Day Nine: New Orelans
この感覚は―――――知ってる。
寝起き、妙にしっかりしてるンだ……
プールにダイブして、底がきらきらするのを目にするよりも先に水面に浮き上がる感じ。
―――――んん…?
喉渇いた――――
くう、と伸びをして、さらさらとリネンが滑る音が直ぐ側で聞こえて。
く、と。足先まで伸ばして。
爪先が、生地にあたった。
―――――あれ?
足、うううん…?伸ばしてたと思ったんだけ――――あ、ゾロの足だこれ。
腕も伸ばしてみる。温かい、掌に当たる薄い布地を引っ張った。
「―――――ょう、」
一度目きつく閉じてから、明るい陽射しを感じて。目を開けてみる。
片腕と片足で?抱きつくみたいにしてたけど。
んんん?なん――――?視界に文字が――――新聞?
「オハヨウ、水飲むか?」
―――――ん、喉かさかさするよ。
「―――んん、」
これが出来た返事の精一杯だ。
紙のたてる音が少し引いて、額にキスされたのはわかった。
「まぶしぃ、」
「朝だからな」
半分、起き上がったゾロがピッチャーから水をグラスに移してくれてた。
それを受け取ろうと手を伸ばした。
「天蓋、あるのにまぶしぃ、」
ひやりとした水を含んで、喉を滑る落ちていく感覚に目を細めた。
「窓開けといたからな」
寝るとき、確か。
天蓋、幕を下ろしてくれっておれなんだかゾロに言っていたような気がするけど。
透けるような絹は片側に纏められてて、広く取られた窓から風が入り込んできてた。それを受けて、ゆら、と半ばまだ天蓋から
下りてきていた残りが揺れていた。
「ごちそうさま、」
「もう1杯?」
首を横に振った。
「ありがと、」
く、とゾロの胸元に両腕を回してみた。
グラスはピローの山の中に安置。
でも、目を上げずにいても身体の動きが伝わってくる。これは、どうせ。
グラスを取り上げてサイドに戻してるんだな。
「何時に寝たかおぼえてないよ、」
たしか、ジンとウォッカ、ボトルを二人して空けてたような気もする。ゾロに、なにか一生懸命訴えていたような気もする。
気分がふわりと地上を離れかけたままで。
「ああ、知らないほうがいい」
声が笑いを含ませていた。
「まぁたなんか変なこと言ったとか?」
ううん、それほど妙なことは口走ってないとは思うんだけどなぁ。
昨日、こっそりたてた決意にしたって、ゾロに告白したこともない筈。
「まあイロイロと今後のことを考えさせてはもらったかな?」
少し、また笑うようなトーンが加わった声に目を上げようとすれば。
にぃ、と笑みを浮かべたゾロに、頬を軽く引っ張られて。
「――――む?」
なぁんだよう、と間延びした抗議になった。
「だけど、覚えてるんだからな?」
「んー?」
トン、と半分ヘッドボードにもたれかかっていたゾロの胸元、フラットなあたりに頤を乗せた。
長い腕が、読んでいた新聞をフロアに落として。
あれ、と思ったなら視界が反転してた。耳元、ピロウが幾つも重なる。
「そう、覚えてるんだってば、」
そのまま、グリーンを見上げた。
「一人で遊びに行きません、って約束とか―――――」
「そう?」
「うん、あとオマエの言ってた……」
「言ってたなに?」
する、と。着て寝た覚えの無いTシャツ、それが肌の上を少しだけ滑って。
さわ、と肌が寝起きで少し甘くざわついた。
「ん、学習しろとかなんとか、ヒトが――――」
肌の上、たくし上げられてた生地が、するんと腕とアタマ抜けていって。
―――――え…?
あれ?いつの間に?
「他には?」
「知らないヒトに構われないように、とか」
でもさ、それって―――――、そう続きを言葉にしかける。
「“それって”?」
「心配のし過ぎだと思う、って言ったことと…」
「他には?」
言葉を継ぎながら、ゾロが片手でジブンの着ていたTシャツも脱いで。
レースと、半分落ちてきてたサイドの薄い絹を通して入り込んできた陽射しに、しゃらん、と首から微かな音を立てて落ちてきた
入り組んだシルヴァのヘッドが。鈍く光を弾くのを目にした。
揺れるそれを視界に捕らえて。
「あとは、」
ゾロの、半分呆れた風な口調が不意に蘇りかけて。
「おまえが―――――っ」
耳朶を、ぺろりと熱い舌先に舐められて語尾が跳ね上がった。
「オレが?」
く、と息が喉で半ば押し止められてるのに。
なに?と囁くように声を落とされた。
手を引き上げて、ゾロの耳元。ピアスの上を指先でなぞった。
「馬鹿みたいにおれに夢中、って言われた、違う…?」
ほかに、なにかあったっけ―――――?
