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 鎖骨に添うように、指が広げられた。ひた、と。
 浮き上がった骨を覆う皮膚。甘く噛んで、つら、とその容を舌先が追った。
 ぴくん、とまた指が跳ねて。
 「…ぅん…」
 熱く濡れた感触に、うめいた。
 
 空いたほうの手首。
 そうっと握られて。
 持ち上げられた、ゾロの肩の方へと。
 手を、ゾロの背中に滑らせた。
 ああ、たったそれだけのことなのに。
 オレは…許された、と思った。
 何に、かは解らないけれど。
 
 ゾロの息がゆっくりと首筋に移っていくのを、敏感になった肌が追っていく。
 じんわり、とそこを噛まれた。
 「…ふ、う…」
 きゅ、とゾロの背中に爪を立てる。布越しに。
 舌が啜った。
 何度も何度も、繰り返し。
 
 手は身体の線を辿るように。ゆるゆる、と撫でていく。
 温い水に浸っているような、穏やかで緩慢な快楽が。
 ヒタヒタ、と体内に溢れてくる。
 耳元。落とされた低い声。
 サンジ、と。オレの名前を呼んだ。
 ゆっくりと瞼を押し上げた。
 
 目の前。
 緑の眼が、光を弾いていた。
 捕らわれる。
 うっとりとした笑みが、勝手に浮かぶ。
 
 それでも、オマエは受け入れるっていうのか。
 低い抑えた声が言った。
 シーツに所在無く放置していた手を、ゆっくりと持ち上げた。
 冴え冴えとした、ゾロの眼。
 ゾロの頬を撫でた。
 「…ウン」
 
 見詰めてくるゾロに、ゆっくりと口付けた。
 眼を合わせたまま。
 「…アナタが、欲しい」
 囁きを、吐息に滑り込ませた。
 頬を、掌で包む。
 オマエに、すべてはやれない。
 そう応えが返ってきた。
 「ウン…でも、それ、でも」
 どうしようもなく、オレの気持ちはアナタに向かうよ。
 「アナタが欲しいよ、ゾロ…」
 
 ああ、これが愛じゃないっていうのなら。
 なんなんだろうねぇ?
 勝手に涙が零れ落ちた。
 微笑み。
 低い声が、自嘲するような色を載せて。
 それでも。オレはオマエの灰さえも自分のモノだというだろうな。
 柔らかく囁かれた。
 大きな掌、瞼を覆って。
 その上、口付けが落とされたのを、音で知る。
 
 「…アナタを、愛してる」
 音にならない囁きで、伝える。
 この身も、想いも、すべて。
 オレはアナタに差し出すから。
 アナタの全部を、オレにくれなくていいから。
 オレを、愛して…?
 
 どうしてだろう、涙が止まらないや。
 ぽろぽろ、と頬を転がり落ちていく。
 いつも、だなんて我儘は言わない。
 一生、じゃなくてもいい。
 だけど。
 一緒にいる時は。
 オレを、愛して?
 それだけしか、望まないから。
 唇が、零れた涙を受け止めた。
 
 するり、と髪を撫でられて。
 手が、ふ、と目許から浮いたのを感じた。
 代わりに、押し当てられるのは唇。
 「ゾロ…」
 ゾロの耳のピアスを弾いた。
 その腕の手首、握りこまれた。
 「愛してる…」
 ぐ、と握りこまれた。
 手首全体で、ゾロの手を感じる。
 く、と開かされた掌。
 柔らかな唇の感触。
 「だから…オネガイがある」
 アナタしか、愛したくないから。
 「オレがいらなくなったり、ジャマになったりしたら…」
 眼を開けて、ゾロの視線を捕える。
 微笑む。
 不穏な光が、緑を煌かせた。
 「オレを殺してね…?」
 
