| 
 
 
 
 通いなれた道。
 キラキラと太陽がまぶしく感じられる。
 身体全体、まだどこか甘く気だるいけれど。
 …にゃあ。シアワセなのだ。
 
 朝ごはん食べてから、車に飛び乗った。
 オレは今日も仕事で。
 家には後で、ハウスキーパが来ると言ってたっけ。
 誰が来るんだろう?ゾロも知らないみたいだったけれど。
 
 カーラジオから、オンナノコの柔らかな歌声が聴こえてきた。
 …これ、昨日帰るとき、かかってたヤツだ…。
 思い出して、ぽん、と頭に血が上った。
 
 …帰り際、泣いた後、恥ずかしかったのと。
 ゾロがイジワルで、ちょっと仕返ししたかったのと。
 帰り際、信号のところで、柔らかな口付けを貰って。朝、ウズウズさせられたことを、身体が思い出したのと、で。
 
 んん、発情期、ってよく言ったもんだねぇ?
 I'm on heat、まさしく、熱くなっちゃったってヤツ。
 早くゾロと抱き合いたくて。
 半袖Tシャツの下、長袖着てたのを。腕のところ、剥いて。
 ぱくん、と食べてみた。
 ふふふふふ、美味しいんだよなぁ。
 
 でも、なんだか食いづらいから。
 慣れた道、ギア・チェンジしなきゃいけないトコは、全部覚えてるから。
 指、ギア握ってる上から組んでみたり。
 からかうように差し伸ばされた指先、口付けてみたり。
 噛み付いてみたりした。
 ゾロは軽く笑ってたけど。
 んん、それだけでうずうずってなっちゃうの…なんでだろうねぇ?
 
 でも、帰ったら、ほっとして。
 ふたりしてシエスタ。いつのまにかベッドで寝てたっけ。
 …運んでくれたのかな?
 どっちだっけ?まぁいっか。…いいよね?…うん、いいだろう。
 
 ぐっすりと眠った後、目覚めたのは夕陽が落ちる前。
 夏はまだまだこれからが本番。
 日の入りは、随分と遅くて。だから、時間で言えば、もう7時近くだったってコトだね?
 起きたら強い西日の光が、まだ部屋を明るくしていて。
 ゾロの睫毛、キラキラしてた。
 
 …キレイだねぇ…。なんか…透明みたい。
 生え際に影が落ちてるトコとか。
 …うっとりと魅入ってたら、ゾロが起きて。
 そのまま軽い口付けを送りあって。
 なにを見てた、って訊かれたから。
 アナタの睫毛、すごくキレイだって言ったら。
 くくく、とすごく楽しそうに笑ってた。
 そうして、また口付けを交わして。
 それから暫くベッドの上で、ゴロゴロしてた。
 
 んんんん…しっかりと最後まで身体を繋ぐのは、もちろんスキなんだけど。
 身体のパーツに触れられたり、キスされたり。
 甘く噛んだり、齧られたりして、くっついているのもスキ。
 クスクス笑って…シアワセ。
 
 晩御飯、軽く作って食べて。後片付けをしたら、あっという間に攫われて。
 気付いたらベッドの上。
 …もしかしたら、ゾロがあんまり晩御飯食べないのって。
 オレを食うためなのかなぁ?
 お風呂場に連れて行かれる頃には、クタクタになってて。
 何時の間にやら朝。
 …ううん、すごいパターンだなぁ。
 
 ルイス…どうやったら2、3回なんかで納まるのかな?
 …オレにはムリな気がするんだけど…???
 …んんんん、待てよ?
 …………ゾロは、どうなんだろう?
 ううんんん…オレが軽くトバされちゃいすぎるのかにゃあ?
 オレってば過敏症なのかにゃあ?…うう、でもゾロにだけ、だしなあ…。
 …ううん……ううううんん…後でゾロに訊いてみようかにゃあ?
 
 
 そんなことを考えてる間に。車はあっという間に動物病院の駐車場、だ。
 …んん、ゾロ…目立つの、ダメだって言ってた。
 …やっぱり撒いた種は刈り取らなきゃ、だよねえ?
 今日のシフト、誰かな?
 ちゃんとお願いしとかないと。
 
 着替えて、ドクタと挨拶して。
 今日の当直のブリジッドとエミリーを捕まえた。
 「あのね?昨日のこと」
 「なあに、サンジ?」
 「…ジョーンね?目立つの、イヤなんだって」
 「…まあ、黙って立ってたって目立つのにねえ?」
 ブリジッドが軽く笑って、エミリーがなんで、って訊いてきた。
 
 「…うん、あのね?…オレ、よくわかんないんだけど。有名人なんだってサ。お忍びでこっち来てるからって」
 「…あぁら。タダモノじゃないと思ってたけど。メンズのモデルかなんかかしら?」
 ブリジッドの言葉に、エミリーが目を輝かす。
 「もしかしたら、舞台俳優かなにかかなあ?」
 二人にじいっと見られて。オレはゴメンナサイ、と頭を下げた。
 「オレ、そういうの、ちっとも興味ないから…よくわかんない。仕事の話も、あんまりしたがらないし…」
 「あら?ダァリンの職業はちゃあんと把握しとかないとダメよ、ベイビィ」
 ブリジッドが笑う。
 
