Thursday, June 27
ぴぴぴぴぴ、といつも通りの時間に、目覚ましが鳴った。
ぱかん、と眼を見開いて、飛び込んできたのは、ベッドの上にぶら下がったドリームキャッチャー。
リトル・ベアが作ったヤツ。
カーテンを通って入り込んでる朝日に、羽根が柔らかな光を弾いてた。

ぼうっとした頭のまま、そうか、今日は休みだったっけ、と思い出す。
…そういえば、昨日は。
結局サパーも食べなかった。
目覚ましを止めることなんか、すっかり忘れてたにゃあ。

くぁ、と欠伸が零れ出て。
隣で眠るゾロに視線を移す。
太い腕、抱きこむようにまわされてて。
どうやらゾロは、眠りと覚醒の間にいるみたいだ。
ふふ、と小さな笑みが零れた。
ゾロの睫毛、やっぱりキレイで。
ふわん、とシアワセな気分になる。
ほぅ、と息が零れていって。
眠気がゆっくりと引いていく。

ゾロがゆっくりと眼を開けた。
眠たそうな声が、オマエ、きょう…ヤスミだろ、って言葉を綴った。
「オハヨウ、ゾロ。そうだよ、今日はオヤスミだよ」
「―――ねる、」
「…ハイ」
す、と眼を閉じたゾロの胸元に、鼻面を押し込んだ。
んん、と身体を落ち着かせて。

ゾロの心臓が刻む緩やかなリズムに耳を傾けて、目を閉じる。
くぅ、と抱き込まれて、笑みが零れていった。
一度手放した眠気は、戻ってくる気配をみせず。
とくん、とくん、と僅かな音が伝わってくるのに聞き惚れる。
ぴったりとくっついた身体は暖かくて。
ゾロの心音、少し緩やかになって。
吐息がすう、と潜められて、ゾロが眠ったのを知った。
ゾロは眠りの向こうで、どんな夢を見てるのかな?

意識を外に向けた。
家の外。熱が上がる音。
風が砂をやわらかく乱す音。
景色が見える。砂漠の世界。
その向こう側に、広がる川。
聖なる滝。
柔らかな水音。

覚醒した意識を無意識に潜めて。
オレは祈り始める。
たくさんのスピリットたちに。
世界に安らぎを、と。



あのなぁ、ちび。
ああ、これは夢だ、そう思っていた。低い物柔らかな声。
おまえのさ、……つうかおれもだけどな?たぶんいる場所っていうのは。そこまで言って僅かに首を傾けていた。
サウスハンプトンの、入り江を眺めていたなら。
目線が、低い。
夢と、記憶とが縺れているのかもしれない。

ワザと覗き込むようにしていた目が、少し笑みで崩れた。
いる場所はね、おまえはまだ知らないけれど。何層かに世界を分けるとしたならこっちに近い。
そう言って、投げ出した足元、地面を親指で指し示していた。
いま、おまえはね。そう言って目線を少しばかり上向けた。
あの辺りにいるのかなぁ。
ひらひら、と。自分の頭上を越えて、どこか虚空の一点を中指に嵌めたリングが光を弾いて、指していた。
おれはもう、地面スレスレだねぇ、そう言ってわらっていた。

意味を追おうとして考え込んだ頭を、降りてきた手が引っ掻き回していた。
なぁ、ちび。おれはおまえのことをすごく好きだけどさ。
あんまり上のほうでふわふわしてるとな、すぐ叩き落されるぜ?そういうひでぇところに、おれたちってば生まれ
ちゃったンだよねェ。
ちょっとずつ、でいいからさ。ソフト・ランディングの練習、はじめとけな。
ぐるぐると頭を引っ掻き回されて、ほんのついで、といった風にきゅう、と肩ごと腕に閉じ込められて盛大に何か
コドモの声が文句を言っていた。
明るい、笑い声だ。
頭の上から聞こえていた。
夏の終わる直前の、夕方。
潮が引き、満ちていく、そんなものを眺めていた日の終わりに、交わされた言葉。
穏かな心持のままで、夢に還ってきた。