 「殺す?」
 低い声が囁きを返す。
 「オマエを、」
 「そう…殺して。だってオレは」
 アナタ以外の誰も、いらないから。
 ああ、酷いこと言ってるね、オレ。
 オレもゾロに呪いをかけた?
 …違う、そうじゃない。
 
 そのあとは、と低い声が呟いた。
 「オマエを殺す、死体を処理させる、そのあとは…?」
 「アナタ以外の誰も…いらないから。死んだら、オレの霊は、アナタを…守るものになる」
 「おれは。そんなモノはいらない。たとえオマエでもな、ゴメン被る、いらねえ」
 「…うん、知ってる。…オレの、ワガママ」
 ふにゃあ、と笑う。
 そうだね、そんなになってまで、アナタを愛したいだなんて。
 酷いエゴ。
 
 「殺してなんか、やるかよ。アホが」
 そろそろ、と首筋、触れながら。ゾロが言葉を綴る。
 「…期待、しちゃうよ、オレ?」
 「オマエがジャマになる事態、だと?そこまで追い込まれたなら、それこそおれの方がゲームオーヴァーだ。悪いがオマエを殺すヒマなどないな」
 「…死ぬまで、愛してくれるって。安心していいの…?」
 「ただし。……勝手に死ぬ練習はしておけ。ガンは意外と難しいぞ、」
 柔らかな愛撫、肩口に留まったまま。
 「オレは死ぬ時、森に行くから。信頼する彼らに、確実に殺してもらうよ」
 緩やかに唇、啄まれて。
 キスの合間に、言葉を滑り込ませる。
 
 「オマエ、やっぱりバカだな……?」
 「…ズルい、かなあ?」
 ふんわりと、ゾロを見上げる。
 柔らかな気持ちが、溢れる。身体中に。
 「違う。森の側におれは住む気はない、と言ってる。オマエにもコロラドまでちんたら帰る時間なんてないんだよ、バカだな」
 「…じゃあ、手元にキープさせてよ。せめて番」
 ゾロの背中に、掌を滑らせていく。
 「仰せのままに、」
 
 短くて、きつい口付け。
 同じ様な激しさで応える。
 甘い感情、するりと滑って。
 ポン、と奥内に火が点いた。
 「―――愛情の意味をおれが穿き違えたとしても、それでも」
 甘く潤っていた身体が、飢え始める。
 もっと、ゾロが欲しくて。
 
 する、とコットンから腕を抜かされて。
 するり、とTシャツ、脱がされた。
 速クオレヲ愛シテ?
 曝された喉元、歯を軽く穿たれる。
 ゾクゾクする。
 「は、あン…」
 笑みを浮べた。
 モットチャント、オレヲ食ベテ?
 「オマエを喰わせろよ、」
 「…あげる」
 弾み始めた息の下、応えたら。
 最後の一滴まで、と言葉が続いた。
 に、とした笑いが浮かんだのが見えた。
 ひくん、と強烈な快楽が、横腹を抉るように弾けた。
 
 「全部…食べてね…?」
 ゾクゾク。
 快楽が狂ったように走り出す。
 「あァ。途中で気なんか変えねェさ」
 ゾロの背中、ざ、と引っ掻いた。
 「全部喰わせろ、オマエのこと」
 「ウン、全部、あげる」
 ゾロがす、と目を細めた。
 「速く、食べて…狂いそう」
 爛々と目を光らせるゾロに、笑いかけた。
 
 オレの愛しいハンター。
 タベテタベテタベテ。
 速クオレヲ食ベテ。
 ソシテアナタダケデ、オレヲ満タシテ。
 あなたが欲しいよ、ゾロ。
 
 「狂っちまえよ。もっと美味いかもしれねえぞ、」
 ゾロの首を引き寄せた。
 間近でぺろ、と長い舌が覗いた。
 その後を追いかけて、ゾロの唇を舐める。
 「きて…?」
 
 ゾロが息だけで笑って。スル、とシャツを脱ぎ落とした。
 
 
 
 
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