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 10:00 a.m.
 
 オーケストラ部の、ストリングスのコたちが校歌を演奏する中、壇上にゲストたちが現れ。
 一同規律で国歌斉唱。
 学部長のスピーチから、卒業式は幕を開けた。
 
 ゲスト―――動物園専門で世界を回ってるアニマル・ドクタがスピーチを終え。
 その後に、オレの知らない同学年のコが、何かをスピーチしていた。
 サンドラの出番はまだで。静かにスピーチの原稿をこっそり広げ、復習していた。
 ダイジョウブだって。
 いつものサンドラでいれば。
 
 壇上に目を戻した。
 けれど、アタマは移ろう。
 『サンジ!卒業オメデトウ!』
 ぎゅうっとセトに抱きしめられたことを思い出した。
 『うーわ、オマエ、オトナっぽくなったねえ!』
 頬にちゅ、とキス。さらさら、と背中を撫でられた。
 
 セトと会うのは、数ヶ月ぶりだから…ちょっとセリフが可笑しかった。
 『この間会ったでショ?』
 言えば、セトがぷに、とオレの鼻を押して笑った。
 『この衣装が感慨深くさせてるんだっての。オマエももうハタチ?うーわあ!』
 ケラケラ、と笑うセト。
 柔らかな色みのアイス・ブルゥ。
 
 『なあ、ダーリン。オレのベイビィ、キレイになったよなあ?』
 セトがするんとソレをコーザに移して言った。
 オレに目を合わせて、すう、って微笑んでたキャッツアイのような眼差し。
 サングラス、外されて。直接オレと目線をあわしてくれてた。
 隣ではゴキゲンにふわふわと笑うマミィ。
 その横には―――ちょっと顔が曇り気味のエディ。胃が痛いのは治ってないみたいだった。
 
 『んん……?そうだなァ―――でもさ』
 にこお、とコーザが笑う。ふわりと90%の好意と10%の茶目っ気で出来た眼差し。
 『セトのがカワイイけどなぁ』
 にーっこり、って。コーザが笑う。
 
 ふわふわと優しいマミィが、けらけらと笑ってエディの肩に頬を寄せてた。
 セトが、『だぁから!ベイビィのがかわいいって!!』とか笑って言ってたけど。
 オレから見れば。セトはとてもカッコイイ。そして、最近はますますキレイだ。
 なんだか―――うん。宝石とか、それこそジャグァみたいに。
 
 『あぁ、でもこれは個人的見解で。二人ともとても魅力的ですよね』
 ってコーザ、エディとシャーリィに言ってたけど。
 『セトの卒業式、よく覚えてるよ、オレ』
 笑ってコーザに目を向けた。
 『すっごい、すっごいキレイだったけど。今のほうがいいね』
 
 『ベイビィ!!』
 セトが大笑いでオレにハグをくれた。
 合わされたコーザの眼差しが、とても優しくて。
 オレまで嬉しくなる。
 『今日はオマエの晴れ舞台だろう!こっち褒めてどうする!』
 コーザがにこお、と笑って。
 『卒業生からプレゼントもらっちゃったよ、おれ』
 なんて言ってた。
 
 『来てくれて、ありがとう』
 セトとコーザにハグをして、キスをした。
 さらりと二人からも返されて、嬉しくなる。
 コーザからは、さらっと髪を撫でられ、おめでとう、の言葉を。
 セトからは、頬にちゅばってキスと、ぎゅうう、ってハグ。
 
 エディとシャーリィにも、同じように告げた。
 ハグとキス。
 時間はその時、8時間際だった。
 
 『ええと、セト?』
 向き直って、ポケットに入れておいた家の鍵をそうっとセトの手に握らせる。
 『預かっておいて』
 コーザに向かって、一つ笑み。
 セトがエディとシャーリィには見えないように、鍵をコーザに見せていた。
 解るかな、これで?
 多分ゾロとは連絡が着いてるんだろうけど…。
 
 サングラスかける振りをしたコーザが片目を、ぱちんと閉じていた。
 オール・オッケイ。
 エディとシャーリィをオネガイします。
 
 『じゃ、オレ行くね…?』
 エディの頬にキスをして。シャーリィの頬にもキスをして。
 コーザとセトの手を握ってから、歩き出した。
 人混みの中にありながら、どこか距離が他からは空いていたのが、出てみれば解った。
 そうだよね、セト、有名人だしね。
 
 戻ってみれば、サンドラにくすくすと笑われた。
 『サンジの家族って派手!!』
 『ええ〜?そんなことないよう!』
 『それにあのハンサム、誰?』
 『ああ、うん。あれはオレたちの大事なヒト』
 コーザがタイプなんだ、サンドラは。
 
