Sunday, June 16
黒髪のカノジョが、笑ってた。
「ほら、言ってみるものでしょう?」
夢の中。たゆたう。
それきり、オレのアニムスは、黙り込んで。
笑顔のまま、消えていった。
オレの中に。
たぷん、と波間に揺れる。
身体全体、ゆらゆらと、温かい水に浸かっているみたいだ。
眼を瞑った。
次に気付いたら。
腕の中。
抱き込まれていた。
まだ起きてはいなくて、夢うつつ、だったけど。
しっかりと、腕に抱かれているのを知った。
眠気が、急速に遠のいていって。ぱちん、と意識が覚醒する。
眼を開けた。
腕。
うん、重い…けど。気にならない。
暖かくて、ほんわかする。
瞬いて、空気を少し吸い込んだ。
ゾロの、におい。
充ちている。オレを包むように。
そうっと首を動かして、すぅすぅと、とても心地よさそうな寝息を立てているゾロの方を見た。
真横。
眉間に皺は寄ってない。
よし。
瞼は、しっかりと閉じられている。
うん、いいね。
とても…無防備に、寝ているみたいな顔。
無表情、だけれど。警戒してないのが、いいね。
オレ。
アナタに。
安心を、あげられたかなぁ?
そうっと腕を伸ばして、ゾロの頬に触れる。
「…ダイスキだよ」
そう呟きながら。
同じ寝顔なのに、ジョーンとゾロ。その表情は、とても違う。
ジョーンは、とても…寝ることを拒んで、でも拒みきれず。仕方ナシに寝てしまった、というような顔をして寝てた。
ゾロは…あんまり寝顔、見せてくれなかったけれど。耳をピンと立てて、いつでも起きれるような気配をうかがわせてた。
さすがに、それは初日はなかったけれど。
そうっとゾロの頬を撫でる。
眉。
鼻。
頬。
それから、耳。
ゆっくりと撫でてみた。
いとおしさが、胸の奥から込み上げてきて。微笑みが勝手に、零れた。
手をゾロと自分との間に休めて。眼を瞑った。
そういえば、昨日…とてもすごい状態で、寝た気がした。
んん?…あれ?
あ…あれ?オレ…気を失ったんだっけ?
…でも…身体、さっぱりしてる。
シーツ…あれ?しっかりと糊が利いてるヤツだ、コレ。
…んん?
ゾロ、…やってくれたのかなぁ?
うーん。腕力はあるから、オレ一人くらい、風呂に入れられるだろうけど。
けど、オレ、一応順調に育ちつつある男子だぞ?意識失ってると、重くないか?
身体ごと、ゾロに向き直ろうとして。下半身が、まったくいうことをきかないことに気付いた。
なんていうんだろう…気だるさマックス。
それに…うあ、なんか…うずうずピリピリしてる。
ゾロを、…受け入れてたとこ…。
かああ、と。勝手に頭に血が上った。
一気に体温が上昇して。…なんだか、湯気が出そうだ。
そんなオレの変化に気づいたのか。
ゾロがぱち、と眼を開けた。
わっちゃあ、一人で真っ赤になってるなんて。
ゾロのこと、思い出してたの、バレバレだ、きっと。
すい、と緑の眼が、オレに笑いかけてきた。
オレは照れてたけど。
やっぱり同じ様に笑いかけた。
「オハヨウ、」
ゾロの笑顔、嬉しいし。
「おはよう、ゾロ」
きゅ、と抱き寄せられた。
ジェリーフィッシュみたいになってる身体を。
頬に唇が当てられて。
ダイスキだよ。
そう呟かれた。
それから、軽く唇に移って。
あいしてるよ。
囁きにも似た声が、告げた。
もう一度、おはよう、と言って。ぎゅむ、と抱きしめられた。
髪にキスされる。
オレは、声を出して笑った。
うわぁお。嬉しいなぁ。
ゾロをぎゅう、と抱きしめ返した。
「おはよう、ゾロ」
髪を撫でた。
「ダイスキだよ」
頬に唇を寄せた。
「愛してくれて、ありがとう。オレ、すごい、嬉しい」
もう一度、頬に口付けた。
「ゾロ、アナタを愛してるよ」
とても、穏やかな気持ちで、と。そして、嵐のような気持ちで、と。
愛してる、と告げる時に。そんな二種類の強さがあるのを知った。
「オレ、ずっとアナタに恋してた」
うん。ここ数日間の嵐のような感情の正体。
オレはゾロに恋してた。
さら、と髪を撫でられた。
ゾロの耳に、触れた。
「それで、まだ。オレはアナタに恋してる」
Yes, I'm in love with you。
歌うように告げてみた。
ゾロの顔が、少し離れて。
とても柔らかい目許のまま、ゾロがオレを見た。
ちゅ、と柔らかく口付けた。
「オレ、アナタに狂ってるね」
笑った。
Madly in love。
ステキじゃないか。
「気をつけろよ、」
「ウン?」
からかうような口調に、微笑みを返した。
「付け上がらせると、骨まで喰うぞ」
髪をくっしゃくしゃに、撫でられた。
くすくすと、笑った。
「本当のコトだもん」
うん、ゾロに撫でられてると。
身体がやたら重いの、とか。あそこがひりひりしてるの、とか。
忘れられるから、不思議。
「けど、食うのはもうちょっと待ってね?」
すい、と表情が真摯になった。ゾロの。
「今はちょっと、キツいかもしんない」
苦笑した。
うん、ってゾロが頷いた。
「起きられるか……?」
「んー…さっき、身体、横にしようと思ったんだけど…」
あー…なんだか、これを申告するのも、チと恥ずかしいぞう!
