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 フェリーでルウィーズまで渡り。そこで一休憩を取った。
 ルウィーズは、デラウェアのコーストラインでは有名な一大ショッピング・エリアであり。
 ブランド店のアウトレット・モールが何軒も続いていた。
 
 サンジがその中で行きたいと言ってきたのは、1軒のペット・ショップ。
 にこお、と笑うサンジに頷けば、入っていって買ったものは、エリィ用のリーシュ。
 小型犬でも使えるようなハーネスと同じ作りの、透明のチューブに金のスパングルが入ったものを選んでいた。
 数あるものの中から。
 グリーンのスウェードのものと一瞬迷った素振りを見せたが。にっこりと笑って、「リゾートだしね」と言っていた。
 どうせなら両方買えばいいじゃないか、と思ったが。
 これから先、何箇所かで立ち寄って。欲しければその時に買えばいいかと考え直した。
 
 レジで支払いを済ませ、その足でレストランへ直行。
 シーフードのメニュウが豊富だったイタリアン・クイジーンで夕飯を済ませた。
 ワインも美味かったらしい、サンジがにこにこと笑っていた。
 店員が釣られてにこやかになるのはいいことだ。
 
 ガラスの壁越しに湾が一望できるその場所からは、ケープメイ・ポイントの灯台から発せられていた光が過ぎるのが
 見えていた。
 飲んで暫くたってから、サンジが、あ!という顔をしていた。
 運転を代わるとか言ってたけどな。まあ、また後日があるしな。
 
 パーキングに戻る途中で、まだ開いていたフィッシュ・マーケットを覗いた。
 貝柱をいくつか包んでもらい、ボイルされていたエビも2本ばかりサーヴィスされた。
 閉店時間間際だった、という理由だけでは、多分無いのだろう。
 
 車に戻り、食べたそうにごそごそとバスケットの中で動いていたエリィにあと少し待つように告げ。
 包みは冷蔵庫に仕舞って、今夜の宿を取ってあるジョージタウンに向かうためにUS9に乗った。
 20分もすれば、静かな大学の街に到着。
 古い時代のアメリカを色濃く残している石造りの街中を抜け、大学からは離れた場所にあったB&Bに向かった。
 
 「初めて来る、」
 窓の外を見ながら、サンジが言った。
 「明日はチェックアウトの後、しばらくこの町を散策するか?」
 訊けば、ん?と振り向いて、サンジがにこ、と笑った。
 「何時起床デスカ」
 「チェックアウトが11時だからな。朝メシを食いはぐれてもいいなら、10時くらいか?食いたければ9時までには行ってないとな」
 B&Bの欠点、ルームサーヴィスがない。
 朝食の時間は、7時半から9時までの間と来た。ホールで合同。
 
 「じゃ、頑張って起きるかな」
 すい、と微笑んだサンジに笑いかける。
 「まあ起きられなけりゃ、タウンに出て珈琲ショップでブランチでも食えばいい」
 「起こしてナ?」
 僅かに甘い笑顔を浮かべたサンジに、片目を瞑って応答。
 「With Pleasure, darling」
 ヨロコンデ。
 
 そうこういっている間に、車は石造りの建物に到着する。ナヴィゲーション・ガイドの通りに。
 アメリカ独立戦争以前に建築された小さめの屋敷を改造した場所で。
 庭も多分、当時のままなのだろう。大きな木が家の側に植わっていた。
 
 車を降りて、トランク二つとエリィのヴァニティを持つ。
 サンジはエリィのケースと今日買った買い物の小さな袋。
 
 玄関を入って直ぐ、小さなカウンタのあるエントランスでベルを鳴らせば。
 電話口で対応してくれた女主人が丁寧に出迎えてくれた。
 サンジとエリィにも挨拶をし。それから、部屋まで案内をしてくれる。
 セカンドフロアの、角の部屋。
 B&Bの庭が見渡せる、静かで落ち着いた空間。
 
 「朝食は7時半から9時までの間ですよ、ミスタ・ウェルキンス」
 グレイストーンB&Bの女主人からキーを受け取り、頷いた。
 「これからお出かけになられるようでしたら。その鍵でフロントエントランスも開きますから。ではよい夜を」
 「ありがとう」
 
 チップは代金に含まれるということで、支払わずにおき。
 夫人がきっちりとドアを閉めたのを確認してから、サンジに向き直る。
 挨拶の後は庭の方を見ていたサンジに、エリィを出してドウゾと告げる。
 
 サンジがエリィのバスケットを開け。警戒しているチビが、ひょい、と顔だけ出していた。
 「おいで、」
 声をかけたサンジを見上げ、それから金色がオレを見上げてくる。
 「出て来い」
 笑ってやれば、そろっと毛の長い足を差し出し、ゆっくりと出て来て。
 そのままひょい、とサンジに抱き上げられていた。
 「ハイ、」
 「お」
 チビを手渡される。
 
 9ヶ月の割には並みの成猫ほどにすでに体重のあるチビを抱きとめれば、サンジがく、と笑っていた。
 そのまま1度洗った皿に、エリィのご飯を支度して出していた。
 「オマエ、食って寝て。そればっかりだな…?」
 笑ってエリィの毛を撫で下ろしてやり。
 サンジがゴハンの支度を終えたところで、床に下ろしてやる。
 くるくると喉が鳴る音が、床に下ろしてからも聞こえてきた。
 そのままフードディッシュに向かって一直線。
 気侭なモンだ。
 
 カツカツと音を立てて元気にゴハンを食べ出したエリィから視線を外し。
 室内のチェックを始める。
 習性―――カメラや盗聴器、無意識で探す。
 サンジは簡単に。必要なものだけ、ラゲッジから引き出していた。
 手際よく、てきぱきと。
 
 引き出しを開けて、中が空かどうかを一段一段チェックして終わったところに、サンジが服を入れていっていた。
 古いウッドのチェストに真新しいペーパーシートが敷いてあった。
 気配りの行き届いた部屋だ。
 
 カントリー調のウッドのオールド・アンティークで整えられた室内を隅々まで見てから、バスルームの点検。
 ブラスとポーセリンの、何気ない内装で。その場所だけラジエタが稼動しており、その上にバスタオルが2枚乗せられていた。
 チップは弾まなきゃな。
 
 戻れば、サンジがつい、と歩いて来て。ブルゥが見上げてきたと思えば、
 「デザート、」
 そういって、ちゅ、と軽く口付けられた。
 「ベイビィ、」
 さらりと髪を撫でてやり、腰に腕を回す。
 すい、と首を傾けたサンジに笑いかけてから、額に口付けを落とす。
 「お疲れ様」
 「おまえこそ、」
 にこ、と笑ったサンジが、
 「ロング・ドライヴ」
 そう言ってくる。
 
 「アウト・オヴ・ニューヨークの気分は?」
 軽く唇を啄ばんでから訊けば。蒼がすう、と柔らかく蕩け。
 「楽しい、けどそれだけじゃない」
 優しい口調で言っていた。
 「ふぅん?」
 金色の柔らかな髪を梳いてやる。
 「そう、あのな…?」
 する、と手に当たる髪の感触。
 僅かに細まった蒼を見詰める。
 
 「シアワセ、」
 と言ってサンジが笑った。
 「でも、おまえといるからだけど」
 そう続けて。
 「I'm happy too, darling」
 オレも嬉しいよ、と告げて、柔らかく唇を啄ばむ。
 柔らかく甘い笑みを浮かべたサンジの額に、こつ、と額を合わせる。
 背後で小さくエリィが欠伸をしているのが聞こえた。
 
 
 
 
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