 『恋人は―――待って、夢が壊れるわ、いまの質問ナシね』
 『ウン』
 『サンジから大事なヒトって言われるくらいなんだ、すっごくイイヒトなんだろうなあ』
 『サンドラもオレの大事なヒトだよ?』
 少し追いついた背丈。
 きれいに化粧が施されたサンドラの顔を見詰める。
 『今日までありがとう、サンドラ。ダイスキだよ』
 『ちょおおっと、ヤメなさいよ。まるで娘をヨメに出してる気分になるじゃないの、』
 くすくすと笑って頬にキスを貰った。
 『タカフミたちが一緒じゃなくて残念』
 『学部が違うからね、ショウガナイわ。バカみたいに大きな大学ですもの』
 『ン。あーあ。最後にダンテとかに挨拶したかったなァ』
 
 笑っていれば。カジュアルだけれどキレイにドレスアップしたヒナが走ってきた。
 『ベイビイ!!!』
 手を振りながら。
 『ヒナ先輩?』
 『わお、ヒナ』
 ぎゅう、ぎゅうう、ってオレたちにハグが来る。
 
 『ベイビイたちの晴れ姿、見にきたわよう?』
 大輪が綻ぶような笑顔。―――ホント、ゾロが間にいなければ、すっごい好きなのになあ。
 『ヒナ先輩、そういえば―――』
 『ヒナ、って呼びなさいダァリン』
 サンドラがヒナに小突かれてた。
 『ああ、もう。アタシはサンジじゃないんですからね!』
 くすくすとサンドラが笑う。
 『ヒナ、は。トランスファ、しちゃうんですよねえ。寂しくなります』
 
 きゅう、とサンドラがヒナに抱きついていた。
 そう、ヒナ。なんでだか、コロンビアに移る、って言ってた。
 『ダァリンも遊びに来るのよ?』
 きゅう、とハグしながらヒナが言う、。
 『もっちろん!冬が来る前に、一度遊びに行きます』
 くすくすと笑ってサンドラがオレにヒナの肩越しに言った。
 
 次にはヒナはすい、と離れて。
 『見てるわ』
 ってまたにこお、って笑ってた。
 それから、いつの間にか顔なじみになってたらしいセトと、コーザのところに走って行ってた。
 ハグとキスの嵐。
 周りが一瞬騒然となる。
 
 『―――派手ねえ!』
 ケタケタとサンドラが笑う。
 『んー…そう、だよねえ』
 『ああ、もう。そんな哀しい顔するんじゃないの。サンジのダーリンが時間通りにこないのなんて、いつもどおりじゃないの!』
 『うー…でも、寂しいよ?』
 『ああ、もう!一緒に暮らすんでしょ!?』
 笑って頬を撫でられた。
 『ウン』
 笑って返す。
 
 『……ベイビィ、極悪だわ……最後まで惚気倒す気?』
 『あ、そんなつもりはなかったんだけど』
 『ウソおっしゃい!』
 クスクスと笑いあう。
 『ああ、でも。サンジに会いに行くわよ?間男ならぬ間女になってあげるわ』
 『あはははははははは!』
 笑いあって、またハグ。
 
 『…あ、そろそろ整列だわ。もおう、時間ばっかりかかって面倒くさいってば』
 サンドラがオレの背中を緩く抱いて促す。
 『ま。あのタラシが万が一これなくても。キャンパスTVがあっちこっち出没してるし。新聞の連中も来てるし。
 ラジオはさすがに…ライヴはやらないけど。映像は残るから、気にしないの』
 『あんまり映りたくないなァ』
 『おにーさまはショウガナイけどね、有名人だから。けどアナタの家族とか、あのハンサムとか。もし来てもダーリンだって
 平気よ』
 『うん?』
 『オネーサマをナメるんじゃないわよ?何のために学年トップをやってたと思うの!!コネだって作ったし、オネーサマに
 任せておきなさい!』
 に、と微笑まれて、頷いた。
 『さぁっすが、サンドラ!かっこいい!!』
 『アリガト。―――ほら、席こっち。座りましょ?』
 
 壇上ではいつのまにか、スピーチが終わっていた。
 聖書からの引用の後、卒業生の誰かがヴァイオリンを弾いていた。
 ツゴイネルワイゼン。
 心地よい旋律が、青空に飲み込まれていく。
 
 静かに目を閉じて、ヒトに囲まれた自分の現状を感じ取る。
 落ち着いていられるのが不思議、だ。
 ほとんど知らない、他人ばかりなのにね?
 
 壇上に目を戻したなら―――アレ?
 あのヒト……どっかで見たような……?
 周りと空気が違う、どっちかっていうと……うううん?
 
 華やかなのに、どこか切れ味の鋭い男性が居た。
 サンドラを突付いて、アレが誰なのかを訊く。
 「あ、あのヒトね?獣医学科にばっかみたいな巨額の寄付をして、奨学生基金を設立したヒトなのよ」
 「―――へえ?」
 「名前がね、ちょっとヘンよ。あのヒトね、ああ、ほら。ここプログラムにも書いてある。見て、ここ。あのヒトは"エミーリオ―――」
 
 
 
 
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