苺。
唇にそうっと押し当てられ、ゆっくりと唇を開いて。
赤い粒を挟んでいた指先に、ほんの少しだけまた歯をたてて。舌の上に落とされた粒を味わった。
拡がる微かな酸味と匂い立ちそうな甘さに口端で微笑む。
目を閉じてみた。
「つぎ、なにくれる―――?」

微かな笑みの気配が伝わってくる。
す、とまた唇の側に宛がわれたものは―――
する、と剥き出され果汁に濡れた柔らかな感触、―――透き通る翠の粒だ。
綻ばせた唇の間からつるりと押し込まれ、またちいさくわらう。マスカット、押しつぶし拡がる甘味に。
飲み込み。何粒がのこる小さな種を掌に受けようとするまえに、唇、舌先で割られて。
押しあわされたそれが、掬いとっていった。
ふつ、と背骨の近く。感覚が蹲った。
伏せた瞼を透かせるように、グリーンが間近であわせられてるのが強く伝わって。
抜け出ていくその熱を、唇で食んだ。
喉奥で低く笑うゾロの。いま、グリーンが煌めいたのさえわかる。
「美味しい、」
眼差しを上げてしまいたくなる。

さくり、と何かが割られる音が届いて。
少しだけ首を傾けた。
そして、またとても小さな粒が唇に当てられて。
あん、とそのままに開く。
落とすなよ、と囁くみたいに教えられて。
また緩く唇を結んで、舌先を唇から少し覗かせた。
何かを挟んだままな指先にぺろりとそれを伸ばして。
擽るように、指先を撫でた。
そして、酷く小さく感じられる粒を掬い取って―――
ふわ、と。
石榴の果汁が味雷を濡らしたとき、額に唇で触れられた。
―――褒められた、んだ…?おれ。

そして舌先の残った種は、またゾロのそれが掬い上げていった。
味覚を充たしていく果物も美味しいけど、
「―――キスは…?」
言葉を乗せたままに薄く開いていた唇の間に果肉を押し込まれて
封をするみたいに、トン、と口付けられて。
半分だけ齧ったそれを、ゾロの唇に舌先で押し上げてみる。
食べる……?おまえ

「――――っふ、」
押し上げていた舌先ごと食まれて。息が零れる。
押し潰された果肉から滴るものだけ、返されて。
く、と喉を鳴らして飲んだ。
また、低くわらう声が届いて。
濡れた唇を舌先で確かめた。
す、と眼差しを上げた。誘惑に勝てなかった、やっぱりおまえのグリーンが光を乗せるさまだとか、笑み。見たいじゃないか…?

鮮やかな赤、が目に飛び込んできて。
同じように深い緑の蔕の部分を持って、ゾロがすい、と苺をまた引き上げて。
触れるか触れないかの位置で、口許に持ってこられた。
グリーンに目をあわせて、果肉を半分、齧りとって。
「食べきれないヨ……?」
こく、と嚥下した。
「平気だろ?」
す、とまた近づけさせられる。―――あぁ、もうお見通しだ?おまえ。
「葉っぱは食べれないもんねェ、」
わらって。ぱく、と蔕の下まで齧った。

「ほら、だって、」
「ん?」
「ヒナ鳥は基本的に口移し、だろ?」
餌付け、とわらって。
「FEEEED MEEEE, PLEEEAAASE??]
たあーべさああせてええ、と。聴いたことはないけど、雛鳥風の口真似をしてみた。

く、とわらったゾロが。
ブラックチェリイを口に含んでくれたのを見たから。「鳴き」止んで見た。
薄い、容のきれいなそれが深い赤を含んでいくのは。かなり視覚のご馳走で。
だけどなぜだか同じくらい、目を逸らさなくちゃいけない気もする。
舌で押し込まれた果肉を、押し潰して。
拡がる重い甘味と、差し入れられたままな舌先の両方を混ぜ合わせて。
こく、と喉元を滑り落ちていった。

