ゾロがスキだ。
それこそ、どうしようもないくらいに。
キッチンで洗い物を終えて、電話でリトル・ベアに話してるゾロに抱きついた。
ゾロを、全部独り占めにしたかった。
こんなにもオレのものなのに、不思議だね?
ゾロが。リトル・ベアと話してると。
半分がジョークだって言った。
オレが兄弟子と話している時は、殆どが勉強だ。
…兄弟子は、よく相手にしている人を試すから。
きっとそれがゾロを測る目安なのだろう。
ゾロは、きっと寂しそうなオレに気付いたんだろう、弟子になる気はないぞ、って笑った。
それはそうだろう。
だって、ゾロは。
…もう決めてしまったもの。
生きていく、その方向性を。
生き方を。
掌で触れる熱。
腕の中に、息づく身体。
強く、脆いもの。
生は闇に灯る一瞬の光。
ゾロが歌ってくれた曲。
オレは知らないものだったけれど。
急に寂しくなった。
強い想いの歌、なのに。
…オレがもし、王様になったら。
ほんとうに、アナタと共に、あるために。
総ての力を差し出してしまうだろう。
セトの古いテープの中にあった曲を思い出した。
ゾロが、言いかけた言葉。
オレをなにかに引きずり込むくらいなら…オレを引き離す、かな?
引き離される痛みを与えられるくらいなら。
どうせだったら、殺していってくれればいいのに。
ゾロ、そうしてくれるかなぁ?
ほの暗い想いが、初めて、心に灯った。
甘い誘惑。
でも、今は、この砂漠の家に2人きり。
ゾロに笑いかけた。
ねぇ、こんな想いに囚われるくらいなら。
オレを愛して、って。
ゾロは、ふ、とどこか寂しげな笑みを浮べて。
ベイビィ、オマエはまだ本当の愛ってヤツを知らない。
辛そうに少し目を伏せて、ぽつりと言った。
オレは、本当に知らないのかな?
…どうだろう、ゾロの言う愛ってなに?
そう思ったから。
「だったら、アナタがオレに教えて」
笑いかけた。
オレはアナタを知りたいから。
アナタの闇に、手を伸ばす。
ゆら、と一瞬、ゾロの周りが暗くなった。
深遠に潜む闇。
抱き込まれ、抱き上げられて。
それがオレに蔦みたいに絡んできた。
いいよ、おいで。受け入れるから。
それも、アナタの一部だから。
微笑みが、頬に上り続ける。
ベッドにトスンと下ろされた。
点けておいたベッドサイドランプが、柔らかなオレンジの光を闇に灯す。
オレはね、ゾロ。
アナタを愛するって決めたとき。
アナタの総てを愛す覚悟を決めたんだ。
だから、アナタがその闇を見せてくれるっていうのなら。
オレは、よろこんで、受け入れるよ?
ゾロの緑の目を横切る闇を、見詰めていたら。
大きな掌、遮るように落ちてきて。
目を閉じた。
口許、息を感じて。
口付け。
笑みが浮かんだままの唇に、柔らかく押し当てられて。
じわり、とそのまま唇を食まれる。
目を閉じてなお見える闇が持つ凶暴性とは裏腹に。
やわらかく、やさしく、蕩けさすような口付け。
思わず、息が零れる。
手は背骨に沿って、ゆっくりと降りてくる。
曲線を愛しむような、優しい手付き。
昨日の激しさとは打って変わって、壊れ物を扱うような穏やかさ。
デニムから裾をゆっくりと引き抜いて。
緩くなった布地の間、ゾロの手が滑り込んできて。
ゆっくりと脇腹を辿り、肩甲骨まで上がっていった。
「…ふ…」
零れた吐息も、啄む口付けに奪われる。
骨の窪み、く、と指先が押し当てられて。
マットレスに着いていた手。
少し力を入れられて、く、と少しだけ曲げた。
骨が更に浮き出る。
指先が、容を確かめるように、深くなぞっていく。
浮かせた唇の間、ゾロの舌が滑り込んできて。
オレの舌を掬い上げてきた。
応えて…いいのかな?
柔らかな、愛撫。
どこか宥めるような、それ。
トン、と肩がゾロの胸に押された。
背中にあった手が、体重を支えて。
ゆっくりとシーツに倒される。
夜気に冷えたリネンが、やけに冷たく感じる。
「…ん…」
ひくん、と。勝手に指が跳ねた。
背中に置かれた手はそのままに。
もう片方の手が、跳ねた指先を撫でて。
それからゆっくりと肩口まで辿り落ちてくる。
「…ふ…」
沈黙が耳に痛い。
零す吐息すら、どこか咎められるような。
どこまでも甘い愛撫、それなのに。
ピン、と張り詰めた糸がある。
柔らかくオレの舌を撫でていたソレがするりと抜けていって。
薄く唇が浮いて、ゾロのそれが笑みを形作ったのを知る。
ちゅ、と甘く濡れた音を立てて、触れていって。
背中にあった手、身体の横を音も無く滑っていって。
着ていたTシャツを引き上げていく。
そろそろ、とずらされる布地。
それすら快楽を生む。
「ふ、ぁ…」
湧き上がった熱を、吐息に逃がして。
さらり、と渇いた掌が肌を撫でる。
腰から首元まで。
ぞく、と快楽に肌が粟立った。
next
back
|