Monday, June 24
ピピピピピ、と携帯の目覚ましの音で目が覚めた。
いつもは、時間が来る前に自然と目が覚めてしまうから。
その音で覚醒するのは、久し振りだ。

…まぁ、昼も夜もなく、休暇中、いっぱい…ゾロに抱かれてたから。
体内時計が多少狂っちゃってるのは…ショーガナイかなぁ?

「んんん〜…」
く、と手足を伸ばして。気だるさの残る体を伸ばして、酸素を吸い込んだ。
オレを抱き込んでいたゾロの腕が、もぞりと動いた。
どうやら起きたみたいだ。

「…ゾロ、おはよう」
まだいくらか掠れた声が、自分の口から零れる。
そうっとゾロの頬に手を伸ばして、触れた。
ゾロの手が伸ばされて、さらん、と髪を撫でられた。
目の前で、緑の瞳が見開いた。
それがす、と狭められて。
「はやいな」
幾分柔らかな声が言った。
「ン。バイト、今日からだから…」
身体を起こして、ゾロの唇に口付けを落とす。
んんんん…幸せだってバ。

頭に置かれたままだった手が、くしゃくしゃと髪を掻き混ぜて。
くすりと笑った途端、軽く抱き込まれる。
「…んん…ゾォロ…?」
すり、と頬を寄せる。
「しょうがない、7秒で放してやる」
「にゃは」

からかい混じりのゾロの声に、笑ってまた頬を摺り寄せる。
んん…離れるのは、惜しいなあ…。
くう、と抱きしめられてから、腕が緩められて。
そうっと身体を起こす。
ゾロが、オハヨウ、と言って、大きく伸びをした。
それからす、と起き出した。

すっかり裸で寝ることに慣れてしまったから、朝一にすることは、服を着替えることだ。
トランクスを履いて、ジーンズを履いて。
ゴソゴソと着替え始めるオレの肩に、ゾロが口付けを落としてくる。
柔らかにからかうような口付け。
笑って後ろを振向く。

「…ゾォロ…朝ごはん、一緒に食べる?」
ゾロは既にジーンズを履き終えていて。
デニムの生地の上に、手を置いて訊いたら。
ゾロの目線が一瞬合わさって、あぁ、って応えた。
「オッケィ」

笑って、Tシャツと靴下を持って洗面台に向かう。
顔を洗ってからTシャツを着て。
リヴィングのソファに靴下を放って、朝ごはんの仕度を始める。

…そういえば、ちゃんと朝ごはんを食べるの、久し振りだなぁ…?
最近はブランチが多かったしなあ…。

ゾロがシャワーを浴びている音を聴きながら、トースターにパンを放り込んで。
スクランブルエッグにベーコンを炒める。
トマトとキュウリを切って、レタスを千切る。
コーヒーをセットして、トースターからパンを取り出してた所で、ゾロが洗面所から出てきた。
ポタンポタンと濡れた髪から落ちる水滴の音に振り返ると。
ゾロがに、と笑った。
にこお、と笑顔を返す。

「もうすぐできるよぅ」
「あァ」
そのまま、とす、と濡れたタオルを頭に乗せられた。
「にゃあ、イラナイよ、これぇ!」
笑ってする、とそれを取ってる間に、唇に柔らかな口付けが降ってきた。
「ん…」
ゾロに口付けられると、うっとりってしちゃうなあ…。

く、と腰を引き寄せられて、ゾロを見上げた。
ぽたりぽたりと落ちてくる水滴が、Tシャツを濡らしていく。
くすくすと笑うと、目許にもキスが降ってきた。
ゾロの首に腕を回す。
する、とデニムのバックポケットに指が入ってきた感触に、思わず笑みが零れる。
「ゾォロ…スキだよ、おはよう」
ふわふわ。シアワセなキブン。

「……時間の潰し方を考えないといけないな、」
「…ああ、そっか…、この家、何もないもんなぁ…?」
バードキスの合間を縫って、言葉を交わす。
「論文の翻訳、オレ、バイトでやってるけど…アナタの興味の対象じゃないし…」
「あぁ。ゴーストでも呼んでみるか、」
「それはオススメできないよぅ」
つるん、と唇を舐められて、笑う。

