あっという間に車は動物病院のパーキングに止まって。
「じゃあ、オマエの来る前に買物でも済ませておいてやろうか?」
ゾロがそう笑って、車のドアを開けた。
「んん…買物リスト、作ってないからなぁ…」
どうしようかな?
「後で渡せよ」
「オッケィ」
車から降りて、一緒に建物に入る。

ゾロは病院に入って、ふうん、って呟いた。
初めて来た、って。
「…人間とさほど変わんないと思うけどね?ただ…器官別に専門医が居ることが少ないから。動物のお医者さんは、
どちらかっていうとオールマイティなんだよ」
動物病院にはな、って断ったゾロを見上げて言った。
「その中でも、ここは結構特殊だと思うよ?」
「そうなのか?」
「ウン」

壁に掛かった人間のツボの地図を示す。
好奇心が沸いたらしく、きらっと目を光らせたゾロに、笑いかけた。
「ドクタ、中華系アメリカ人だから。針とかお灸とか、西洋医学に東洋医学を平気で混ぜていくんだ」
「変わった医者だな、」

奥のスタッフルームで白衣を着ていると、当のドクターが入ってきた。
「…オヤ。見ない顔だね」
ドクターがにこり、とゾロを見て笑った。
「オハヨウ、サンジ。同伴出勤とはやるね」
ゾロが人当たりのいい笑みを浮べたのをちらりと見ながら、ドクターがオレに笑いかけてきた。
…ドウハンシュッキンってなんだろう?

「ええと、ドクタ。こちら…」
「我儘をいいまして。ドクターの治療法に興味があったものですからつい御邪魔しています」
…名前、言っちゃっていいのかな?
ゾロを見上げる。
…なんか、ゾロ…おっそろしく…不自然な笑みを浮べてるんだけど…?

ゾロはすい、と右手を差し出して、ジョーン・D・シェリールと申します、ジョーンで結構、ってさらりと言った。
「ここで人間以外の生物の医学治療をやってる、ジェームス・タオです。たまにヒトも診るけど、それはナイショでよろしく」
「よろしく、ドクター・タオ、」

その手を握って軽くシェイク・ハンドしたドクターは。
穏やかに微笑むゾロに対して、にこやかにすごいことを言った。
「ここにいる動物は、キミにとって珍しいものかもしれないが。多分ここのスタッフ二人にとっては、キミの方が珍しいでしょう。
半日、珍獣になった気分を味わってみてください。多分、二度とここに脚を踏み入れたいとは思わなくなるでしょう」
…ええと、ドクター?

ドクターの真意を測りきる前に。
マリーの抑えた悲鳴が耳に届いた。
ははっ、と軽く笑って、オレはただのミクスド・ブラッドですよ、って続けた言葉は。
マリーの叫びに半消しにされる。

「サンジのスィートハートだーッ!!!!」
ゾロが、片眉を跳ね上げた。
「ブリジッド!ベイビィ!!シャーロットとエミリーに即コール!!!」
ゾロがオレを見て、ちらっと睨んだ。
…オレ、何も言ってないよ!!!!

「なんで?エマージェン…きゃああ!!!」
「……ああ、なるほど」
奥のオフィスから顔を覗かせたブリジットが。挨拶をする間も無く、奥に引っ込むのが見えた。
ドクターに視線を戻して肩を竦めたゾロ。ドクターは、眼鏡をす、と押し上げて。
「…どうやら、珍獣決定、ですな」
にかり、と笑った。

「ドクター、あなたの保護をおれは頼む権利はありますか」
「ジョーンくん、覚えておきたまえ」
笑ったゾロに、ドクターがニガワライを浮べた。
「ドクターは、ナースたちに使われる立場にいるんですよ、手術室以外の場所ではね」
「ええ?そうなんですか、ドクター!?」
そんなハナシは訊いたことがないぞ?
目をパチクリとしてると、マリーが近寄ってきた。
「サンジ〜!!!カレがアナタのオオカミくんなのね?」
満面の笑顔で、ゾロを見遣る。
…うっわ。目がキッラキラだよ〜…!

