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 薄くぼんやりとした灯かりは、この場所の空気を壁の外に広がるそれと隔てている。
 夜の砂漠は静まり返ってなどいない、むしろ。無数のささやきに満ちているのだと知ったのは昨夜だ。
 密に暗さが詰まり、それでいてひろがっていく。薄くならずに、遠ざかれば遠ざかるほど暗さを増して。
 壁の外。
 落とし込まれた囁き。
 
 そんなことをふと思いながら、指を舐めた。
 サンジの放ったものに濡れたソレ。
 
 壁の内側の空気は、潤んででもいるようだ。肺に落とし込み思う。とろりと、どこか容量を感じさせるほどに。
 うっすらと汗を帯びた肩口、唇で味わう。
 「んあ…ァ、」
 
 目線の先、すうと延びた喉もとを滑り抜けていった声が。この場所の空気を濡らしていっていた。体温と同じほどに温んだかとおもえる空気。密に、充たしていく。
 さらり、と髪が流れて。
 音という音を聴覚が拾っていく。
 「ふ…ゥ、ン…」
 
 飽きることなく、熱を帯びた肌を舌で啜る。手、じわりと容をたどり薄い皮膚を彷徨いまた、血の流れを引き出しにかかる。
 「ん…」
 目の下、薄く息を吐いた唇をそっと塞ぐ。吐息を呑み込みつるりと舐め上げ。絡みとる。
 く、と小さく喉奥で声が押しとめられていた。
 重ねた肌のした、また僅かに温度の上がったのがわかる。
 
 広く開かせた足を撫でれば。さり、とリネンが音を立て。サンジが焦れて布を握り締めるようにしていた。
 眼の端に留めて、それでも熱い舌を掬い上げ味わう事を止めはしなかった。指先、濡れ零れる感触を愉しんで、勝手に口角が上がった。
 
 こく、っと。サンジの喉が鳴り。
 宥めるように肌を撫で、口付けを緩めた。
 ぴくりと僅かに肩が跳ね上がり。
 「ふ、…ぅ…」
 あわせるように、零れた蜜を塗り拡げながら手を上下させていった。
 「あ、ぅ…ン」
 
 サンジ、と名を呼んで。くう、と反らされた首筋を噛み。
 濡れた空気と一緒に、ふわりと鼻腔を充たしたサンジの熱を帯びた匂いに脳が蕩けかけた。
 ぼうとあまく潤んだ目が合わされた。おれの目と。
 目をあわせたまま薄く身体を浮かせ、心臓の上、唇を落とし。
 かり、と薄い肉を食み。身体の中心を辿り落とし込んでいく。
 「んぁ…ッ」
 
 さり、とリネンがまた手の下で音をたて。取り上げてしまおうか、とも一瞬思ったが。
 白く浮く関節の様が気に入った。
 
 目線を上げた。
 蕩けた、それでも澄んだ蒼が、みていた。
 肌に痕を残しながら。舌先で浮いた熱を味わいながら、訊ねた。
 どうした、と。
 「おいし…?」
 あますところなく、肌を味わいながら。
 きり、と薄く肉を穿つ。
 「ッ…ぅ」
 
 片足を引き上げさせ。膝裏まで撫で上げる。
 薄く浮き上がった腰骨の上、きつく口付けて。
 「ふ、ぁ…あ、」
 内腿の奥、指先で押さえ込む。
 ふる、とはしった震えを受け止め。
 骨に添って皮膚を薄く舐め下ろしながら、きくり、と膝下が揺れたのを知った。
 「あ…ァ…、」
 つらりと零れ伝い落ちていた雫を舌先で拡げながら、皮膚ごと削ぎ取ってしまえたらいい、と。思いが掠める。
 
 「言ったろう、最後の一滴まで喰う、って」
 「ん、ん…ッ」
 熱くなった息がサンジに絡み洩れて行き、ザリ、とサンジの指先がリネンを引っ掻いていった。
 舌先をあて、くうと押すようにし。頤を動かし濡れた音を立てる。
 「不味いハズがないだろう、」
 「う、ン…ッ」
 つく、と血の流れを間近で取り込み。声に出さずにわらった。
 口に含まず、逆にたどり舐めおろす。
 「―――ン?」
 「ふ、…ッ、あ」
 
 渇いている、オマエに。
 ひくん、と脚が跳ね。
 その間に顔をおとしていく。
 開かせた腿の内奥、薄い皮膚を吸い上げ、浮いた筋を食む。くう、と短い緊張が抜けていき。
 「あ、ァ、ぞ…ろ…ッ」
 舌を押しあて張った皮膚、その下にあるものをじわりと口にする。
 「ふ、ぅン…、ッ」
 
 きくっと張る強張りを唇と舌とで弾きながら声にする。
 もっとオマエの声を聞かせろよ、と。
 オマエのうちから零れるものをおれに全部寄越せ、と。
 内からも外からもオマエのことを喰っちまいてぇから、と。
 
 「ん、あ、あぁ、…は、ァウ、ぞ、ろ…ッ」
 舌先、動きを密に味わい。つう、と零れたモノを啜り。
 脚がまた跳ねたのを腿に添えた手が押さえる。
 
 「んんんん、い、ィ、よ…ぉ」
 押し広げるようにしてじわりと吸い上げ。口中に拡がる味に舌を絡める。
 耳に微かに擦れた声が流し込まれ。
 手、薄い皮膚に包まれたものを揉みしだく。
 「は、ああ、あァ、あ…ッ」
 深く含んで、熱い質感に喉奥でわらった。
 びく、と腰が捩れるように跳ねていた。
 
 強く、弱く。強く。押し上げる、悦楽を。
 部屋を充たす空気が、サンジの喉から止まらずに零れる声で一層に艶をはき。
 聴覚がざわり、と漣めく。
 牙を立てたくなる衝動を押さえ込み。
 ギリギリとサンジがリネンを握り締めているのが目に映された。
 
 唇を浮かせる。
 「イけよ、……いくらでもおれに喰わせろ」
 「んんん、ッ、ぞ、ろ…ッ」
 「あァ、」
 口中に弾けた熱を受け止め。渇きを充たしていく。
 「あ、は、ぁ、ア、は、」
 
 ふる、と弾けたそれが、すべてを零しきってもなお、口中で愛撫する。
 荒い息が継がれ。それを代えちまいたかった、別のものに。
 震えを、脈動に。
 
 過敏になっている皮膚を牙で薄く辿り上げ。
 「んッ、ぞ、ろ、や…ァ」
 腰が上へと逃げかけるのを手で押さえ込んだ。
 「ま、だ…、ま…って…」
 それを何度か繰り返し。
 手の下で。幾度も身体が跳ねあがるのを愉しんでいた。
 
 舌先が。
 その後を追い上げていき。
 足先、くう、と折り曲げられているだろう指にリネンが引き摺られ布の擦れる音を立てていた。
 
 「ぞ、ろ…ッ」
 零れたもので濡れた奥、指先で撫で。
 「あああ、はァ、あ、ア、」
 じわり、と指の腹を押し当てながら。
 唇からサンジを解放した。くうと犬歯で穿った後に。
 
 
 
 
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