長い一日。家をでてから12時間以上経っていた。
緩く背に回していた腕を解いて、最後に頬へ唇で触れて。
「バスで身体伸ばしてきたら?その間にエリィと遊んでるから」
優しい眼で見下ろされてきて、言葉にし。
「オーライ」
袋から取り出したリーシュをひら、と見せれば。とん、と唇にキスが一つ落ちてきた。
そのまま、バスルームに行く背中を少し見送って。
キレイに皿を片付けたエリィの傍へ戻った。
おれの手の中でキラキラしてるものをみつけて、ヒゲを少し跳ね上げるのにわらった。ティビー3じゃないんだよ、これは。
「よく食べたね」
目の間を撫でて。
くるくると自慢気に喉を鳴らし始めたエリィを抱き上げて、窓辺にセットされていた一人掛けのソファに一緒に座り。
膝にまた身体を伸ばしてきた満腹猫の背中を撫で下ろしてから、後ろからリーシュを首にまず通して。
遊びと思ってじゃれ始める前に、胸前にも通して。
前足もワッカに通させて。
おなか側から伸びてくるチューブの長さを留め金で軽く調整。
「ハイ、出来たよ」
エリィは。
驚きすぎてガチガチになってる、のかなこれは?
「おまえ、石になっちゃった…?」
耳の後ろを擽る。
ぴたりと喉を鳴らす音まで消えてて。――――このオドロキ振りは、ゾロにも見せたかったかもしない。
「これなら、抱いたままで一緒に散歩に行けるんだよ、恐くない」
爪を少しだして足にすがり付いていたエリィをゆっくりと膝から抱き上げて、カオを向き合わせる。
「ほら、平気だろ?」
ハナをあわせるようにする。
「おまえ、重いからね。いっつもゾロに籠ごと持ってもらうの、ヤだろ?」
まん丸に開いたままの金色目に話し掛ける。
「だから、これで練習。―――な?」
目の間にキス。
ほんの少し、く、と喉が鳴りかけていた。
―――ん?慣れてきた?
「ん、いいコ。それにさ、カワイイよ?」
似合うって、と。
ゆくり床に下ろして。
そのままへたり込みそうになっているエリィの横に膝を着く。
「エリィソン、キレイな首輪もカワイイけどね。これもステキだよ?」
歩いてみな?と話し掛けてる。―――猫に?だってしょうがないだろ、家族だし。
「かわいいエリィ、歩いてごらん?いい子だから。おいで?遊ぼう、ほら」
ひらひら、と。腕を伸ばしてフロアの傍でリーシュの端を揺らして。
少しだけまたエリィの長い尻尾が揺れた。
バスルームからゾロが出てくる頃には、エリィもすっかり上機嫌で。
きらきらとライトゴールドのスパングルが揺れて動くリーシュが「似合う」と納得してくれたみたいだ。
「ゾロ、」
トン、とまた額にキスが落ちてきて。
「ああ、似合うな。よかったな、エリィ」
そう、自慢気にゾロを見上げてきてたエリィにも一言投げて。
ゆら、と大きく尻尾をまたエリィも揺らしていた。
「もう慣れたって」
「いいコだ」
「じゃ、おれも行ってこよう、と」
ハイ、と。リーシュの端を渡して。
「ああ、ちゃんと暖まれよ」
「夏なのに、」
「疲れが取れる」
「おれ疲れてないよ」
こっち来い、と指先でエリィを呼ぶ仕種をゾロがしていた。
そんなものを視界の隅っこに残してひとまずバスまで。
エリィはブラッシング・タイムだね、きっと。おれが思うに、あれは。
お互いがリラックスしているに違いない。だってさ?妙に同じようなカオしてるんだよな。
シャワーの栓を捻って、思わずわらっちまった。カオ思い出したから。
バスタブにそのまま流れていくのに任せて、温めに調節したシャワーの下で一つ息を吐く。
何にもしてないのに、妙に疲れたかな、やっぱり。
―――あれだな、多分。
ヒト疲れ。
「まぁ、またそのうち慣れるだろ、」
独り言。
しばらく、ほんとうにゾロとだけいたから。
バカ騒ぎ好きな年上のトモダチを思い出した。あのヒトといたときに比べればね、まだ全然ヒトには会ってないんだけどさ、
今日なんてまだ。
「でも、おれすごく幸福なんだよ」
独り言に混ぜて、ここにはいないヒトに報告した。過保護で手厳しくてとても優しかったヒトに。
ウン、ほんとうにね、おれ。
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