Day Eleven: New Orelans


「―――――――――…ォろ、」
うつ伏せのまま、右腕をどうにか伸ばした、存在に向かって。
さらりと髪を撫でられた、そして。そうっとキスが落とされて。

昨夜はとても優しい宵で、足元に暖かな波がそうっと寄せてくるような心持のままで眠りについた。
「、ぉろ、」
とさ、と。右手を身体の横に落とした。
「おはよう、ベイビィ」
優しい声が耳元で聞こえる。
「―――――まだ、おもいよぅ、」
カラダ、と訴える。

また、うつうつと眠り込めそうな気がする、それに、陽射しがいつもと違う、
何枚もグレイのシフォンを透かせたみたいな―――
「もう少し寝てるか、」
髪が滑る音と一緒に、穏やかなリズムで頭、撫でられて。
瞼が重くなりかける。
これ、
「そ、と…雨―――」
「あぁ、」
低く甘い声が滑り込んでくる。
「だから晴れるまで寝てろよ。」
腕に、手指で縋る。

「雨の日、の朝…は。ベッドで。遅くまで寝て、コルトレーン…」
「コルトレーンはまた今度な、」
高めの肌の熱さが、気持ちいい。
また、髪に口付けられた。

唇で触れる、肌に。
額を押し当てて、あまったれた吐息をついて。
部屋の中までは聞こえない雨音を意識のなかで追って、すう、とまた全部の音が遠くなった。
包み込む熱だけが残って。



朝一で起き、エリィに朝飯をやり。
そのまま起き出して筋肉を動かし。
シャワーを浴びてから、またサンジの隣に横になった。

目覚めたその瞬間から、さあさあと窓の外は静かに音が流れていて。
肌寒いのか、ぴったりとくっ付いてくるエリィを加え、静かに寄り添って眠っていた。
一度サンジが珍しいことに起こさずにも起きて。
けれど雨の中を歩き回るのは気が進まず、サンジもどうやらまだ眠りたかったらしいので、そのまま寝かせた。
コルトレーンよりも雨音を。
そのほうがよほど“In the Mood"だ。
雨音を聴きながらそのまま意識を眠りに遊ばせていれば、サンジが足を眠ったままかけてきた。
笑ってそのままにし、抱き寄せて金に鼻先を埋めた。

ふつ、と意識が途切れ。次に気付けば、もう雨音は止んでいた。
カーテンの向こう、雨に洗われた青空が広がっていた。
時計を見れば、10時過ぎ。
雫に跳ね返りさらにきらきらと煌く外の様子が手に取るように解る。

「ベイビィ、起きろ。ベッドで今日も過ごすのは勿体無いぞ。」
耳にささやきを落とし、身体を起こした。
「―――――…、に」
エリィがもぞ、と起き上がり、足元の方でまた丸まっていた。
「起きろよ、晴れたぞ」
なに、と訊いてきていたらしいサンジに返事を返す。
「んん、―――も、いちど、シテ…?」
からだ、おもいよぅ、と言ってきていた。

「だるい、」
「身体が疲れている上にかぱかぱ酒呑んだからだろ、」
「うで、上がんない、」
オレが付き添っていない間に何杯飲んだかはバレてるんだぞ。
「あし、おも…、」
「今日はどっちも休みな。明日はココを出る、」
告げて、サンジの片手を引き寄せる。
「んんんんん、」
まずは左上からマッサージ開始。
エリィがころん、と腹を剥き出しにしていた。
ブラッシング済みの毛が艶々と輝いていた。



血管が広がって、疲労物質が流しだされていくのが手に取るみたいにわかった。
指先も重くてだるくて上がらない、と真剣にリネンに埋まって訴えていたのが、ウソみたいに無くなった。
「―――りがと、」
ころん、とリネンにカラダをひっくり返して、ピロウに背中を預けるみたいに埋まりなおした。
「外、眩しいねぇ……、」
窓からは、さっきみた色とは180度違う陽射しと空がみえた。

とん、と口付けを落として身体を起こしたゾロが、水の入ったグラスを差し出してきてくれて。
「呑んだらシャワーに入ってこい、」
受け取り、縁に唇を付けて。
ふんわりとした柔らかな笑みを見詰めながら、半分ほど呑み終えた。
「ごちそうさま、」
グラスを戻してエリィを呼んだ。

「な、」
足元から、ひょこ、と覗いた金色に手招きする。
そうする間にも、トン、と髪に口付けが落とされて。
先にベッドを降りたゾロが窓辺へと長い歩幅で歩いて行っていた。
「ゾロがね、一緒に来てくれないから。おまえ、おいで?エリィ」
片腕に抱き上げてから、ベッドを降りて。
シャワーを浴びに行った。

朝降ったのは、スコール、だったのかな…?
バスルームの窓からも、鮮やかさを増した陽射しが降り注いできていた。
また、黒のシルクに袖を通して。
ひらひらした袖に向かってエリィが興味を示さなかったから安心したけど。
バスルームの窓枠に乗っかって、尻尾を揺らしながら外を眺めていたエリィを呼ぶときに鏡に映った自分のカオが見えて。
そこにいた人間は幸福そうなカオをしていた。―――あたりまえ。
奇跡じみたバランスの上に成り立つ「あたりまえ」だ、っていうことを知っているけれど。

「エリィ、そこからまだ外が観たい?」
「うぅあ、」
尻尾が何度か揺れていた。
「そう、じゃあ、あとからいつでもオイデ」

バスルームの扉を半分あけたままでリヴィングへと戻る。
ダイニングのテーブルには、いつのまに頼んでおいたのかブランチのセッティングが完璧にできあがっていて。
真ん中には、小振りなクリスタルに盛られた黄色のスカシユリが花首だけで活けてあった。
ヴァ―ミリオン、バラだけが好きなわけじゃないんだね。
「このままでいいですか、」
ソファで朝刊を読んでいるゾロの向かって片腕を広げてみせる。
すい、と目線が紙面から上げられて、「ああ、」そう返して頷いていた。

「新聞、ベンの記事載ってる?」
眼差しの穏やかな「こわいわるい」に向かって微笑んでから、先にテーブルについた。
「あぁ。ほら、」
ポットからゾロのカップにコーヒーを注いでいたなら、すい、と頁が差し出されたけど。
「テーマは?」
目線をゾロにあわせて訊いた。
「“現代の通過儀礼”、」

「なあ?思いついた」
「んー?」
く、っと笑みを刻んで、イスに座ったゾロを見詰めた。
「ハリィのスピーチライタ、ベンを紹介しようか」
ほんの冗談。
ゾロも、く、っと低くわらって。
ベンが嫌がるだろ、とグリーンを煌めかせて。そして、
「赤いのがもっと嫌がるのが目に見える、」
そういって、ますます笑みを深くしていた。

「ん?だってさ、お礼に」
そう言って、ゾロにカップを差し出した。
「実はね、昨日。教えてもらったんだ、」
「なにを?」
指先をひら、っとさせた。ゾロのハナサキに届くように腕を伸ばして。
「たぶん、サウスで一番、美味しいカフェ」
カップを受け取ったゾロを見詰める。
「どう?行きたい?コーヒーマニアとしては?」




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