 「ねえねえ?もしかしたら…プレイメイトだったりして…!!」
 「ああ、男性版の方?」
 エミリーの言葉に、ブリジッドがふふん、って笑った。
 「それにしては、ナルシストっぽいとこが少ないわよ?だから、多分役者じゃないかしら?」
 「そっかあ。舞台俳優だったら、それこそほとんどメディアに取り上げられない人も多いし、ってこと?」
 「…あの、ブリジッド」
 「んん?なに、サンジ?」
 「プレイメイトってなに?」
 
 ブリジッドとエミリーは、一瞬顔を見合わせてから、大爆笑をし始めて。
 煩いぞ、ここには大切な患畜さんたちが沢山いるんだから、静かにしなさい、とドクタに怒られていた。
 「だって、サンジってば、プレイメイト、知らないんだもん〜!!」
 エミリーの言葉に、ドクタは頭を掻いて。
 「別に知らなくたって世の中は十分渡っていけるってこと、把握できたじゃないか」
 と、妙なことを言ってた。
 …それって、オレは知らなくてもいいってコトなのかなぁ?
 
 「…ああ、ほんと。ゴメンナサイ、サンジ。ついつい思いつきで言っちゃった」
 エミリーがオレにごめんね、とキスをくれた。
 …だから、プレイメイトってなんなの?
 「ふふ、雑誌名が違ったわネ。もっとコアなのも」
 「こら。ブリジッドくん、エミリーくん。いい加減にしたまえよ」
 顔を顰めたドクタに、彼女達はペロリと舌を出し合った。
 …コア???
 
 「あ、あと。昨日カレに一杯キスしちゃったの。ごめんね?いいオトコだったから、いっぱい祝ってあげたくなっちゃったの」
 「あ、アタシも。サンジのダァリンなのにね?」
 二人に両頬をキスされて、思い出す。
 重要なこと。
 「あ、それでね?…なんで町の人たちに教えちゃったのか、訊かないけど。できれば、あの、だから彼の周りで、
 大騒ぎしないで欲しいんだ。ダメかなぁ?」
 「まぁ、ベイビィ!!ダァリン思いのステキなハニーちゃんね!!!」
 
 ブリジッドにむぎゅっと抱きしめられて。うわあお、と両手を挙げた。
 エミリーが、そんなオレの前で、チッチッチ、と指を左右に動かした。
 「でも、ダァリンのことばっかり考えてちゃダメよ?ワタシたちのこと、誰だと思ってるの?」
 「…エエト、ここのステキなナースのお姉ちゃんたち」
 応えたオレに、エミリーがふふん、と笑って。
 「だったら、キミを落胆させるようなこと、するわけないってわかってヨ。昨日のアレはオチャメ。もうちゃんと言ってあるわ」
 ちゅ、と口付けられた。
 
 「サンジのシアワセそうな雰囲気見てたら、思わずシアワセになっちゃったのヨ。いいオトコだしね?だから、昨日のは、
 ホント、お祝い。もうジャマしないわ」
 ブリジッドがやっとオレを抱いてた腕を放してくれた。ふう…ほわんほわんで気持ちいいけど、それは特別な人にして
 あげることだよねえ?
 「大丈夫。みんな影からそっと見守ることにしてるから。いくらねえ、開かれた時代だっていっても。ここはカントリーも
 いいとこだしねぇ?」
 ブリジッドが苦笑を刻んで、言葉を続ける。
 「頭のお堅い偏見偏屈野郎どもがいないとも限らないし。そんなオオバカヤロウにの無責任な行動で、ステキな
 ベイビィのシアワセに水差したくないもの。みんな胸に仕舞うわ」
 「みんなアナタがスキなのよ。だからね?ダァリンにも言っておいてね、もうしないから許してネって」
 …ゾロに言われたことと、同じだ。
 
 「うん、オレもみんながダイスキだし。昨日はビックリしたけど。ちゃんと言っておくね?」
 するとエミリーとブリジッドは笑って。
 4人からのゴメンナサイのキス、サンジに預けとくわ、って言われた。
 ステキな彼に、ちゃんと渡してね、って。
 …ううん…強いなぁ…!
 「キミたち。収めるものは、収まるべき所に収められたかね?」
 ドクタの言葉に、三人でハーイ、と応えた。
 「それじゃあ、仕事を始めるよ」
 ニッコリ笑ったドクタの笑顔を合図に、その日の仕事を始めた。
 
 …祝福されて、嬉しいって。
 この時、心の底から、思った。
 きっとオレはこの日を忘れちゃいけないんだろう。
 しっかりと記憶に刻んで。そして、彼女達みんなの幸せを、しっかりと祈る事を、心に決めた。
 
 
 
 
 next
 back
 
 
 |