「あ、そうだ」
ジャックを見遣る。
「あ、オマエ惚気るきだろ、そのカオ」
「んー?声もいいぞう?」

イギリスのある方向、ってどっちだ?
ま、いいや。
大事な「天使チャン」は無事大学に戻って。2日ばかり件のコイビトと一緒だった、ってことは。もうセトは知らされてるのかネ?
どうやら天然にふわふわしたコのようだし、セトの天使チャンは。
いってナイか?まだ。

「ジャーック、」
「ヘイ?」
「プレミア。生で声聞きたい?」
「あン?デンワすんのかいまから?」
「そ、どうよ?」
サムズ・アップ。
にか、と笑みつき。

ちらっと時差を浮かべて。この時刻ならもうレッスンは終えてる、と見当をつける。
「寝起きの声が絶品なんだけどね、残念でした」
「ハイハイ、」
ひらひら、とまた左手が揺らされる。

コール音、それが3回ばかり。
4回目、ン?まだレッスン中かもな―――
『Hello?』
「Hei, Seth」
低くもない、高くもない。絶妙にいい音階にある声だな、いつ聞いても。
『Hey ya, darling』
笑い声。
ジャックがすい、と眉を引き上げた。

「おれのバカ従兄が、天使チャンをガッコウまで送っていったヨ。聞いてる?」
新学期、ちょっと遅れちゃったけどね、と付け足した。
『わお!まぁじ?』
「そ、無事にエンキョリレンアイするみたいだね」
『わは!そうかそうか!』
「イエス。オニーサンとしては満足?」
嬉しそうに、あのオトウトがねえ、と笑うセトに。まぁったくだよ、と心の底から同意した。

『上出来?』
くす、と僅かに甘味を増した微かな笑い声が間近で。
「ん、いまここにあンたがいれば文句なしに。目撃者も混ぜて話せたんだけどナ?」
『目撃者?だぁれ?』
「おれのダチ、」
にこ、とまたジャックがしていた。
『へえ?』
嬉しそうな口調だった。
『あ。それでいま一緒なんだ?』

Hi,と。ジャックが笑みをのせたままで聞こえるように口に出していた。
「聞こえた?」
くすくす、と機嫌がいいセトの笑い方だ。
『Ya』
「とてもヒトの喉笛に喰らいつく子とは思えない、」
ジャックも笑っていた。これも多分聞こえたな、セトに。
「ってな?そういうのもコイツ目撃してンだよ」
『うわ!その報告は何年も聞いてないぞ、どんなだった?』
「生で聞きたい?目撃者から」
『もちろん!』

ひょい、と端末を押し遣った、ダチに。
わらってばかりの、随分と賑やかなテーブルになった、当然のように。
アイジンが上機嫌だと、おれも気分がイイ。
漏れ聞こえるセトの声は明らかに愉しんでいる風で。
ジャックは、ウィンクを寄越してきた。ほらな?イイ声だって言ったろうが。




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