Day Twelve: New Orelans To Sonola, Texas
『Though the day of my Destiny's over, ぼくの宿命の日は終り、
And the star of my Fate hath declined, ぼくの運命の星は傾いたが、
Thy soft heart refused to discover きみのやさしい心は、多くの人々がみつけた
The faults which so many could find; ぼくの過ちを認めることを拒んだ。
Though thy Soul with my grief was acquainted, きみの魂はぼくの苦痛の由緒を知らないわけではないのに
It shrunk not to share it with me, たじろがずにぼくとそれを分けあってくれた、
And the Love which my Spirit hath painted ぼくが思い描いたような愛は
It never hath found but in Thee. きみ以外のところでは見つからなかった。
Then when Nature around me is smiling, そしてぼくの微笑に応えて、
The last smile which answers to mine, ぼくの周りの自然が最後に微笑を返してくれるとき、
I do not believe it beguiling, ぼくはそれを偽りとは信じない、
Because it reminds me of thine; それがきみの微笑を思い起こさせるから――――』
柔らかな声がいつの日かをなぞる。
遠い昔、まだ小さかった頃。
家庭教師だった人が、夏の日に読んでくれたもの。
バイロンの詩。
『リトル・ステファノ、賢い人間になりなさい、』
頭を抱かれて、カノジョが笑った。
『絶望と断絶を一緒にしてはダメよ?』
そこに愛があるのならば、一筋の光は必ず照るのだから。
そう教えてくれた人は―――どこへと消えたのだっけ?
強く抱き締められる気配に意識を浮上させれば。
いつのまにそうなったのか、サンジに頭を抱きこまれていた。
穏やかに、けれどまだ深いところで眠っているらしいサンジは、それでもふわふわと柔らかな空気を纏ったままだった。
くくっと笑いが勝手に零れた。
抱き締めてくれた年上の女性の面影がするりと消えた。
大切なのは今ここにある魂で。
それは何より、オレが愛する存在。
「“―――砂漠のなかにもひとつの泉は湧き出で、荒野にもなお1本の木は在り、
そして静寂のなかに一羽の鳥が鳴いていて、それがぼくの精魂にきみのことを語る”」
『In the Desert a fountain is springing, In the wide waste thee still is a tree,
And a bird in the solitude singing, Which speaks to my spirit of Thee,』
覚えこんでいた詩の最後を声にする。
ぴく、とサンジが反応していた。
珍しいこともあるものだ―――いや、いまの状況のほうが一層珍しいか。
きゅ、と腕の力がまして、ますます抱き締められる。
髪に寝惚けたままのサンジに口付けられ、またひっそりと笑う。
それにしても、バイロン、なあ。
しかもオーガスタに向けた詩?ああ、この部屋の雰囲気の責任にしちまおう。
あのイングリッシュマンが存在したのと多分同じ頃に建てられた建築物。
洋式が一緒なだけかもしれないが。
「―――そこまで救いようが無く絶望してるってわけじゃ無ェぞ、」
笑ったままぼやけば、サンジが夢現で名前を呼んできた。
甘く蕩けたままの囁き、まだ眠りの淵で浮き沈みしているのが解る。
「後ろ指差されようが構わないのは一緒だけどな、」
笑ってサンジの胸に口付けてから、腕から抜け出る。
もそ、とエリィが起き上がっていた。
ブレックファスト・タイム?解っているさ、少し待て。
ゆらりと蒼が開いた瞼の間から覗いた。
腕が伸ばされる。
「おはよう、サンジ」
唇に口付けて、微笑む。
きゅう、と回された腕に抱き締められた。
「今日はこれからテキサスへ向かうぞ、」
…はよぅ、と囁いてきたサンジの前髪を掻き上げる。
「一気にサザン・カントリィのド田舎へまっしぐらだ」
脚までかけられて、更に笑う。
「んー、」
エリィが笑ったサンジの背後で大きく伸びをしてから、ベッドを降りていった。
「田舎はキライ、」
「対極ついでに、チープなモーテルに泊まろうぜ?」
甘えてくるサンジの頬に口付ける。
「テレビの横にコイン入れるのが付いてるー?」
「あるだろうな」
ひゃは、と寝惚けて笑ったサンジが、さらに脚を絡めてくる。
「じゃあ、その音で誤魔化してチープにセックスする?」
「隣が激しければ競ってみるか、ベイスボールのチャンネルにロックしたまま、」
「ひゃあ、」
寝惚けたままのサンジがますます笑う。
「マットが沈みすぎたらフロアー?」
「腰にピロウ突っ込んでやるから、フロアは止めとけ、衛生面が甚だ信用できない、」
笑って頤を齧る。
オマエ、なんの映画見て育ったんだよ?
