サンジは今日が2度目、オレは3度目のシャワーを浴び。
のんびりとだらけて2時間ほど過ごしてから、出かけるために着替えを選ぶ。
サンジが洗濯から帰ってきたローブを着たまま、クロゼットの中で泳いでいた。
チャイニーズ・レストランのインテリアに時々ある水槽の中で、優雅に泳ぐひらひらっとした尾の小さな魚を思い出した。
サンジが服を選びながら、腰がおもいよう、と訴えてきた。
「だから抑えてやったろう?」
笑ってサンジが選んだ服をベッドの上に寝かせた。
クロップされたデニムに、薄いピンクのカットソー。オフホワイトのコットンジャケット…ふぅん?カジュアルで纏めるのか、今日は。
「重い、あとでのっかって、」
笑っていたサンジに、にぃ、と口端を吊り上げた。
「なぁん?」
「前から?バックから?」
首を傾けていたサンジが、
「フフン。」
妙に威張っていた。
腰に手を当てた拍子に揺れた袖が、ますますキンギョみたいだ―――黒いのはなんだ、デメキンとかって言ったっけな。
「腹に乗っかられたら喚く」
頤をツンと上向けていた。
「冗談だ。帰ったらマッサージしてやろうな、」
笑ってクロゼットの中を漁る。
する、と両腕を伸ばしたまま胸に凭れかかってきたのを片腕で抱き締めながら、ハンガにかかった服をスライドさせていく。
す、と手に引っかかった紺のデニム。
そういや、ローライズを買ったっけな。
外はさすがにサウスで、陽が落ちても結構長い間暑いし。今日も天気はいいみたいだから、いいか。
買ったときに、マスト!!と妙に自慢していたサンジの姿を思い出した。
ますますどういう組み合わせのペアなのかわからないのができあがるな、と思いながら、白い長袖のするっとしたシャツも引き出した。
あとは中身。直接着るのもいいが、そこは夜だしな。
「くろ」
サンジの声がかかり、横目で見ていたらしい視線がしっかりとした仕立のランニングスに留まっていた。
それを引き出す。
「うん」
「靴はスニーカか、揃って?」
妙にガキくさい気がするが、まあいいか。
サンジがきゅう、と抱きついてきた。
「おれ、白のレザーの、」
「オーライ。オレは黒のナイキか」
「うん」
「着替えたら取り出そう。コアラがしがみ付いてるから取れない」
そう笑って言えば。
「スナイパに見えないねぇ、あーあー、ジャズマンでもないねえ」
そう言ってサンジも笑っていた。
「せいぜい金持ちのガキか?」
「ただのおれの大事なひと」
「それは、ベイビィ、いつだって正解だ」
ふわりと微笑んだサンジに口付けてから、そうっと引き剥がした。
「で、オマエ。そのトパーズ下げていくのか?」
「うん」
「リングはどうするんだ。耳にしていくのか?」
すい、と自分を指さしていたサンジを見下ろす。
ぷるぷる、と目許を赤く染めたサンジが首を横に振っていた。
それから、何事もなかったかのように取り繕いながら、
「じゃ、おれその金持ちのガキのダチ?」
そう続けていた。
「コイビトだと触れ回るのもいただけない案だしな。いつもどおり兄弟でいいんじゃないのか?」
「放蕩息子共の出来上がり」
笑ってジュエリボックスを引き出す。
「だからといって、時計は―――ああ、これなら相場か?Gショックにしよう。オマエ、時計はどうする?」
「いつもの」
「オーケイ。気に入ってくれてるようで嬉しいよ、」
にこおと笑ったサンジの手に、いつだか贈ったアンティークの時計を手渡す。
「他にアクセサリ、オマエどうするんだ?」
「ネックレスだけでじゅーぶん、でもおまえはおれの分もつけてな?」
「はン?」
嵌めて、と腕を差し出され。時計を引き受けてからサンジの腕に通させ、留める。
「どれをどこまでオレにさせるつもりだ?」
「ジャンクとホンモノごちゃまぜで。付けてください、あれ」
「どれ」
何層かになっている箱の引き出しを開けてサンジに見せる。
「チェイン?この首輪みたいな皮のヤツか?ラバーのバンド?」
訊けば、ごそごそとサンジがベツの層の引き出しも開けていた。
ロイヤルオーダやクロムハーツなどの重たいシルヴァのアクセサリが放り込まれている中から何点か取り出された。
「尖ったのと、重いのと、凝ったのと、」
「まさか両腕?」
片腕に付け着れない数を引き出され、苦笑した。
「ダァリン、Gショックの上にこれ」
ずしりと重いシルヴァのモチーフのチェーンが2連になったブレスレットを渡された。
着替える前に、先に嵌めていく。
「指輪もするのかよ、」
「おまえがしたなら全然やーらしくないよ」
にこお、と笑ったサンジに、サンクス、と礼を述べて額に口付ける。
シルヴァのシンプルな指輪の横や上にするように、デザインリングを渡された。
「ああ!!」
「はン?」
目が煌いていた―――何を思い付きやがった?