指先で摘んだグレープフルーツを口の中、押し込むみたいにされて。
目元で笑いかける。
受け止めてひやりとした果肉の感覚に少し目を細めるようにしたなら、含んだ指先か軽く揺らされて。
ひく、と肩が震えかけた。
半ば押し潰された果肉を咀嚼して飲み込めば。
また低い笑い声。
指を引き抜いたゾロが、とん、と額に口付けてくれたけど。―――蕩けたままだった身体は、ハンノウが早いんだから、
思い出させないようにしていたのに。
ごめんな、とても軽く囁かれでもするみたいに、額を啄ばまれても。
―――許さないわけ、ないんだよなァ。

フルーツプレートが空になるまで、餌付けしてもらって。
「ゾォロ……?」
ゾロの掌に、唇で触れた。
「んー?」
「美味しかった、」
つる、と舌先で指の付け根まで辿った。
フルーツの香り、少し移ってるね。

「まだ腹減ってるか?」
平静なままの声に、眼差しを上げる。
「――――うん、」
「ふゥん?」
ほら、と。
指先に口付けた。
唇を撫でられて、く、と息が競り上がる。
あれだけ、愛されたのに。――――果ての無いものがある。

「欲しい?」
目をまっすぐに覗き込まれるように、問われ。
唇を撫でていた指先を、少し含んだ。
頷く。
そのまま、軽く口付けられて。
ゾロが酷く優雅な獣の仕種でリネンに背中をつけていた。
「ゾロ…?」
少し、顔をのぞき見るように身体を伸ばせば、耳朶を擽るような、それでも強い声が。
「オレの顔跨いで身体落とせ、」
光、とても明るく差し込むこの場所に。
く、と鼓動が早まった。

一旦、気付いてしまえば心臓は早まるばかりで。
動き出すその最初の動作すら、酷く――――はずかし…
リネンの上で、手を滑らせ。
でも、その先がどうしても踏み出せずにいた。
助けを求めるような目線になってるのはわかる、ゾロを見遣ったなら。
ん?とでもいう風な。少しだけ光を弾いたグリーンが返されて。
く、とまた息を一つ呑んだ。

膝立ちになるまで、また脈拍が倍以上上がった気がして。
寝ているヒトの頭の上を通るのだって、気がひける、じゃないか、だって。
どこか強張ったみたいに、近付いて。そんなに離れていなかったはずなのに酷く遠く感じられた。
「――――なぁ…?」
囁き声にもなりそびれて、最後の足掻きめいて言葉にしたなら、
「開いてオレに喰わせろ」
「―――っ、」
強い声に、膝から何かが遡って。
膝を、リネンの上に少し開いて。
手、リネンに突こうと身体を落として。

「オレのも出して喰って構わないぜ?」
投げた目線の先、スゥエットのなかで、かるく息づいている中心があった。
着ていたままの、コットンに知らない間に替えられていた薄手のローブ、とうに裾なんて開いていて。
そろりと伸ばした指先でスゥエットに触れたなら、下肢に熱い息がかかって。
濡れた熱に、辿られて。
「っア、ぁ…っ」
それだけで、高まりすぎた声が零れていって。
きゅう、と目を閉じた。

力が抜けそうになるのか、強張るのか、指先が生地を縋って。
濡れた熱が、辿る感覚に半分意識を持っていかれかけて。
ぴく、と腰が揺れた。
指先、生地を少しだけひき下ろして。
そうする間にも、下肢から熱がひき上がって。
熱を持って、息づき始めていた昂ぶりをままならない指先で触れて。
「っぁ…、っ」
先端、きつく吸い上げられて。手指の上に息を零した。
零れていた蜜、舌先で掬い上げられて。
下肢を捻りたくなる。

ほんの些細なきっかけ、吐息ひとつでさえ肌も過敏に目覚めていくのに。
「甘いな、」
背骨の中心を甘く響いていくような声で囁かれて。
引き出した昂ぶりに指を絡めた。
「―――――っ、ふ、」
唇、濡れていたそれで。
手の中で息づいた中心、熱い息ごと包み込んだ。




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