| 
 
 
 
 『アリステア、”狼の群れ"のご感想は』
 『二人きりならもっといいかな、』
 『ロマンティストだ……!』
 『いや、事実』
 そんな遣り取りをしながら、カフェを出た。ギャルソンがウィンクで見送ってくれたのに、またすこし笑って。
 午後の陽射しが潤った空気を介して降ってくる様ななかを歩いて、パーキングまで戻って。
 ドアをアンロックするゾロの背中を指先でノックした。
 
 「ん?」
 「いま、誰も視界にいないよ?試す…?」
 バカ話のついで。軽い冗談。
 「甘いかどうか」
 ドアのアンロックされた電子音が響いて。
 かぷ、と。唇を軽く噛むみたいなキスが落ちてきた。
 早く乗れ、と笑みで促がされて。
 シートに『あがり込んで』。ドライヴァ―ズシートに収まったゾロを見遣った。
 
 「ご感想は」
 「判断するにはまだ足りない、」
 「―――んん?」
 顔を覗き込んで追加に啄ばもうとしなら、それより先。
 軽く肩をシートに押さえつけられるように、深く口付けられて。
 熱い舌先で唇を濡らされ、きつく舌先を絡め取られて、息が競り上がる。
 弄られる、深くまで。
 「……っ、ん、」
 甘えたような声が合わせられた唇の間を漏れ出していって、それでも貪るように引き上げられて。
 足元からふわふわと覚束なくて、軽く歯を立てられるたび身体がぴく、と小さく震えて。
 
 「―――く、ん、」
 ひく、と身体が弾かれる、吸い上げられて。
 眩暈、しそうで。腕に縋った。
 ―――ど、しよ。息あがりっぱなし……
 唇が薄く浮かされて、それでも安堵と焦れたような甘ったるい息が零れて。
 「チョコレートよりオマエの味の方がいい。ガラムが苦く感じるくらいに甘いな?」
 低く、微かに群れない獣めいた笑いと混ぜてそう寄越されて。
 縋るようだった手指、腕にツメを微かに立てた。
 「おまえの、所為」
 グリーンを見詰める。
 「オマエがオレにそうさせる、」
 低い笑い声と。掛けられたエンジン音が混ざり合って。
 クルマが走り出してから、吐息をついた。
 
 「なぁ、ゾロ、」
 流れ出した景色を視界の端におさめたまま、言葉にだした。
 すい、と一瞬だけ視線が寄越されてきた。
 「それって、タマゴかニワトリか、な不毛具合になりそうだね」
 どっちの所為なのか、と付け足して。
 「右手にさ、左手を重ねて、その上にまた右手を重ねて、ってエンドレスと同じ」
 ゾロが、ぷ、と笑いを吹き出していたのが、もう抑えもせずに盛大に笑い始めて。
 「本気で言ってるんだぞ、」
 笑いながら、ドライヴァの頬へ一瞬唇を押し当てた。
 
 「安全運転でオネガイシマス」
 ヴァ―ミリオンまで、と声をワザと蕩けさせて言っても。
 「もちろん。失くせないものだからな?」
 「失くさないでな?手、離さないからサ」
 にっこりと微笑んだゾロにそう言ってから、シートに埋まりなおした。
 
 街中を抜けていく、景色がだんだんと緑の割合を多くしていって。
 右手に、ヴァ―ミリオンのシルエットが見えてきた。
 「午後に見ても、きれいだね」
 そういえば、夜と夕方の外観しか見ていなかった。
 「朝一もきっと綺麗だろ、」
 穏やかな声に、微笑む。
 「ゾロ…?」
 また、僅かな間グリーンがあわせられた。
 「連れてきてくれてありがとう、嬉しい」
 
 
 
 
 next
 back
 
 
 |