SETH

"My Lover Man"からの第一報。
『ご実家に挨拶に伺います』
笑いを抑えた声が、留守電に入ってた。
―――ハ?

そう思って電話をかけ返したら。
あの1クセも2クセもありそうなオトウトの代わりに、実家にサンジを送りに行くということだった。
ご本人は"いろいろあって"行けないらしく。
…まあ、印象的にも、エディのためには。
オトウトよりはアイジンの方が少しはショックが薄い、かな?

『おれさ?革命家の血族』
「革命家、ねえ」
けらけらと笑って返した。
納得できなくはない、かな?
「でもオマエ、もっと洗練されてるケドな」
そうアイジンに言ったものだった。したら。
『こっちで生まれてるって設定ナ』
悪ガキみたいに言われちったよ。

『ダイジョウブ、ジュリエットはちゃんとガードするさ』
「頼りにしてるサ。ああ、けどな?」
車屋ジャックのハナシを思い出す。
『ん?』
やさしい声、イイね。
「ジュリエットは野性的だから。最初は自分から手を伸ばすなよ?」
笑って軽口。
もちろん噛み付くワケがない、オレの天使チャンがさ。
オレとオトウトの大切なモノに。

『あンたにも出してないデショ』
くっくと笑うコーザに、くす、と笑って返す。
「イイアイジンだよな、オマエ」
そんな軽口を暫く交わしてから、通話を切った。


コーザがコロラドへ移動している間に、サンジとも電話で話した。
オトウトからはちゃんと連絡が入ってたらしく。
『う〜〜〜、ドキドキするよう、』
なんてことを言われた。
エディとシャーリィに会うことと、オレのアイジンに会うこと。

「いいヤツだよ、オニーチャンがアイジンしてるだけあるって」
『―――オレまだそれ信じられないよ。セトが誰かのアイジンって』
小さく感嘆の溜息。
おや、オマエ、随分とドラマティックな表現をするようになったじゃないの。
「ん、まあなァ。オレも信じられないけどな。けど、すっげえ楽しいんだよ」
コーザといるのは。
バレエ以外の世界を知る、再び。

『うん、セトも。ゾロも。大切にしてるヒトだから。ちゃんとするよ、ダイジョウブ』
「よろしくな、ベイビィ」
そして、ハナシはエディとシャーリィのことについて、移っていった。
「エディ泣かせる覚悟はオオケィ?」
『う、泣く…と思う…?』
「泣かないとは思えないヨ、残念ながら」
『うん、――――うん。でも、それでもオレ』
「ゾロがいい、ダロ?わかってるって。泣かされてないな、オマエ?」
『泣くよー…寂しいもん、会いたいから。ケド、うん、エディとちゃんと約束したことは守る』
ハ!泣くのか、やっぱり。…まあ、ショウガナイよな。恋愛中だもんな、オマエ。
「オマエ、随分とヒトっぽくなったね、天使チャン?」
からかえば、サンジが笑った。
そして返事は返ってこなかった―――ふぅん?


それから、サンジとしばらく話して通話を切り。
次に電話を貰ったのは、コーザがサンジを無事にピックアップした、という報告だった。

『ハグされたよ、合格かな』
お、これは初めて聞くトーン。嬉しそうな"オニイチャン"。
「オレの天使はかわいいだろう!」
『一個言っていいかな?』
「んー?」
『あンたの方がカワイイ』
くう、と悪ガキみたいなトーンのコーザに笑った。
「Oh, come on!(ハハ!まぁたまた)」

それからサンジに代わられた。
「オレのアイジンはどう?イイオトコだろ」
訊けば、サンジがくすくす、と笑った。
『うん、すっごく楽しいヒトだよ。イイ"ヒト"だね』
―――おやま。最大級の賛辞、だ。
「さすがゾロの従弟?」
『あんまりゾロには似てないかも』
わはは!サンジ、そういう意味じゃないヨ。

『うん、セトがすっごく好きになってるの、解るよ?』
―――ウン?
『うまく言えないけど。うん、オレ、結構好き』
くすくす、とまた笑うサンジの声。
背後にコーザの声。
『ありがとうな、ベイビブラザ!』
笑ってるしな、オマエ。

そして、運転手の声が、行きますよ、って促してた。
渋めのイイオトコ、ナイフみたいな眼差しの、兼ボディガード、何度かカオを合わせたことのある。

「ベイビ。なにがあってもダイジョウブだからな」
『アリガトウ、兄貴』
ふわ、と笑うサンジの声。
―――あーあ。
こんな声を出せるようにしちまったんだなぁ、オトウト。
本当に、愛し合ってるんだな?

通話を切って、ベッドに寝転がって考えた。
ボリショイ・バレエの馬鹿プリンシパル、ミーシャ。
オトコ相手の恋愛なんてやってられっか!って散々蹴散らし捲くったが。
ふン、オレの天使チャンが恋愛なんてもんをやってるンだから。
有りは有り、なのか?

そうすっと。やっぱり何が大事かっていうと、"相性"?
そろそろアレの耳にも、オレがパトロンのアイジンに収まったってハナシ、流れてる頃だしナ。
一丁落とし前、付けておくか。

昨日届いた手紙とバラの箱。
メッセージ・カード。
『Dear my beloved Prince Seth』
オレはオマエの最愛の王子じゃねえっての!
いつまで公演だって?―――しょーがねえな、まったく毎度毎度。オレ以外、オマエならいくらでも取り放題だろうが。

書いてあったプライヴェート・ナンバ、ホテルから直接の。ソレにかける。
オレはオマエにゃ興味ないって。
さあ、今度こそ納得しろよ朴念仁!




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