笑い声が徐々に遠くなり、ふ、と目が覚めた。
耳慣れない旋律が聞こえてきた。
聞き慣れた声で紡ぎだされていた。
腕に抱くもの。
間近でそのイノチを感じるもの。
感傷のカケラがひっかかる。
柔らかな低い歌声がソレをやんわりと押し上げる。
目を開けた。



す、と間近で目覚めた気配に。
意識をゆっくりと降ろしてくる。
祈りのウタ、ジャックおじさんに教わったもの。詠唱を終えて。

ふ、と息を吐いて、ゾロのグリーン・アイズが開かれているのに微笑んだ。
「オハヨウ、ゾロ」
おはよう、とゾロが、ゆっくりと言葉を舌に乗せていた。
そうっと手を伸ばして、頬に触れた。
「今日もいい天気だよ?…今日はなにをしようか?」
ふい、と眼を細めたゾロの、少し乱れた髪を撫でた。
さわさわ、と柔らかな感触に、眼を細める。

「懐かしい、―――夢をみていた」
ゾロの言葉に、笑みを刻んだ。
ゾロも、ほんのわずかだけれど。目許、笑みが浮かんでた。
いい夢だったみたいだね?
すり、とゾロの胸に、額を摺り寄せた。

「いい夢だった…?」
ふ、とゾロが息を吐いていた。
あぁ、ってそうっと声がして。
ゆっくりとゾロを見上げた。
そうっとゾロの首に腕を伸ばして、抱きしめる。
ゾロも、もう何も言う事はなく。ぎゅ、とオレを抱きしめる腕に、力を込めた。
柔らかな抱擁。
優しい時間。
目を閉じて、ゾロに出会えたことを感謝する。
心の中で。

しばらくそうしていてから、ゆったりと離れた。
時間としては、まだ早かったけれど。
ううん、オナカスイタ気がするし。
「ねぇ、ゾロ。朝ごはん、食べよう?」
にゃあ、と笑いかけてみた。
ゾロは、そうだな、と言って。
「リカルドと契約が成立したから、クマちゃんに会いに行かなきゃいけない」
そう、思い出したように続けた。

「…行くなら今日だよねぇ?」
「紹介者に礼は尽くせ、とか言ってやがッたからな、」
よっと声をかけて上体を起こしながら、ゾロの言葉に笑った。
「リトル・ベアが?」
「あぁ。」
くすくす、と笑う。
それはきっと、彼のジョーク、だ。
ゾロがに、と笑った。何かを企んでるような笑顔。

「…ゾロ?」
「それに、美味い酒を仕入れていこうぜ?」
「ふは!それは師匠が喜ぶよ!」
にっこりとゾロに笑いかけた。
「あぁ。じじいの動きを鈍らせてトッ捕まえてから復讐してやる」
「あう。それじゃあ結構大量に仕入れなきゃ」
師匠は、結構強かったりするのです。
「エリックのじーさんの店ごと買い占めろ」
「うわあ、エリックさん、暇になっちゃうよ…!」

ゾロもす、と起き上がった。
くすくすと笑ったまま、ゾロにオハヨウのキスをする。
リトル・ベアにも、なにか買っていこうかなぁ?
…コーヒーにしょう。ウチもそろそろ無いし。

柔らかく触れ合うキスをして、ベッドから抜け出す。
身体はさっぱりとしてたから、やっぱり昨日もゾロにお風呂場から運ばれちゃったんだろうなぁ。
まだ冷たいフロアに立ったまま、くう、と伸びをした。
あとでストレッチしなきゃ、と思いながら、足腰を少しだけ、伸ばす。
んんん…早く腰に来るのは、もしかしたらゾロじゃなくて、オレのほうかもしれない…。

ゾロが、さら、とお腹のところを撫でて。
「…ッ」
くすぐったさに軽くゾロを睨むと。
ゾロはさっさとズボンを履いて、キッチンに行ってしまった。
コーヒーでも淹れるのかな?




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