「何度でも、オマエが在る事を感謝する、」
柔らかな腕に抱かれて、深い息を落とす。
幸せそうにサンジが微笑んだ―――それだけで、救われる。
過去を振り返らずとも、その影はいつも足元にある。
罪も、罰も、やがて来る永劫の闇に溶け込んで、一歩先にある。
けれどオマエが側に在るだけで、そこに光が差し込む。
オマエはオレを愛してくれた、オレが抱える絶望に流されず、ただ微笑んで。
「愛しているよ、」
口付ける前に囁いて。
柔らかな蒼が溶けそうに潤んだのを見詰めて、それを瞼に焼き付ける。
愛している、と。眸が語る。
抱き込んで縋る腕が。
背に喰らいこむ指先が。
甘く蕩けた吐息や、絶えず零れるウタが、それだけを告げてくる。
激しさは押さえ込み、愛し合うために身体を繋いだ。
甘いオレンジの空間、赤いリネンの海。
たおやかな白い肌と煌く金の髪。
本当に、世界が明日終わっても。
笑って逝けるのだろう、オマエが側に在るならば。
酷く幸せで、熱を注いだ。
情熱ではなく、想いを込めて。
蕩け落ちそうに潤んだ蒼が見詰めてきて微笑した。
抱き上げて、抱き締めて。
それからバスルームに向かった。
まだ火照ったままの身体を沈めるように温い湯に浸かって。
頬擦りをしてくる存在に口付けを落とした。
どこか仕種で誘うようなサンジの肌を撫でて宥め。
バスローブに包んで、白いリネンに横たわらせた。
側でエリィが丸く眠りに収まり、そのまま抱き締めて眠った。
夢を見ないで眠りたいと、意識が落ちる瞬間に願った。
現が夢のようで、最上にはもう辿り着いているから。
ぴったりとくっ付いてきた愛しい存在に安堵して暗闇に沈んだ。
さらさら、と。柔らかく髪を梳かれていて―――微笑したまま眠りに落ちた。
心も身体も愛される、ということ。
意識が焼き切れそうな熱に呑まれることも、ゆらゆらと穏やかな悦楽に溶け落ちていくことも、両方を知った。
穏やかななかに、ぱくりと口を開ける「なにか」の深さに目を閉じても。腕に抱くのはこの温もりがいいのだ、と心の底から思う。
波の砕けて落ちるギリギリの高みから、ふっつり意識の断たれることばかりが多くて。だから、多分初めて静かな、ほとんど
聴き取れないくらいの微かな吐息を白いリネンに包って、愛する存在に抱き込まれて抱きしめて聞いた。
指の間をしなやかな手触りだけを残して滑り落ちていく髪をゆっくりと追いながら、触れる肌に口付けた。
肩が微かに上下することと。穏やかな鼓動が響いてこなければ不安になるほどの静かな暗がりに包まれて。
珍しく、眠りに落ちたままの大切なヒトを残された腕でまた抱きしめた。
おまえの手を離さないって決めたことが、重荷になっていないといい、と願う。稀に、翠の中を揺らぐ光りがどこか辛そうなときが
ある、すぐに消えていくけれど。
前はどうしようもないガキだったけど、いまは少しはおまえのクッションになれていればいいなぁ、そう素直に思う。
おまえの内にある暗がり、それに触れようとは思わないけれど。おまえが許してくれない限りは。―――でも。
おまえのことは抱きしめたいんだ、ただそれだけ。
する、と一層深く抱きしめられて、少し笑った。
腕の下から少し身体を浮かせて、上に自分の腕を重ねるようにした。―――だって、起きないし。
眦にそうっと唇で触れて。こめかみ。
エリィが、はさ、とグレイの尾っぽをゆらしたけれど、静かに、と囁いた。
そのまま、間近に寝顔を覗き込んだ。
微かに笑みの残されたままの口許、穏やかな寝顔に心臓の裏側からほこりとあったかくなる。
もう一度頬に唇で触れてから、そのまま腕に抱きこんだ。少し伸びた髪にハナサキを埋めて、妙に嬉しくなる。
朝が来たら、おまえどんな顔するんだろう―――?
もしこのまま朝が来なくても全然構わないけど。おまえの顔はみたいなぁ。
とろ、と意識が緩んできて。
ちゅ、と髪に口付けて。する、とエリィがしてくるみたいに頬擦りして。
「おやすみ、あしたも…愛してるから、」
ふわ、とそのまま眠った。
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