「ゾーロ、」
くっくと笑っているサンジを上から見下ろす。
「イェス、ベイビィ?」
「I love ya」
あいしてんよ?そう言ってきたサンジの唇を軽く噛む。
「Love ya too, so get up 'n get ready」
オレも愛してるさ、だから起きて支度しようぜ。
「“うーい”」
くくっと笑って再度サンジに口付ける。
けらけらと笑って開いたままの唇の間に舌を差し込み、見あげてくるブルゥに笑いかけながら吸い上げて甘噛みする。
腰の後ろでサンジの足がクロスされたのが解った。
オオヨロコビの猫、猫じゃらしに飛びつくエリィと言い勝負なゴキゲンさ。
煌くブルゥアイズに笑ったまま、寝起きには不適切なほどに深い口付けをしかける。
じゃれるように応えてくるサンジに更に口付けを深めながら、体重を預けた。
口蓋を舐めてくるサンジの舌をたっぷりと味わってから口付けを解けば、深い吐息を吐いていた。
強請る眼差しに、いいコだったらまた夜に続きナ、そう笑みとともに告げてから、サンジの腕から抜け出す。
「離してあげよう」
「ありがたき幸せ、」
「そのかわり、」
くっくと笑うサンジに、最後にトンと口付けてからベッドを出る。
「ん?」
「起こしてクダサイ」
「SURE(ヨロコンデ、)」
すうと伸ばされた腕を引き、抱き起こす。
遠のいていたブルゥが間近でまた煌き。
そのままきゅう、と抱き締められて笑った。
その勢いのままサンジもベッドから抱き起こす。
「あいしてる、オハヨウ。」
「オハヨウ、ベイビィ。いい目覚めだな?」
愛してるよ、と返しながらそのままエリィの待つキッチンへ。
「土曜日も日曜日も火曜日も愛してる」
するすると懐くサンジをくるりと空中で一周回す。
「わ…?」
「知ってる、」
眼を見開いたサンジをトンと床に下ろしてから、色付いた唇をまた啄ばむ。
ぱあ、と広がっていた微笑の形の唇。
「昨日も、今日も、明日も愛しているよ、」
に、と笑ってポエティックな返答。
バイロンよりはポップソング並のチープな出来栄え。
「なあ?」
ふわふわとサンジが微笑んでいる。
「んー?」
「ほんとうにさ、良い、朝、だね」
とん、と頤あたりに口付けられた。
くくっと笑って、サンジの髪を掻き混ぜる。
「二人だけで良い朝ってのもなんだから、足元のコが不貞腐れる前に仲間に入れてやろうぜ?」
にぃあう、とエリィが鳴いた。
「メアリー・シェリーになる前にね、エリィベイビイ」
腕を解いてやれば、するりとチビをサンジが抱き上げた。
最後の詩の一片への返答?
