レイザー・ビーム……?連想。
酷く同じ色合い、ブラッドレッドと酷く複雑なグリーンを持つヒトと、ゾロのグリーンとが合って。
かと思えば、片方のグリーンが、金のヒカリまで乗せて向けられてきた。ウラン鉱石をまぜたチェコの色ガラス、そんな印象が
際立ったのは、この場所の明かりが落とされていたからかもしれない。
ゾロの気配は抑えられたものに変わっていた。

――――このヒトは、知り合いじゃない、はずで。
ブラッドレッド、それがまたすう、と僅かに流れて。
どこか、気だるそうにリングの嵌まる右手、それがさらりと髪を抑えていった。石の色味が蒼味がかった翠から、褐色の赤へ
変わり。
なぜか、当人のイメージと直結する。
ほんの瞬き何回分かの間だったけれど、まっすぐにあわせた目線に、すう、と笑みが過ぎっていって。
酷くあまいままな声が、ゆっくりと言葉を乗せていた。
「ミラノで仕事してなかった?イタリアン・ヴォーグの。変わらないね、元気だったんだ」
ふわ、と。明らかに親しい人間に向ける笑み、それが薄い唇にどこか場違いに浮かんで。
思わずゾロを見遣っても、―――――あ。さっき。
「助けないぞ」とか。言ってったっけ……?

明らかに人違い、おれはミラノへは遊びにいっただけで仕事なんかシテマセン。
ゾロは、片眉を引き上げて目で言ってくる。―――「任せる」?
からかい半分、試験半分じみた目線。
「失礼ですが、」
ぱ、とまた。
落とされた明かりのなかに、イキナリの発光弾めいた明るさ。――――髪色だけじゃない、変なとこまで「あのひと」に
そっくりだよ、このヒト。
「あれ?おれの勘違いだった…―――?」
金の虹彩がますますヒカリを弾いてる。
鮮やかな眼差しがそのままゾロに合わせられていく。
「おれの記憶も中てにならないネ」

に、と艶やかに唇を吊り上げて。アテンションが少しずれて息をついた。眼差しの力が尋常じゃない、この手の人種。
視界、ゾロがくぅっと笑みを刻んで。
「世の中には似てるヤツが3人はいるらしいからな、」
「こういう子なら100人いて欲しいネ、おれも一人欲しい」
――――は?
「99人探せよ、ああ……98だな、」
さらりと言葉を返すゾロに。
「目の前の子からまずは、知り合わないとな」
とろ、と。チョコレイトファッジどころじゃない声なんだけど、コレ。

「他所を当たれよ、アンタなら選り取りみどりだろ、」
にこやかな声、だけどすぐ裏が剣呑さを隠しもしてないソレを返されても、ますます目の前のヒトの肩から面白い、って気配が。
アテンションがずれて安心してたところに、またイキナリ。
レイザー。
「―――ハイ…?」
なにか、と呟く前に。
誰をも魅了する笑み?そのお手本じみた完璧なソレがそのヒトの目元に奇跡じみた配合で浮かんで。

「おれはね―――?怪しいモノです、名前はきみのオトモダチが言うように、“シャンクス”。さ、キラキラちゃん。あっちで一緒に
飲もう」
ひょい、と伸びてきた腕に片腕を取られてなぜか立ち上がってた。
「――――は?」
「いいからいいから、」
え、と。――――はぁ?!
「名前は、あとから教えてくれればいいから、ベイビィ」
酷く楽しそうな声がして。

それと同時に、オレは許可しないぞ、と。ぼそ、とゾロが低い声で―――牽制してたけど。
「あの、おれは別にアナタといっしょ……」
言葉を遮るタイミングが壮絶に上手いこのヒトは、低く呟いたゾロに向かって。
「貰っては多分行かないからさー?」
明るい笑み、ってやつを盛大に浮かべて見せて。
「だから、ちょっ……」
「はいはい?向こうで文句は聞くさ、な?」
酷く間近で金の輪を浮かべた翠が煌めいて。
ゾロ、ヘルプ!と目を遣れば。
「多分じゃなくて確約しとけ、」
ソファからそのまま見上げてきたゾロの口端が物騒に引き上がっていく。
“シャンクス”がきゅう、と唇を吊り上げて。
ぺろ、と本当に微かに舌先で唇をなぞっていった。煽情、を見事に具象化したような―――。
俳優って言ってたっけ、さっきゾロは……?

