9:20 am, Saturday

ドライヴァ、ドルトン、ペル、の。
愉快な同乗者とドライヴ、ときた。

今日の夕刻にはまたこちらまで戻る旨と。
家の連中、スーリヤをはじめ大概全員慣れたと思うが、2―3日の間はバカネコがいるからと騒ぐな、と。徹底させることにした。
そして、すうと。
紛れ込ませた軽口が立ち消えていった。
なにか言いかけてやがった、
子守りが。

クルマはなんの支障もなく空港へと到着し。
「向こう」も、同じように快晴なのだろうと思っていた。

結局未だに会わせるチャンスを逃し続けていたあのイカレオヤジとサンジを。
まとめて思い出し。
会わせた方がいいだろうことはいくらなんでもわかっている。散々、子守りからも言われていたしな。

最後にかかってきたデンワは。
妙に機嫌がよさそうで、聞いている方の背中が冷えた。
遊びを思いついたのだ、と言っていた。
掘り下げて聞く気は無かったので、そのままにしておいた。
―――妙にいまになって。引っかかる

そして、ガルフのタラップを上るときに。
地熱を吸い込んだように、足元がゆらりと撓んだ空気越しにまっすぐに立つ子守りが。
目を、僅かに空に上向けた。

蒼ではあるが、あの遠い場所。乾いた土地で仰ぐソレほどにはどこか追いつけない鈍い蒼だった。

眼差しを上向けたまま。
その薄い唇が笑みに似た、それでも一切の感情を消すために引き伸ばしたに違いない線を浮かべていた。

「ここから先の道筋は―――」
タラップに掛けていた足をそのままに振り向く。
「あまりにバカバカしくて、とても現実だとは思い難いものがありますね、ゾロ」
「ダコダハウスの前で歌でも歌えばどうだ?」
返す。
あまりに有名な歌の1フレーズ。

何かを払うように、ペルが空で右手を一振りした。
信じてなどいない方が良く仰る、と。小さく続け。
性質の悪いことに、―――や、むしろ。あまりに「らしい」のか?
冗談めいた口調と、笑ってなどいるはずのない眼差し。それがちらりと一瞥を投げると。
「卒業式、ねぇ」
小さく呟き。
「どれほどそれがタイクツな式典かまさかお忘れではないでしょうね」
ひら、とまた手を一閃させると。
「善良なアメリカ市民に迷惑をかけることは慎まれるように」
にぃ、と。
唇を吊り上げていた。
―――言いやがる、クソ子守りめ。

おれより先にタラップを上がっていたドルトンが、堪らず、といった風情で喉奥で笑いを殺していた。
その背中を軽く押す。
「後ろがつかえてるンだ、早くしろ」
「ゾロ…!」
ドルトンが笑みを乗せたままで振り返り。
「あぁ、黙ってろ」
わざと唇を引き結び応えれば。
ドルトンが盛大に笑い始めていた。
オマエな――――そこまで受けることはねぇだろうが。
おれは、あの子守りを相方にした覚えは無いぞ。

シートに着き。
イラナイと言ったのにやはり聞く耳もたなかったのか、このガルフの持ち主、あのイカレオヤジの好みの一系列、
キャビンアテンダントがシャンパンをサーブする頃には。
もう何度か訪ねたことのあるあのやたらとデカイ校内では、とうに式典が始まっている時刻だった。

まぁ、おれは。
そもそも、式の最初から参列しようなどとは思いもしなかったからそれは問題ナイ。
ああ、ただ。
サンジがやたらと嬉しそうに報告してきた、サンドラのスピーチ。
アレを聞かないと後々面倒か?
―――まぁ、少しはな。




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