Monday, June 17
ふ…、と気付いた。
泥に浸かってるような眠りに、落ちていたことに。
ぱちん、とスウィッチが入ったかのように、脳味噌が起動した。
するり、と眠気が引いていく。

何時の間に夜が明けていたのか。
まだ開けていない瞼の向こう側、明るくなっているのに気付く。
けれど。
身体が重くて、動かない。
ドロドロに蕩けてしまったまま、固まっちゃったような四肢。
…熟れた果実は、砂糖漬け?
自分の思いつきに、笑った。
腹筋が上下して、ちゃんと身体は身体の容を保っている事に気付く。
…アタリマエだけど。

耳元で、すぅすぅと音がしている。
そのリズムに合わせて、柔らかな吐息を感じる。
昨夜は、それにすら過敏な皮膚が反応して、タイヘンなことになっちゃったのに。
今は薄っすらとくすぐったさを感じるだけだ。

「…ん」
く、と身体を伸ばして、息を吐く。
トロトロとしたまどろみは、纏わり付く羽根のように、周りをひらひらとしていたけれど。
ずく、と身体の奥、使うことを覚えた器官が、鈍痛を訴えた。
腰のあたり、昨日の朝より重い。
…そりゃあそうか。回復しきる前に、堪え切れなくて…強請っちゃったし。
そういえば、最近はストレッチ、さぼりがちだなあ。
ふあ、と欠伸を漏らした。

とりあえず、重たい腰の痛みに目を閉じると、他にもツキツキと痛い場所に気付いた。
脚のところどころ、とか。
胸のところ、とか。
ふ、とゾロが歯を立てていたことを思い出した。
痛みが不意に、甘くなる。

なんだか、気の持ちようで変化する痛みの質に、クスクスと小さく笑い声をもらすと。
まだ眠りにいるゾロが、頬を押し当ててきた。
起こすと悪いなあ、と思って、笑いを飲み込んだ。
とろりと柔らかい笑みに変化した。
きっちりと回されているゾロの腕が、嬉しい。
ぴったりと合わさった胸板、背後で穏やかに上下している。
散々快楽を煽られた場所に、チクチクとした感触を感じて、 なんだか笑ってしまった。

…あ、そういえば、寝起きなのに。
今朝はくったりしてるなぁ…。
自分の中心部が、いつになく穏やかなのに気付いて、苦笑を刻んだ。
ゾロのは、…フツウの状態みたいだ。

…ゾロはちゃんと。オレで満たされてくれたのかなぁ…?
気だるい腕を、ゆっくりと動かして。触れる位置にあるゾロの腕を、そうっと撫でた。
力強い腕。オレのより太い。
筋肉の付き方が違うのか。
骨格が違うのかな…?アングロサクソンじゃない…んだろうな。
名前からしてイタリア系、みたいだったし…。
…ああ、人間の人体については、勉強してないからなあ…よくわかんないや…。

ふぁぁ、とまた欠伸が漏れた。
ゾロの腕が、ぎゅう、と力を入れた。
…あ。ダメだよ、ゾロ。
アナタの指、これから食べようと思ってたのに…。
ううん、これじゃあ身動きできないぞ…?
……でも、幸せ。
にゃあ。
陽だまりのネコみたいな気分に浸っていると、ゾロの鼻先が髪に潜り込んできたのを感じた。
…くすぐったくないのかなぁ…?
くぁ、とまた小さく欠伸をして。
とろとろと、まどろみに戯れる。

…ん?
ゾロが何かを呟いた。
…起きた、のかな?
「……ゾロ?」
囁いてみる。
…んん、掠れてるなあ、声。
…………いっぱい……声出しちゃったもんなぁ……。
うひゃあ、照れるぞぅ…?
ほんわりと、顔に血が昇ったのを感じる。

とても小さな声で、ゾロがオレを呼んだ。
ふわふわふわ、と。どこからともなく柔らかな気持ちが湧き上がる。
幸福。
至福。
Supreme Happiness。
うわー…どうしよう?
とてつもなく、幸せなんだけど?
頭の中で。
純粋な幸福感に、ジタバタと大暴れする。

不意に。
寝惚けた声が。
「きょうも、アナタがすきだよ…」
言葉を綴る。
前にも告げられた言葉。
……ジョーン。

前に。別れる、確か前日。
ジョーンがオレに。
ジョーンのこと、スキになってもいいけど、愛したらダメ、って言ってたのを想い出した。

…今なら、ジョーンの言葉の意味が解る。
さらり、とゾロの腕を撫でた。
だけどね、ジョーン?
オレは、ゾロに。自分でも驚くくらいに愛を覚えるけれど。
やっぱり、アナタも愛してるよ、ジョーン。

ゾロがオレを愛するみたいな愛し方。
身体を繋ぐように、愛し合うことは、ちょっと想像つかないけど。
それでも、アナタにも。
たくさんのハグとキスを、あげたいよ。
アナタを想わない日はない、きっとこれからも。
…ゾロを通して、アナタに伝わるといいなあ。

ゾロをありがとう、ジョーン。
きっと先にアナタに出会えていなかったら。
…ゾロは、きっと…オレには手を伸ばしてくれなかっただろう。

ふ、と溜め息が零れた。
ちゃんと、解ってる。
オレみたいな存在が、どれくらい…ゾロにとって、危険と成り得るのかを。
いまでも…ゾロは、迷っているのかな…?
でも…ゾロは。
オレを手放すときは、ゾロが…もうダメになる時だって、いってた。
ゲームオーヴァ。

…ゾロ。
オレは、まだ全然、アナタを愛したらないから。
まだまだアナタに恋をしていて。
気持ちは尽きない湧き水のように、あとからあとから溢れてくるから。
ダメになりそうでも、ダメにならないでね?
長生き、してもらわないと。
ゾロと、生きていきたいんだから。

…ワガママ?
わがまま、かな?
ふふ、おかしい。こんな気分。
…ああ、そうかぁ。
こういう気分を、切ない、って、いうのかぁ…。

ゾロの腕を、撫で上げる。
まぁ、長生きできなくても。
アナタの腕の中で、生き絶えられたら。
許してあげるけど。
…けど、それが一番、ムリなんだろうなぁ…。

………こんなに幸せなのに。
なんで終わることを考えちゃったりしてるんだろう?
…やっぱり、バカなのかなぁ、オレ?
不意にきゅう、と胸が痛くなった。
ほろり、と涙が零れて。
切なさで泣けるということを、初めて知った。

こす、と零れ落ちた涙を掌で拭っていると。
ゾロの筋肉が、グ、と動いて。
くうううう、と伸びをするのを聴いた。
起こしちゃった、かな…?




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