トロピカルガーデンとローズガーデンを、のんびりと歩いた。
月が出ていて、それはそれできれいな情景ではあった。
月だけであったのなら、もっときれいだったかもしれない。

ライティングに惑わされた虫が立てる羽音と僅かな風に揺れる梢。
どこか浮いたトーンにも関わらず、何かを決心したように僅かに早口で喋るサンジの声。
マグノリアの花は咲いておらず、ただ緑の葉が生えた木があるだけだったので、帰りにバーに寄るのはナシだな、と言って
部屋まで戻った。
サンジが何を思いついたかは知らないが―――まあ、多分。
何かをナイショにし続けるのは、サンジの性格上無理だろう。
もう暫く気付いていないフリをしてやろうか。
その方が楽しめる―――きっと、何かのゲームなんだろ?
最も―――それがゲームになるのはオレだけで、案外サンジは本気だったりとかするのかもな。

「サンジ」
冷蔵庫から水を出してやる。
くう、と見上げてきた青にグラスを差し出した。
「風呂、どうする?」
サンジの返事を待ちながら、グラスに入れきらずにおいた水をボトルから直接飲む。
軽い運動の後ではあっても、水分は欲するものだ。

水を戻しかけていたサンジに、飲め、と目で仕種する。
後でバーで飲みたいのなら、なおさら今、水分は補給しておくべきだ。
アルコールで体内の水分は更に失われるのだから。

サンジが半分ほど飲んでから、入る、と言っていた。
「先に入るか?」
すい、と首を傾け、どっちでも?と返される。
フーン?ワガママ仔猫チャンにしては、珍しい返事だな。
「おまえ、先にドウゾ?疲れてるだろ?」
ふわりと微笑んでいた。
ますますもって珍しいこと言うな。
「それじゃあお言葉に甘えて」
「うん」
トン、とサンジの唇にキスをして、バスの支度に向かう。

にこお、と笑っていたサンジにひらりと手を振って。
「先に飲んでるなよ、」
釘を刺しておく。
アルコール飲んだ直後に風呂?サンジならやりそうだ。
案の定、バスルームに入る前にちらりと振り向けば。
サンジが、う、と詰まった顔をしていた。
「ばれた?」
「いい習慣じゃない、極力避けなさい」
「はぁい」

コドモのような返事に笑いながら、バスタブに湯を流す。
昼間入っても、明るくていいかもな。
バスルームのラジエタだけは夏場でもついているらしい。タオルがかけられるようになっているからだろう。
服を脱いでちらりと鏡に映った自分を見遣る。
縫い合わされて目立たない傷痕。銃創は火傷の痕になっている。

シャワーをアタマから浴びて、シャンプーを泡立て。
流し終わった頃に、ひょい、とサンジが覗いた。
「ゾロ、やっぱりタイクツ」
その場で服を脱ぎ出し、使用中のタブではなくシャワーブースの方へ浴びに行っていた。
ますますもってオカシイ。甘えたがりのサンジだぞ?

水浸しのままローブだけ着直し、さっさとバスルームから出て行っていた。
「オイ、ちゃんと拭きなさい」
「あとで!」
あとで、ねえ?やった試しがないクセになぁ?
笑ってる声に苦笑する。
なるほど、ゲームはソレかよ。
ふぅん?どれくらい我慢できるか、遊んでやるよ、仔猫チャン。




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