「詩人がいるから、ここに」
エリィを抱いたまま口付けてきたサンジに微笑む。
「“Rowing with the Wind”?」
映画のタイトルを告げる。
ふんわりと笑みが返され、ふ、と思いつく。
「そういやあの映画のバイロン演じてたヤツ、クソ忌々しい神父に似ていなかったか?」
「ハンサムだったねえ、」
に、とサンジが笑う。
「オレの好みじゃ無ェな、」
に、と笑みを返してから、チビのエサの支度に取り掛かる。
「ブルネットはお嫌いで?」
けらけらと笑って背中に額で懐いてくるサンジに、いや、と返事を返す。
「オトコで好きになったのは、アイツとオマエだけで。オンナは別にどうでも。母は見事な黒髪だったしな、」
エリィのブレクファストを乗せた皿を、サンジに手渡す。
「ステファノ、リトル・ダァリン、それって模範解答」
受け取って、にぃっと笑ったサンジの頬を突付く。
「そういうオマエはどうなんだよ?」
「うーん?」
すい、とガウンに包まれた身体を半分折って、待ち構えていたエリィにプレートを差し出していたサンジの返事を待つ。
「赤毛も黒髪もアッシュブロンドも好きだよ」
ひょい、と身体を戻し、にっこりと笑った。
「ふゥん?」
「永遠の二番手だけどね」
ひょい、とまた腕が回され、首に抱きついてきたサンジが笑った。
「これがいちばん、それ何色?」
「見たままの色、」
抱き締めたまま、ベッドルームに戻る。
「ほら、今日は着替えたらパッキングしないといけないぞ?」
「―――なぁんだ、期待した」
「予定をふっ飛ばしてオマエと愛し合ったからな、」
きらきらと眼を輝かせて冗談を言ってきたサンジに、にっこりと笑みを返す。
「おまえがさ、」
「ん?」
「バイロンだったら、ギリシャなんかぜったい行かせないよ」
威張っているサンジに、ばぁか、と軽口を返す。
「オレがバイロンだったら、今頃城のヒサンな経営を立て直しながらオマエといちゃいちゃしてるさ」
「最高、」
にこお、と笑って笑顔を浮かべたサンジにトンと口付けてから、親指でクロゼットを指さす。
「はいるの?」
「Wild Wild Westに向かう“衣装”を選べよ」
入ってどうする、と返してから言えば、サンジがけらけらと笑いながら支度を始めていた。
「ああ、トム・フォードのシャツ買っとくんだったなあ、」
笑っているサンジに肩を竦める。
「ソノラで買い物できると思うなよ、まぁじでド田舎だからな」
「ダァリン、ヒューストンに連れてって!」
大笑いしながらヘンな声でワザと言ったサンジに、ヤなこった、と笑って返す。
「BOOOOOOOOOOO]
「エル・パソなら通るぞ、明後日の予定だけどな」
ブーイングしながら、ゴキゲンな様子でサンジがシャツとブラックデニムをベッドに放っていく。
サイズ的にはオレのもの。
自分用には、Tシャツと半端丈でカットしてあるデニム。
素足にビーチサンダル?
おいおい、テキサスのど真ん中だぜ、ヘタすれば牛が見れるような。
「ああ!」
サンジが振り向いた。
「白のテンガロンでも買ってく?」
にか、と笑っていた。
「どうせ買うなら途中でオースティンにでも寄るか?」
どういうコンセプトだ?ついでにブーツも揃える気かよ。
笑いながら服を着替えていく。
「生皮パンツ?ああ、蛇革ブーツ?ウェスタンブーツかな尖がったトウの?うーわ、」
Tシャツを被りながら、けらけらと笑って更に機嫌が良さそうだ。
「だめだよ、ハスラーだよそれじゃあ。安いなあ、おまけに」
「ん?」
笑っているサンジを見遣る。
「なんだ、オマエ用にじゃないのか?」
「へ?だぁから、おれが着たらそうなっちゃうってば」
「ハスラーだって?」
笑っているサンジをもう一度見直した。
「ハスラーってよりはオマエ、」
一瞬考えて、頭をくしゃくしゃにする。
「ふん?」
腰に手を当てていたサンジの頬を摘む。
「Hooters(フーターズ)、ってカンジがする」
そのまま文句は告げられる前にキスで閉じ込めた。
「どっちにしろ、案は却下だな」
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