ふ、とジョーンのスケッチを思い出した。
「…絵、描く…?」
「テリ―だかヘンリーだかのじーさんに教わったんだよ。って、---は……?」
「だから、絵。描く?」
珍しくきょとん、とした顔をしてるゾロに、ちゅ、と口付けて。
同じ言葉を繰り返す。
「時間、潰せると思うけど…?」

くぅ、とゾロの目が狭められた。
「絵か……?」
「そう。キライじゃないでショ?」
ぺろり、とゾロの唇を舐める。
ゾロが軽く肩を竦めて。
「エンリョしておく」
あっさりと言った。
「ふぅん…?」
ありゃりゃ。乗り気じゃなかったか。
「あとは、読書くらいしかないけど…専門書が殆んどだし…?」

する、とゾロが離れて。
コーヒーを入れに行った。
シンクに戻って、用意していたお皿を取りに行く。
それを持って、テーブルに移動。
ゾロはコーヒーを飲みながら、オレを見ている。
「…食べない?」
ゾロを見上げて、ゾロの分のプレートを示す。
するとゾロはもう一つカップを手にとって、隣にすとん、と座った。
ハイ、と手渡されて、受け取る。

今日も美味しいゴハンをアリガトウ。
そう祈りを呟いてから、食べ始める。
「…なんか欲しいもの、ある?帰り、買ってこようか?」
コーヒーを一口啜って、ゾロに訊く。
「いや、特にない」
「…ん。解った。時間、潰せそう?」

ゾロはぱくぱくと食べていて。お皿はもう半分が空になっていた。
よく噛んで、咀嚼。
今日もゴハンが美味しくて。オレは更に幸せだ。
…ゾロと一緒に食べるようになって、もっと美味しくなったから。
今日も美味しいっていうより、今日も更に美味しい、のかな?

「ああ、どうにか。何か手でも考えるさ、時間だけはありやがる」
ゾロが、あーあ、って笑ってた。
「そっか」
にこお、って笑って、お皿の上のものを食べ終えた。
「そう。あンたはコヨーテでも看病して来い」
「ウン!もちろん」
とん、って頭を撫でられて。軽く目を瞑った。
コドモにするみたいな仕種だって解るんだけど…うっとりとしちゃう。

「ああ、そうだ」
「うん?」
空になったお皿を持って立ち上がったところで、ゾロが言った。
見下ろすと、に、ってとてもゴキゲンな笑みを浮べていた。
「ビジンの看護婦がいるなら付き添いで行ってやろうか?」
「ビジン?…みんなビジンだよぉ?」
笑って、シンクにお皿を浸けに行く。
「……へぇ?じゃあ明日あたり覗きに行かせろ」
「うん。一緒に行こう」
うわあ。ゾロと一緒だ!
ふわんふわんに嬉しくなったところで、また電子音が鳴った。
そろそろ行く時間だ。

ひらり、とゾロが手を振って。
オレは慌てて歯磨きに走る。
「明日から家政婦が来るぞ!!」
歯を磨きながら、必要な携帯電話やらノートやらを、お財布が入れっぱなしになってる鞄に放り込んでいると。
ゾロがシンクの水を流しながら言った。

「かふぇいふ?」
しゃこしゃこと歯を磨きながら言う。
「そう、家政婦!ハウスキーパー!おれはゴメンだからな、家事なんざ」
ふぅん?誰か来るのか…。誰だろう?
「たのひみだにぇ!」
ううん、家政婦さんかあ…楽しみ!!

