あ、ああッ」
 濡れた音。
 「もっと、聞かせてくれよ」
 耳から刺激を送る。
 ゾロの低い声。
 脳味噌が痺れる。
 
 空いた方の手が、膝を撫で上げて。
 「く、あ、あ、あぅ、は、あ、あぁ」
 震えが走る体、筋肉から力が抜けていく。
 指、ワザと擦るようにして、引き抜かれた。
 「〜ッ」
 息を呑む。
 きゅ、きゅ、と2回、襞がなくしたゾロの指を惜しむように収縮した後。
 ぐぐぐぐ、と。
 ゾロが入ってきた。
 力の加減、今度はなく。
 
 「〜あああッ、はぁ…ッ、ああッ、はあ…ぅ」
 痛みと衝撃を逃がそうと、声を上げると。
 まるでそれに沿わせるように、ぐ、ぐ、とゾロが奥へ、進んでくる。
 眼の奥。
 光が踊る。
 シーツに爪を立てる。
 ゆっくりと、ゾロの手が、それを握った。
 「ま、って、ぞ、ろ…ッ」
 「いい、から。」
 走り出した思考の尻尾を掴まえて、言葉を積むいだ。
 
 「やぁ…ま、って…ッ」
 奥までずん、と突き入れられて。
 もう片方の、ゾロの熱い手が、ぐちゅぐちょに濡れていたオレの中心を指全体で触っている。
 「ふ、ッ、ア…ッ、はぁ…、ッ、あああ…ッ」
 ゾロに穿たれているそこからも、濡れた音が聞こえてきて。
 たまらなく、なる。
 それなのに、ゾロの指先、少し伸びた爪は、濡れた先端をグリグリと弄くっていて。
 「あああッ、ふあ…ッ、はぁ…ん、ああああ…ッ」
 腰が、リズミカルに突きたてられていくのに合わせて、勝手に揺れる。
 耳の近くで濡れた音が響いて、きゅう、と噛み付かれた。肩を。
 
 「―――サンジ、」
 「い…あ〜ッ…」
 どこがどう、気持ちいいのか。
 身体のどこを、刺激されているのか。
 全部、混ざって。
 熱くて、溢れて。
 シナプス、電流が多すぎて。情報を上手く処理できない。
 ただ、熱くなって。
 ただ、いっぱいになって。
 ただ、溢れてって。
 ゾロの艶っぽい声を訊きながら、腰の奥が、カーッと熱くなって。
 脚が震えて。
 「ゃあ…ああああッ」
 ぎゅう、っと一点に熱が集中して、またゾロの手を、濡らした。
 捕え切れなかった分が、腹から胸にかけて飛び散って。
 ぽたぽたぽた、とシーツに、雨音のように降り落ちた。
 
 ぎゅううううう、と。
 強く強く、腰を掴まれて。
 耳元、低い声がする。
 オレの名前、呼んでる。
 「ッ、ぞ、ろぉ…ッ」
 ぎゅうう、とゾロを締め付けて、まだ熱を帯びたゾロのものに、快楽の強さを伝えた。
 濡れそぼったオレの中心部、ぐちゅぐちゅと音がするのを、まるで愉しむように、ゾロが弄っている。
 冷たい震えが、一瞬走って。
 またすぐに、熱くなっていく。
 
 「―――ふ、」
 ゾロの声、低く抑えた。
 堪えてる、声。
 取り込まれそうだ、って。
 どこか、焦ったような、愉しんでいる声。
 まだクラクラとする頭の中で、響いた。
 項、口付けられる。
 「あ、は、あ、あ、あ、あン、あ、あ」
 まだ荒い息を繰り返しながら。
 再び襲い掛かるゾクゾク感に、身体を震わす。
 耳の後ろ、き、と噛まれて。
 「にゃ…あ、ッ、あァ…ッ」
 頭を振った。
 
 オレが落ち着くのを待ってくれないのか、ゾロの手は、ぐっちぐっちとオレのを扱き上げて。
 奥の、グラインディング・スポットを小刻みに刺激していく。
 「やぁ…ッ、ぞ、ろぉ…ッ、も、やぁ…ッ」
 ぎゅうう、とゾロを締め上げながら、せめてもう少し待って、と思うのだけれど。
 きゅう、とオレのものをきつく握り込まれて。
 塞き止められた吐精本能の替わりに、涙が零れていった。
 
 「ゾロ、もぉ…ッ、ね、え…ッ」
 熱い舌が、目の下を舐めていった。
 手の動き、少しだけ和らいで。
 「ふッ、う…ッ、うン…ッ」
 嗚咽交じりの声を散らす。
 やわやわ、と揉まれて。
 ぎゅう、と痛いほど、精嚢が張り詰めて。
 いけよ、って声が、耳元でした。
 「や、ゾロも…ッ」
 頭を振ったけれど。
 ぐ、と奥を突かれて。
 
 「や、あ〜ッ」
 仰け反った。
 全身が、どうしようもなく痙攣して。
 背中噛まれた。
 「〜ッ」
 思い切り、吐き出して。
 ぐぐぐぐぐ、と全身の動きが一瞬止まった。
 
 く、とゾロがうめく声が漏れて。
 最奥で、熱が散ったのを、薄れ行く意識が感知した。
 びくびく、と身体は勝手に震えていたけれど。
 真っ白に、脳味噌が染まって。
 二度目の天国へのトリップを開始した。
 オマエをあいしてる、って。
 遠くの方で、ゾロの声が聴こえた。
 それが、最後、で。
 
 
 
 
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