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 「惹かれるものはあるが、遠慮しておこうかな」
 口端に笑みを浮かべてサンジに告げる。
 「またあの二人に会うかもしれないだろ、」
 「“狼の群れ”。ほんとうに?」
 「オレは長生きしない方」
 群れないんだよ、と言えば。
 「違うよ、カフェの名前、」
 蒼がきょとんと瞬いていた。
 そのまま笑う。
 そんなことは百も承知だよ―――ハロルド氏は本当に重箱に入れてベイビィを育てたようだな。
 
 サンジの髪を掻き混ぜてから、珈琲を口に含む。
 これも“良い珈琲”ではあるが。
 「それに、明日からミラノかな?行くって言ってたよ、シャンクス。だからたぶんいない」
 ――――この感情を理解するのはムツカシイかもしれない。
 何事にも“繋がる”のが嫌なのだ、と。
 クレジットカードのレコードすら、避けられるものなら避けたいくらいで。
 
 「アイジンと向こうで同棲するってけらけらわらってたし」
 「ベンも“タイヘン”だな、」
 アイジン、だとよ。
 けれどまあ、アイツにはオレのような独占欲は無い。
 だから多分―――承知のことなんだろうな。
 「同感、」
 
 「―――じゃあ、こうしよう」
 煌いていた蒼に提案する。
 「うん?」
 「うろついた先にそこにそのカフェがあったら行く。なかったらベツのところに行く。それでいいか?」
 「あのな?」
 きゅ、とサンジが首を傾げていた。
 かちんと音がしてカップが置かれる。
 「なんだ?」
 「砂漠に朝陽を観に行こうって言われても、ウン、って言うよ?おれ」
 にこお、と天使のような笑顔を浮かべていた。
 「―――まあ確かに一匹狼ではなくなりました、が」
 とす、とサンジの額を突付く。
 「それこれベツ。オーライ?」
 「Yes, my beloved lord(御意、親愛なる閣下)」
 くすくすとサンジが笑っていた。
 
 「つくづく思うよ、オマエはオレみたいな“悪くて怖い”の本質を本当に解っているのかって」
 「逆、」
 ふわりとサンジが微笑んでいた。
 「逆?」
 「“怖い悪い”。それに、おまえこそ、」
 「はン?」
 「片手、おれのために空けてくれててありがと」
 「―――ばぁか、」
 ふわりと微笑んだサンジの頬を軽く摘む。
 「愛しているならアタリマエのことだろうが」
 「そのアタリマエを奇跡、って言うんだよ?ゾロ」
 ふわりとまた柔らかく微笑んだサンジの頬に指を滑らせ。
 諦めて口付けた―――ばぁか。かわいすぎだオマエ。
 
 「で、どこだってそのオススメの狼の群れとやらは」
 「フレンチ・クォータの少し先、」
 「買出し終えたら寄ろうな、」
 とろりと甘い声に微笑みかけた。
 オレにはオマエの在ること自体が既に奇跡だ。
 
 「――――マーケット…?」
 レィディエントな笑みを浮かべたサンジに頷く。
 「ここまできてフレンチマーケットに寄らずにどうする、」
 「じゃあきょうは」
 ホームメイド・クッキングだ、とにこっと笑ったサンジにひらりと手を振った。
 「んん?」
 「リクエストあればドウゾ。ここのキッチンは粗方揃っているしな。大体なんでも作れそうだぜ?」
 
 
 
 
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