「That's right(そう)」
ふわ、と甘いままな意識がやんわりと声に絡み取られそうで。
そのまま、耳朶を含まれて甘ったれた吐息が零れて行きそうになる。
「他には?」
「…ほか?」
「そう、」
「あ、」
思い出した、ような。
耳元から、髪に手を差し入れた。
尖ったハナサキ、耳元を擽られるみたいでクスグッタイ。
「殴るなら一発で伸せ、だっけ…?」
でも喧嘩はしないよ、おれ。
「それだけ?」
「ヒント?」
きゅ、と片腕、まわしたままの背中に置いていたソレを少しだけ緩めた。
「ヒントはなし」
「んん、」
ほんの少し、重なりそうで重ならない胸元だとか。仄かに入り込んだ空気が熱いような感触を追いかけていたなら、耳元。
「んっぁ、」
牙を、軽く立てられて指先が跳ね上がった。
首元。カオを埋められたままで、喉奥で笑うゾロの声までなんだか響いてくる。
「え、っと。」
ハンノウし始める体からも意識を切り離すのに、記憶をひっくり返して見る。なに、言われたっけ、おれ――――?
「あぁ、――――うん、あと、」
ひく、と腕が強張りかけた。ゾロの片手、温かなソレが腕を滑って胸元に降りてきたから。
「“あと”?」
「魅力て――――き…って?」
柔らかく耳朶を唇で食まれて、声が途切れかけて。
く、っと差し込まれた熱さに続きなんて喋れなくなった。
「―――っぅ」
「誰にとって?」
甘い、低い声に思わず首を逸らしたくなる。
「おまえ…、ぁ、りえな――けど、」
く、と息を呑みこみ。
早まってる、鼓動を抑えようとした。
「なんで“アリエナイ”んだ?」
「ちが、」
くう、と。リネンの下。下肢を軽く重ねるようにされて声がまた途切れて。
「ん?」
「他人(ひと)…に、も―――?」
「だから、なんでアリエナイんだよ?」
グリーン、それを見上げた。
「だって、」
息をヒトツ吸い込んだ、どうにか。
反らされない翠、それがすい、と降りて。また、耳元を舌先で擽られて。
く、と爪先が一瞬反り返りそうにる。
何度も舌先で濡らされて、体温がまたきっと上がりかける。
「ん、」
避けようと、首を少し反らせた。
伸ばした首筋、食まれて。
「ぁ、っン」
返事が勝手にただの音に変わった。
「“だって”なんだよ?」
言わせてくれないの、おまえだ、と。言いたいけど。見詰めようとしても。
きゅ、と食まれた同じ場所を吸い上げられて、また吐息が洩れてく。
「ぁ、て、」
肌の側で、しゃら、と乾いた音を立てて滑るチェーンにさえ、気を持っていかれそうになってる。
キツク瞳を閉ざしてみた。
「ん?」
「オンナノコの方が、い…とおも――――」
「それはオマエの理由だろ?」
肌、舐め上げられて。意外なほどの熱さに息が押し込められそうになって。
感覚に押し上げられるように、目を開いた。
「ふ、」
あぁ、言葉千切れてるし。
「しぎ、じゃな――――ぃよ?」
「なにが?」
忙しない、息の合間にヒトツまた深く取り込んで。
「りゆう、」
「誰の?」
胸元、掌がさらさらと降りていって。その感覚を追い始める前に言葉にしようとしても。
「――――ぁ、ッ」
指先で、胸元の中心、掬われてそこが立ち上がり始めたことを知って。腕、肩に突こうとしても。
力なんて、全然入らなかった。
答えられたら、離してくれる―――かなぁ…?だって、せっかく―――
「おれの、りゆぅ…?」
「そうだな。じゃあオマエ以外のヤツはオマエと同じルールで生きてないだろ?」
だって、ふわふわしてるほうが……、え?
声に、意識を向けていたなら。
「…ッあ、」
指先で、きゅと尖りを摘むようにされて。リネン、背中で音を立てて。ピロウがいくつか、横に向かって崩れたかも―――――
「ね…、も、起き――――」
「本当に?」
首筋、やわらかく噛まれて。
そこからあまったるい痺れ指先まで拡がっていきそうで。
「あとで文句言ってもきかないぞ?」
「だって、」
「“だって”なに?」
あぁ、だめだ。視界、なんだか光が多いよ。
「ン…っ」
指先、立ち上がりきった尖り、弾かれて。また、背骨の真ん中痺れて広がるものがあって。
「答えてばっ…かり、いられないよぉ」
ゾロの首筋、腕を回して。
ゼッタイ情けないことになってる顔、肩口に隠した。
「まあ一番肝心なコト抜かしてほとんど正解かな」
「なん――――?どういう…」
肩口、カオを埋めるように隠していても。ゾロの唇が裸の線を辿って。
くう、と額を押し当てるようにした。
零れて行く吐息も、肌に落として。もう熱くなりかけてるソレ。
「暫く考えな」
「ゾ、…ろ?」
する、とずらされた半身に腕を預けたままでどうにか唇に乗せれば、
「んー?」
間延びした声、穏やかっていってもいい音が耳に滑り込んだけど。それと一緒に触れられていない方の胸元、濡らされてぴく、
と身体が捻れた。
「した…いの――――?」
「オバカチャン。男性生理としてシタクなかったら勃たねェだろうが。それともオマエにそんなことを忘れさせるくらい、喰いすぎて
ますかね、オレ?」
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