「あぁ、大丈夫、ツレがいるけど一緒に混ぜたりしないからさ」
ふわ、とまた空気があまく揺らぐ笑みと一緒に悪魔めいた声。
「弁えとけよ、遊び人。初心な仔猫喰って腹充たす程堕ちてねェだろ」
「堕落した者ほど、聖を欲する。逆もまた然り。そうじゃねェの?」
にぃ、と。
唇が聖と俗を混ぜ合わせた笑みを乗せていって。思わず、第三者になってこの場を見てでもいる気になっていた。

「少なくとも嫌がることはしないのが遊び人の真髄じゃねェの、悪魔ならなおさら」
「牽制は効かないヨ、それに、」
イキナリ、またエメラルドグリーンが合わせられた。エメラルドのキャッツアイなんてものがあればきっとこの目になる―――
「仔猫チャン、イヤならとうに引っ掻いて逃げてるサ、なァ…?」
――――――は???
そういえば、うっかりペースの乗せられて……わ?なんで腕、やんわり背中にあるんだ、いつのまに。

「遊ばせてやる、アンタが引っ掻く仔猫チャンは逃がすって言うのなら」
くう、と片目を細めて、酷く物騒な笑みを乗せたゾロに。
ひらひらと。長く尾をひいて泳ぐ魚の無関心さで、左手が振られて。細いけどしなやかな腕が、する、と腰あたりまで落ちてきた。
きら、とまたヒカリを乗せたエメラルドがゾロに合わせられて。
落ちてきた腕は、不快になるにはギリギリに空間が残されている具合で。
「ツレてっちゃうもんね」
にこおおお、と。
まるっきり種類の違う顔でゾロに笑いかけてから。
「はい、いいコだね、行こう?」
また目線がぶつかった。

なんでこういう事態になっているのか、ちっともわからいんだけど、おれは。
呑まれるなよ?と口端を引き上げて笑うゾロと。
にこにことひどく機嫌の良い“シャンクス”との両方に。
「え、と。おれよくわけがわから―――」
ぱああ、と。また。”シャンクス”の表情が華やかになって、言ったのは。
「わからない?じゃ確かめなきゃナ」
そしてゾロに向き直って。
「ほぉらな?お許しもらったヨ……?」
ふわ、と柔らかな甘さだけで出来上がった声が囁いていた。

「礼儀は弁えろよ、シャンクス?」
「ふゥん……?オマエと知り合いになってからの方がいいかな、」
ぞく、と。側で聞いても耳元が麻痺してきそうなあまったるい声だった。
にっこりと。完全に作り物の笑顔を乗せたゾロが。
「興味ないね、」
そう返していた。
「―――ふゥん…?」
眼差しが、すう、と細められていっていた。
「この際、おれの好みは棚上げしておくかな、」
そんなことをさら、っと呟きながら。

「不毛の極み、」
「付き合い悪ィな、てめえ」
また、隣の人間の纏う気配が変わって。くすくす、と小さくわらっていた。
にぃ、とわらったゾロに。
「You missed an opportunity once in your life time(ジンセイ一度のチャンス棒に振りやっがナ?」
酷く軽い、陽気な口調の裏に。
触れたなら火傷だけじゃ済みそうもない冴えた熱も感じられる声だった。

「I already have an arrangement with the devil(悪魔とは契約済み)」
「――――後でオマエとも呑んでやろう。じゃ、もういっこ呼ぼうか」
すい、と“シャンクス”が後ろを向くようにして。
つられて目をやったカウンタに、呆れるように座っていたヒトと目があった。
すいすい、と。指先だけで手招き。
それに応えて、グラスを片手に持ったまま、優雅に長い歩幅でやってきたヒトは―――
「また随分とかわいらしいものに、」
喉奥で低くわらいながらおれに目を合わせてきた。
――――あ、れ…?このヒトも、雰囲気がよく似て――――
「あァ。すっげ、かわいいダロ」

“シャンクス”がそのヒトの頤あたり、すいっと唇で触れてからすぐにゾロに向き直って。
オレの手には負えないな、そうますますわらっていたヒトの頤を軽く小突いてから、
「社交は任せた!」
そう宣言していた。




next
back