SANDRA

サンジは、ヴェットレナリィ(獣医学科)から一般へと科目を変更した。
夏、返ってきてからすぐ。
科目は、環境科。
まあ、サンジには似合いかな。

成績は優秀だったし、教授たちも止めたけどね。
サンジはあれでもガンコだし。
恋路の邪魔をするものは、馬に蹴られて―――だものねえ。

卒業したら何になるかサンジに訊いたら。
『うん?…へへ』
だって。
ごちそうさま。オネーサンとしてはもう笑うしかないわね。

修士課程でまだ在学中のヒナ先輩は。あいかわらずサンジを見つけては抱きついている。
『ベイビイ!!』って口付けながら。

まあ、言っても直らないし。
害はないから放っておくかな。
サンジも。
『ヒナのベイビイじゃないもん!』
って口を尖らして言ってることだし。
まあ、お互い。
いい遊び相手かな。

『ベイビパイはヒナのハニイよう』
ハニィ、ねえ。
まあ、サンジってばそうとう、色っぽくなったけど。
『そして、ダァリンのスウィーティだわ、プレシャス』
にこ、と特別に華やかな笑み。
サンジがまた、ぷくう、と膨れて。

その様子がまたかわいいから。
カフェテリアの連中は、黙ってふたりの"いちゃいちゃ"を見守っている。
騒がしく、見目麗しく。
すっかり大学の名物だ。

そこへ、あのタラシが加わる、時々。
嵐のように、ずかずかとアタリマエのような顔をして、カフェへ。

上機嫌、頬にキスの嵐。
サンジに、ヒナ先輩に。
タカフミには、アタマをさらりと。
ワタシにも頬にキス一つ。
これは…まあ、ついで?

目、ダーク・アイグラス越しに、翠の双眸が合わされる。
『よぅ、』って挨拶。
その間にも。
サンジとヒナ先輩は、奪い合うように抱きついていく。
これもまたカフェの名物、ゲリラ的な限定品だけど。

で。
居合わせたオトコたちは落胆し。(どっちに、とは敢えて言わないわよ?)
オンナたちは、落胆したり、喜んだり。(まあ…ねえ?)
悲喜こもごも。
けどまあ、本人たちはちっとも気にする様子はなく。
そしてあっさり、二人は彼の腕の中にすっぽり挟まって。

『授業開始までには返すのよ』
笑っていつもそう言うけれど。
『さぁ?サンジに訊けよ』
に、と笑みが返されて。
頬に一つまたキスでドロン。

カフェには、毎度かならず悲鳴嬌声が沸き起こり。
ああ、もう。
いい加減慣れなってば。
写真も撮るんじゃない!
没収!!

ダンテは。
アメフト、プロのドラフトにかかって。
もう大忙し。勉強もおろそかにできないしね。本人もそんな気持ちはないから―――ある意味、ダンテも嵐かな。
我が大学の一般向けの有名人。

そんな彼が、たまにゾロを見かけると。
『ああ!またサンジ攫っちまうのかよ!』
と笑って。
どす、と肩口に拳を一つ。
手加減はあまりナシ。
あのオトコは結構本気。
忙しい"兄貴分"としては、その"ヒトコト"に全部を集約しちゃってるカンジ。

ヒナが「ダンテ!」ってケラケラ笑っている間に。
ゾロはさらりと笑みを浮かべ。
サンジはバイバイ、と手を振りながら。
『オレが行きたいから行くんだよ』

ああ、もう。
だからそう大々的に惚気るのは止めなさいっての。

タカフミは、そんな彼らを見て。
『強いよねえ』
って笑う。
まあったくだわ。

うっかりサンジにつられて入学しちゃったフレッシュマンたち。
新学期早々、色っぽくなってきて帰ってきたアイドルに。
初心な連中はあっさりとしてやられかけてたけど。
やっぱり。
最大のお守り"ヒナ先輩"と。
大魔神、大本命、御本尊の"ゾロ"を見ちゃえばね。
ハ。
張り合う気なんて、霞のように消えるわよねえ?

サンジの、"恋してるんだ"の眼差しの威力には。
あの遊び人のライブラリアンだって、白旗を上げたくらいだしね。

あーあ。
サンジは。
やっぱり卒業後、ダァリンのところですっぽり包み込まれちゃうんだろうなあ。
いま見れている私たちってば、"ラッキー"ってこと?

冗談じゃないわよ。
少なくとも。
ワタシはかわいい"トモダチ"がどうしているか。覗きに行くわよ?
文句は聞かないわよ、だって、ねえ。
ベイビィを好きなのは。
アンタだけじゃないし?

サンジが在校中。
万が一ヘンな虫がつかないよう、見張ってるから。
せめてそれくらいは、融通しなさいよ?




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