持ったままだった空のカップを置いて。
そのまま、ゾロにぎゅむ、と抱きついた。
「オレもアナタのために歌うの、スキ」
「サンジ、」
「アナタに熱くされて、蕩けるの。すごいスキ」
僅かに微妙な声音のゾロに、すり、と頬擦りをする。

「ふうん?少しは成長したか?」
セイチョウ?
く、と背中を抱きしめられた。
「セイチョウしたかも。だってね?」

最初の頃は、朝起きるのとかすごい辛かったけど。
今はちゃんと起きて動けるし。
ゾロの…入ってくるの、痛かったケド。
今は、そこまで痛くないし。

じぃ、っとゾロの目を見上げて、そう言ったなら。
「あ、でもまだちょっと痛いから、オレもまだまだかにゃ?」
ゾロが、笑い崩れる一歩手前くらいの顔をして。ぐしゃんぐしゃんにオレの頭ごと、髪を引っ掻き回した。
「とんでもないな、オマエ」
「うにゃ?そうなの???」
とんでもないの?
ギリギリに笑いを押さえたゾロの声。
ううみゅ…?

「これ以上オマエのこと、好きにさせてどうしようっていうんだ?」
「うん?」
もっとスキになってくれるの?
く、とゾロの目が細められた。
「一緒に暖炉の前のラグの上で、愛し合おうよ?」
「ふうん?オマエは一人だけどな・・・?」
笑いを含んだ目が、きらん、と光った。
「オレが二人いるわけないよ?」

こくん、と首を傾げて問い返したオレに。
ゾロはすう、と乱した髪を指で梳いていった。
「そっくりそのままのレプリカなんてありえない」
「いても困るな、」
「うん、困る」
じい、とゾロを見上げる。
「オレが思いっきりゾロと愛し合えないのは、困る」

フン、とゾロがイジワルに笑った。
んん?小首を傾げる。
そこはウン、って言う場所じゃないの?

「可愛い子ネコには褒美をやれ、と言われた」
「ほえ?子猫?褒美?」
何のことなんだろう?
コネコ、にはシーヴァ、でしょ?
「あァ。子ネコチャン。オマエに褒美をやろう、」
だから、きっと言ったのは、リトル・ベアなんだろうけど。
「…って、オレ!?」
オレ、こんな大きくなったのに、コネコなの???
うんんん?プレゼント???

セイチョウ途中の子ネコチャンだろ、オマエ。
そうゾロが言って。ちょん、と唇にキスをされた。
「うん、まだ成長止まってないけど…?」

まぁ、エサで二人分はゆうに愉しめよ、と言って。ゾロがに、と笑った。
「二人分?エサ?」
…いったい何をもらったの?
「シーヴァ。後でやろうか?」
「いいもの?」
シーヴァって、なんなんだろう?オレのエサ???
「―――だろうな、語弊はない」

「うん。じゃあ、チョウダイ?」
いいもの、リトル・ベアからもらって、ゾロがくれるものなら。
きっと本当にいいものなんだろう。
「後で文句言うなよ、サンジ?」
「へ?文句?」

す、とまた唇が重なって。
シーヴァっていったい何なの、っていうオレの言葉は飲み込まれた。
オマエ、おれのリミッターあっさり外しやがって。
唇をほんの少し浮かせたゾロが、す、と片眉を引き上げた。
…オレ、ゾロにガマンさせてた???

そのまま、くい、と身体をゾロの下に引き込まれて。
ブランケットにとさ、と髪が散った音が僅かにした。
星空の下、ゾロに見詰められて、胸がとくとくと走り出した。
もっとキスして、って言おうと思って。
ふいに、一個の星が、動いてるのに気付いた。

…気のせい、じゃないよね?
ゾロの向こう側に煌く1個の星。
幾つかの1等恒星を目印に、距離を見る。
うん、やっぱり動いてる。

オレの目線に気付いたのか、ゾロがん?って顔をした。
「あんね?星が、動いてる」
「星は動かないぞ、」
「ううんん、動いてる…星じゃなくて、光、ヘンな風に」

動きを追って動くオレの目線に沿って、ゾロも視線を上向けた。
「ほら、アレ。ジグザグに動いてる」
いくつかの星の名前を挙げて、指で指し示すと。
はは、と笑ってゾロが身体を引き起こした。
オレの身体も起こされる。

「何もかもがめちゃくちゃな所だな、ココは」
「あれって…アレ、だよね…?」
ミカクニンヒコウブッタイ。
「あぁ。Unidentified Flying Object」
「…びっくり!はじめて見たよ!!」

うわー…うわー…チョットありえないよね、あの動き方は。
「まさか、ホンモノだよな?」
「え、ホンモノって?」
ニセモノのUFOって何???ていうか、ニセモノなら、確認済み飛行物体じゃ…?
「や、だから、」
「はう?」
「二人揃って幻覚をみてる、って訳じゃないよな」
「…まさか、ホットワインで酔うわけないしね?」

ゾロに視線を合わせる。
幻覚系のものなんか、何も口にしてないよ?
くく、とゾロが笑った。
遅効性の毒でも盛られたか、と言って。
「でもそんな味しなかったし?」
「だから、冗談だよ」
「…あう」

またゾロにしてやられてしまった。
ぐしゃ、と髪を引っ掻き回して。ゾロがまた空を仰いだ。
ホンモノかよ、って呟いて。
どこか、ゴキゲンなゾロの声。

二人で座り込んで、ジグザグの光が動くのを見ていた。
…ううん、なんなんだろう、あの光?
不思議だなあ???

ふいに、鼻にキンと冷えた空気が入って。
「…っくしゅッ」
クシャミが出て、ふる、と震えた。
そういえば、毛布からもう出てたっけ…。
「…くしゅんッ」
「戻るか、」
ゾロがまだまだ弾んだ口調で言った。
まだ、暖炉に火は入れられないけどな、って言ってた。

「うん、まだ夏だしね?」
ず、と鼻を啜って答えたならばゾロは。
「バカなコほど可愛いな、」
きゅ、と頬を引っ張られた。
ひく、とクシャミがでかかったのを無理矢理飲み込んだ。
…今くしゃみしたら、痛そうだし。

ばさ、と一度砂を叩いてから、包んでいたブランケットで包みなおされて。
く、と抱え上げられた。ゾロの腕のなか。
どうやら魔法瓶とかカップとかは、置いていくみたいだ。
…ま、いいか、明日取りにくれば。
ほわ、と暖かい熱が、毛布を伝って伝わってくる。

「…あったかい」
ほにゃあ、と笑った。
「もっと熱くなって蕩けるんだろ、」
「…ウン」
からかい気味のゾロの声。
だけど、うん、もっと熱くなって、蕩けたい。

「楽しみにしておくさ、」
「うん」
ちゅ、と鼻先にキスされた。
「にゃあ…」




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