「なんか…重くって。ちっとも動かないんだ」
ああ、ってゾロが言って。剥き出しの肩、そうっと熱い掌が撫でていった。
無理させたからな、って。
殆ど独り言のように、ゾロが呟いて。
「でもね?」
オレは続ける。
「―――ん?」
「すっごく、幸せなんだ、今のオレ」
笑った。
「なんか、身体は重いんだけど、…気持ちがぽわんぽわんしてる」
「ったく、オマエは」
くすくすと、笑う。
「オレは、ゾロに。骨の髄まで蕩けさせられたんだなぁ、って思うとね?それがオレの望んでたことだし」
めちゃくちゃ、嬉しい。そう告げると。
ゾロは苦笑して、
「そんなに可愛くてどうするんだよ?」
そう言って、片眉を撥ね上げた。
「アナタに愛される。ダメかな?」
笑った。
「仰せのままに、」
うん。有頂天って、コレだ。この気分。
ちゅ、ってキスされた。
うーん、嬉しいぞう。
にゃははん。
「…今、何時だろうねぇ?」
すっかり体内時計は狂っちゃったような気がする。
「さあ?9時前か、」
カーテンの向こう、大分明るくなってきてるみたいで。ゾロが腕を伸ばして、カーテンを捲った。
「うわ、まぶし…ッ」
眼をぎゅ、と閉じた。
「なんか…凄い、明るく感じる…」
ゾロも片目を瞑って。
「ハ!昼近いか?」
ゾロ。ケラケラ笑ってる。…ジョーンと、同じトーンだ、これは。
オレも笑った。
うん、ゾロの中におかえりなさい、ジョーン。
ゾロの肩に、手を伸ばして触れた。
うちゅう、とゾロが、オレの喉にキスをして。
それからゆっくりと起き上がった。
「寝てろ、」
「ウン」
笑った。 ゾロも、おなかすいたよね?
「きょうは床掃除にでもチャレンジするか」
「うわ!よろしく!!」
「出来ねえよ」
軽口を叩いたゾロに思い切り意気込んで応えたのに。ゾロはにぃって笑った。
「あー…じゃあ、箒で掃くのは…?」
「ムリ。」
「うあ。ええと、チャレンジしてみない…?」
昨日、ドア開けっ放して行っちゃったから。多分、実にすごいことになってると思う、リヴィング。
きっと、砂だらけ、だ。
ゾロがふふん、って笑った。
「おれは、バスルーム担当だからな?」
「うーん…でも、オレ…ああ、頑張って起きないと」
「いいから、」
よ、と力を入れた途端。ぴり、と後ろが傷んで。
「〜ッ」
「ホラ、みろ」
小さく息を呑んだら、ぎゅ、って頭抑えられた。
「何か作って持ってくるから。待ってろ。リクエストは?」
「あう…なさけないにゃあ…」
「あのなあ、オマエにぴんぴんされてたらおれの方が情けないぜ?」
ふう、と息を吐いて、ゾロを見上げた。
「…え?そういうもんなの…?」
…いまいちよくわからない。
けれど。ゾロの顔。半分、からかってる顔だ。…どっちが本音なんだろ?
ぷる、と頭を振った。
リクエスト。ブランチ?
さらさら、と喉を撫で上げられた。
耳のとても近くで、ゾロの声が、ほら、なにがいい?って、呟いた。
「ええと、じゃあ。ベイクト・ビーンズにソーセージ、あとはパンと目玉焼きがいい」
こくん、と唾を飲んだ。
「了解、食欲があって多いに結構」
「できれば、オレンジジュースとお水も欲しいです」
「お持ちいたします、サンジ殿」
…どの?
「…ゾロ」
ひらひら、って手を振って。ゾロはドアを出て行きかけ。
「ん?」
「でも、オレ。キスが欲しい」
振向いたゾロに言った。
はは、ってゾロが笑った。
…素直に言ったんだけどなぁ?
ゾロがズカズカと歩いてきて。きゅ、ときつめに唇を吸って。
それからまた大股で戻っていった。
「…ふは」
ゾロが開けっ放しのドアの向こうに消えていってから。オレは小さく笑い声を漏らした。
ああ、ゾロ。
やっぱり、オレ、アナタが。
ホントにホントにダイスキだよ。
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