そしたら、ゾロが、明後日からにさせる、クマチャンに連絡取らせろ、って言っていて。
ゾロに鞄を差し出す。
「でんふぁ、くぉのなふぁ」
鞄を笑ってたゾロに押し付けて、洗面所に戻る。
「あのなぁ、歯磨き中に喋ることないだろう?」
口の中を濯いでから、だって急いでるんだもん、と応える。
けれど、ゾロはもうリトル・ベアに電話しているみたいだ。
話し声が聴こえる。

鏡を見て、身だしなみのチェックをしていると、ゾロの笑い声が聞こえた。
ああ、そのうち行くさ、って言っていて。
…師匠のところに行くって話かな?
リヴィングに戻って、靴下を履く。
ゾロはもう電話をし終わっていて、鞄の中に戻してくれているところだった。

スニーカーを履いて、帽子を取って。
「じゃあ、ゾロ、行ってきます」
「じゃあな、おれは亡霊とカードでもする、」
被る前に、ちゅ、と口付けを送ると。
ゾロがに、と笑って物騒なことを言った。
「…負けないでよう?」
「ハ!」

…誰とカードするんだろう?ゾロってば。
差し出された鞄を受け取って。
笑うゾロに、ぎゅ、と抱きついてから、車に向かう。
「晩御飯には戻るからね!!」
車に荷物を放り込んで、ポーチに立っているゾロに言う。
運転席に乗り込んだところで、ゾロはヒラヒラと手を振って、中に入っていった。
ゾロは、見送るのがキライみたいだ。

久し振りに車をスタートさせて走り出す。
キブンは上々だ。
通いなれた道が、なんだか眩しく感じるのはなぜなんだろう?



ウキウキしたキブンのまま、動物病院まで快適ドライヴ。
駐車場に車を入れて、建物に入る。
「やほう!シャーロット!元気だった?」
「サンジ!ひっさしぶり…って、まあまあ!」
ぎゅう、ってハグをしあう。
「ドクターも!!」
「おやおや?上手く行ったようだね」
ぽん、と頭を撫でられた。
…なんでみんな解るんだろう?

「サ〜ンジ〜!!って、うっわ…ちょっとキミ、どうしたの?」
奥から出てきたマリーが、びっくりした顔でオレを見てる。
「どうしたのって…おれ、どっか変?」
「いやあ、変っていうより…」
マリーが何かを言いよどんで、それをシャーロットが続ける。
「壮絶に色っぽいぞ?さては恋人ができたな?」

「シャーロット。そんな明確な質問は避けなさい。訊くだけ野暮ってモンだ」
ドクターが呆れた口調で言う。
「…そんなに明確ですか?」
戸惑ってドクターに訊くと。
「キミの、休み前の状態と、今を比較すると。それしか答えが無いんだよ」
ドクターがけろりと笑った。

「…うわあ…そっかぁ…キミが恋人ねぇ…?」
しみじみとマリーが言う。
「…やっぱりそれって…」
シャーロットが更に言いよどむ。
「…?なぁに?」
オレが訊くと。
「いいヒト?」
「んんとねぇ…オオカミみたいなヒト」
じぃ、と見上げたシャーロットにふわん、と笑いかけると。
「うっわ…ゴチソウサマ」
なぜだかシャーロットはマリーに抱きついて。
「…あー…やっぱりなあ」
マリーは苦笑を刻んだ。

「かっこいいんだ?」
「うん。ものすごく!」
「うっわ、力んでるよ、マリー!!」
「うわ!一度拝みたいわ!!」
彼女たちがひゃあひゃあと笑って。
「はぁい、そこまでにしておく。仕事始めるよ」
笑ったドクターに中断されて。
オレは明日ゾロを連れてくることを彼女たちに言いそびれた。


コヨーテくんは、もう随分と元気になっていて。
挨拶に行くと、ハゥン、と柔らかな声で挨拶をくれた。
犬よりは高めの声で、元気だな?よかったな、と言ってくれる。
そしてその後、カレの傷の治り具合を、CTスキャンとレントゲンで見て。
針を打って、マッサージをして。
ボブキャットの仔にミルクをあげて。
ドクターと一緒に、馬の回診に出かけて。

そうして久し振りに仕事をたっぷりとしてから、帰り道に着いた。
途中、寄り道をして、デリカテッセンでパテとサラダ3種類とターキーハムを買って。
身体は疲れているのに、ウキウキキブンのままで家に帰り着いた。

仕事をしている間は、ゾロのこと、ほとんど考える暇もなかったのに。
運転してたり、買物してたりする間に考えるのは、彼のこと。
ゾロは、一日、何をしてたのかな…?




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