「おまえ、アレだね。趣味のハーレー乗りみたいだ。じゃ、あれも」
「ハーレーよりはドゥカティの方が好きなんだがな、」
呟いたのは体よく無視されたらしい。
シルヴァの凝ったチェインを手渡されて、大人しく首に下げる。
「ピアスはいまのでいいヨ」
ちゅ、と口付けられて苦笑した。
そういえば、大人しくサンジが選んだジュエリに遊ばれるのは、あまりないことだったかもしれない。
「ディナのあと、クラブ行く?」
「オマエにそんな体力が残ってるとは思えないな」
くしゃりと髪を撫でてやり、着替えるためにTシャツを脱ぐ。
「座ってるだけならできるよう?」
にこおと笑ったサンジに振り向いて、軽く額を突く。
「ニーサンネーサンどものナンパを振り切る体力は無ェだろうが。オレもそんな無駄なエネルギィは消費したく無ェな」
「ジャズのほうなのに」
ナンパされないってば、とくっくと笑ったサンジの頬を軽く摘んでから笑う。
「賭けてもいいぜ、オマエ、ナンパされるさ」
「されないってば」
「そうなっても助けないからな、」
ふにゃ、と笑ったサンジに、にぃ、と口端を引き上げてやった。
「そうとなったらさっさと着替えて行くか」
「ん、」
スウェットと下着を脱いで、直にローライズを穿く。
サンジが隣で帯を緩めていた。
ひらりと揺れる生地がますますキンギョみてェ。
ふ、と気付いたらしいサンジが、背中の傷の上に口付けてきた。
「エリィが起きてきてその帯で遊びはじめる前に、着替えろ、」
「んん、」
髪を掻き混ぜてやってから、ボトムスを手渡した。
すとんとサンジが着物を床に落としていた。
するりとしたシルエットが今日は特に柔らかい。
「サンジ、ホールド・アップ、」
「――――ん…?」
笑って両腕を上げさせ、脇の少し下のところにキスマークを残す。
「間違っても脱ぎたくならないように、」
に、と笑ってから腕を下ろさせてやり、カットソーを着せ掛けてやる。
ひぁ、と声を上げて顔を真っ赤に染めていたサンジが、眉根を寄せて軽く睨みつけてきた。
「さっさとボトムス穿かないと、腿にも痕残すぞ、」
軽く脅せば、
「やったら、蹴る」
更に顔を赤く染めて言ってきた。
「なら早く穿いちまえ、」
自分もランニングスを着こんでから、まだボトムスを穿いていたサンジの頬に口付ける。
「先にバスルーム使うな」
「だめ」
ひらりと手を振って、さっさと部屋を後にした。
「キコエマセン」
「ゾロ!」
「のんびりしてるオマエが悪い、」
ぱたぱたと足音を立てて追いかけてきたサンジに振り向く。
「なんだよ?」
「一緒にいく」
にこりと笑みをかけられて、苦笑した。
「オーライ、」
ついでだから、オマエの髪も弄ってやるか。
覚悟してろよ。
「あいしてる」
そう告げられて笑ってサンジの横顔に口付ける。
「I love you too, baby」
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