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 『ロイヤル通りをまっすぐ進みナ?グリーンのファサードが見えてきたならそこが"Le Pacte des Loups"だ』
 歌うような甘い声がリフレインされた。この前の夜に進んだのとは反対の方角。
 荷物の袋を片腕づつ持って、見えてきた店の通りに面した方へ座った。大きな、オレンジ?の木が植えられた大きなテラコッタ
 の隣。
 大理石の天板の丸テーブルの片側は、だから通行人からも他のゲストからも遮られてる。
 ゾロがギリギリで妥協してくれるコーナ、不特定多数の中で屋外な場合の最大級の譲歩だってことはもう知ってる。
 ”狼の群れ”の中でも独りを貫く気概な『狼』はいまのところ。サングラスの内側で瞳に穏やかな笑みを乗せたのも、わかる。
 
 「買出し、大変だったねえ……」
 ひょい、とサングラスを外してテーブルに置けば。
 「そうだな、」
 ゾロがふんわりとした笑みを口許に過ぎらせていった。
 実際、買い物の量は大したことはなかったんだ、だってほんの夕食を作るだけのことだから。
 フレンチクォータを東に少し進んだところにあるフレンチマーケットは、露店が軒をずらっと並べるところで。
 近付いたときから、スパイスの匂いが強く漂うようで。
 おもしろそうだ、とゾロを見上げてわらったんだけど。
 実際、面白かったんだけどね、唐辛子ばかりある露店とか、葡萄ばかり何種類も並べているところがあったり。
 
 すう、と人と色と匂いで溢れるような通りを見遣るゾロに、マーケットはきらい?と訊いたなら。
 「いや?ただ気は使う、」
 「うん、ぱぱっとすませようね」
 と、言ったんだ。
 ふわ、と笑み。それが返されて。
 「効率重視で手分けして買ってくる?」
 ずらっと並ぶ露店を見遣った。
 「いや、いい。それじゃ意味がないだろ」
 「デェト?」
 小声で笑って。
 「だろ、」
 あっさりと言って寄越すゾロの背中を軽く押した。
 
 「じゃ、まずはー」
 アタマの中のショッピング・リストを口に出して。
 「粉と、ドライイースト、オリーブオイルに、ガーリック、唐辛子にトマト、パセリにバジルにローズマリーにマッシュルームとタマネギ、モッツァレラチーズとプロシュートとサラダ用にルッコラと、あとはー」
 あぁ、チキン。以上、と見上げてみた。
 「これでオッケイ?」
 笑みが返されて。
 「じゃあ、まずは軽いモノからカタヅケマショウ」
 オーケイ、と頷かれて。スパイスを売っている露店へまず向かったんだけど。
 
 そこから先が、大変だったんだ。
 オマケは結構です、っていうのに。
 どこの店主もなにかしら付けてくれようとするし。
 唐辛子を買ったところのマダムは。いりません、お気持ちだけで、っていうのに
 「そんなことお言いじゃないよ、坊や!」と。
 坊や?!と思わず眼を円くしたのはしょうがないのに、横でゾロがまた笑って。
 赤唐辛子を一つずつラフィアで縛ってストリングスにしたものをがさっと袋に入れてくれた。
 プロシュートも使いきる量だけでいいのに、どう見ても切り出してくれた分量は多いし。
 
 「ぱぱっとすむ」はずが、笑顔と好意のモーニングサーヴィスでかなり長引いた。
 さすがに、小麦粉と薄力粉は普通の量で済んだけど。店の主人が。「オマケだよ、これを使うと味が違う!」と
 一握りの岩塩とソルトミルを別の袋に入れてくれていた。
 ―――困ったなぁ、とゾロを見上げても。
 にっこりと店主へ微笑んで、「サンクス、」と。良く通る声で一言。
 店主も盛大に頷いていた。
 だから、荷物は本当なら2袋程度で済むはずが、1つ増えていたし。
 
 テーブルに添えたイスに荷物を置いたゾロに、「オツカレサマでした」と目礼した。
 「1時間以上かかっちゃったね、」
 「まあ20分で済むとは思っていなかったよ、」
 軽く肩を竦めてさらりとゾロが言って。その口調がどこかしれ、っとしていたからまた笑った。
 そして、店の奥から初老のギャルソンが笑みでやってくるのが見えた。
 ひら、と手を振ってここに新しいお客がいますよ、ってする前に。
 ふぅん?さすが、シャンクスのお勧めだけあるんだね。
 
 
 
 
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