ちらりとゾロに目を遣ると。笑っていいのか無表情でいるべきか、一瞬躊躇って。
それから、とても洗練された笑みを浮かべた。
「オオカミ?心外だな」
「あら、そうなの?」
マリーがにっこりと笑った。
…オレにはあんまり見せないような、大輪の華が綻んだような笑顔。
「はじめまして、ミス」
「マリーでいいわ、ミスタ」
「ではマリー、おれもジョーン、で。よろしく」

キミたち、ほどほどにしておきたまえよ?と言って消えたドクターと入れ違いに、ブリジッドがやってくる。
「サンジ〜!!キレイになったわねえええ!!!」
マリーとゾロが握手を交わしている間に。
豊満なボディのブリジッドにぎゅむ、と抱擁された。
「ブリジッド!ひさしぶりだねッ!」
きゅう、っと抱き返して挨拶をすると。
「アナタのダーリン、とってもステキなヒトね?」
囁きが耳に落ちてきた。

…ダーリンかあ…。
妙な感慨に陥ったオレからスイと離れて。
ブリジッドもゾロに向き直る。
なにやらマリーと話しが盛り上がってるゾロに向かって、ハジメマシテ、とにっこり笑顔を浮べている。
ゾロも笑顔で挨拶を返している。
ううん、なんだか…みたこともないような人たちが会話してるっぽいぞ?

「サンジくん、ちょっと。コヨーテくんの薬、お願いする」
びっくりしているオレに、ドクターが声をかけてきた。
「あ、はい、今行きます!」
慌てて行こうとして、ゾロに向き直る。
「ええと、…仕事してきます」
すい、と振向いたゾロに、手を振ると。
ゾロはにっこりと笑った。
「しっかりな、」

頷いていると、背後で、すっごい勢いでブレーキをかける車の音が聴こえた。
「おれは珍獣確定らしいから」
きっとこれはエミリーとシャーロットだろう。
さっきのきゃあ!がもう一回あるみたいだね?
ちらりと窓を見遣ったゾロに。
「頑張ってね」
小声で囁くと。
「後で覚えて置きやがれ、」
…う。
ぼぞ、と呟かれたゾロの言葉。
…ええと、オレのせいじゃない…と思うんだけど?

「あぁら?ゴチソウサマな雰囲気ね?」
にっこりとマリーが笑ったのが、目の端に見えた。
ちゅ、と頬にキスがきて。
ええ?ヒトマエなのにいいの!?とか思っていたら。
「…あらあら。アツアツね?」
ブリジッドが笑ったのが聴こえた。

バタバタバタ、と駆け込んでくる足音。
カケル2、だ。
「せめてもの息抜きに、」
ゾロがあっさりと笑った。
「なあ、"ベイビィ"?」
「…ええと…ぞ、…うわああああ」
少しばかり皮肉っぽいゾロの声。
思わず言葉を言いよどんだオレの声にマリーの声が被さる。
「コホン。ステキなベイビィを苛めて楽しみたい気持ちは理解できるけど。突付き過ぎるとウサギになっちゃうわよ?」
「さぁ、サンジ。あっちでコヨーテくんに薬をあげながら、オネーサンに根堀葉堀聞かせてね?」
ブリジッドがオレの腕を取って、引っ張って行く。
「サンジのいいヒトってどこ!?」
バタン、とドアが開く音とともに、シャーロットの声。
くしゃくしゃ、とゾロの手が遠ざかるオレの髪を撫でていった。
お手柔らかに、とブリジットに言ってる言葉は、エミリーの、きゃああ、という嬌声にかき消される。

…なんでみんな、こんなに大騒ぎになるの〜?????
助けて〜!!!




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