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 「フーターズ??そこまで短くないぞ」
 バカ話の続きをしながらカットオフしたデニムの裾を見下ろしてみた。
 ビンテージなのに……!と。カットして欲しい、と頼んだなら店員が泣いてたヤツ。でも、泣いてた割には思い切りは良かった
 けどね、潔い切りっぷりだ。
 そのまま黒のビーチサンダルを突っかけて、荷物のパッキングを始めた。4日いたんだよね、ここに。
 
 「ゾーロー、」
 離れたバスルームに向かって声を掛ける。
 サングラス、馬鹿げたの持って来ておくんだったな、ここまでカジュアルなカッコもするんなら。
 レンズがピンクだったりしたら、モロにLA辺りのお気楽な連中。
 「おれ!パッキング担当だから朝ごはんー」
 オーダしてください、とそのままの声のヴォリュームで続けた。
 
 片手で、またトランク・ダイバーに変身したエリィを跳ね除けながら、だったけど。
 クリーニングから返ってきたデニムやシャツ、それのビニールを剥がしてエリィに向かって投げた。
 「ほら、こっちで遊べ」
 ざざーっとそのビニールに向かって素直に突進していくグレイの塊に笑って。ラゲッジのフタを閉じた。
 
 取り出しておいたブレスレットをいくつか適当につけて。思いついて左足首にも革紐と、細いシルヴァ―――
 フン、カジュアルだし、こんなモンかな。
 リヴィングから、ゾロの良く通る声が聞こえてきたからそっちへ向かう。
 クラシックなデンワ片手、このヴァ―ミリオンのインテリアと完全に時代が違うスタイルで、それでも弾き出されはせずに
 佇んでいた、ソファのところに。
 朝ごはんのオーダ、それが聞こえて。
 とんとん、と肩をノックした。
 あのさ?おれ、飲みたいものがあるんだけど。
 昨日のレッドベリィが美味しかったから、ウン。
 
 ノックに、うん?と振り返ったゾロに、デンワ代わって、とジェスチャする。
 すい、と差し出された「受話器」を取って。
 飲みたかったものをリクエストした。ぺリエと、昨日のレッドベリィやラズベリーを一皿。
 それからまたデンワをゾロに戻して、そのままソファの背に半分座っていた。
 聞こえてくる単語は、クラシックな朝のメニューみたいだった。
 
 ティン、と音がして受話器が置かれて。
 少しゾロを見上げるようにすれば、トン、と唇にキスが落とされた。
 「ピクニックバスケット、ムッシュ・ロベールに作ってもらおうか?」
 美味しいコーヒー付きでサ?とゾロに笑いかける。
 「だって、ド田舎ドライブだろー?」
 に、とゾロが笑みを浮かべて。そのまま、デンワを差し出された。
 「おれがするの?」
 すい、と。ゾロの頬のあたりを指先で辿れば、「Why not?」そうゾロが笑って。
 「だね?」
 
 コンシェルジェデスクから、ケータリングサーヴィスの方へまわされているほんの何秒可の間に、伸びてきた腕に、簡単に
 身体浮かせられて。
 「―――わ?」
 すとん、とゾロの膝に落っこちるような具合になって、わらった。
 髪を、さらさらと指先や掌で掬い上げられる感触に、おれがエリィの仲間なら完全に喉を鳴らしてる、そんなことを思って。
 柔らかなフレンチアクセントが受話器越し、聞こえてきて笑みを引っ込めた。
 
 「ムッシュウ・ロベール?ヒトツお願いしたいことがあるのですけれど、」
 『ウィ、ムッシュ?』
 「今日でこちらともお別れなので。ピクニックバスケット、作っていただけませんか?」
 『喜んで!サンドウィッチでよろしいでしょうか?』
 「もちろん、お任せします。デザートも適当に見繕ってくださいね、ショコラ抜きで」
 『ウィウィ』
 「どうもありがとう、楽しみにしてますから。あ、とそれからコーヒーも」
 嬉しそうな返答にそう続けて。
 『ポットをご用意いたしましょう』
 「どうもありがとう、」
 
 わらって、電話を切った。
 そのまま、肩にアタマを預けた。
 「終了。きっと美味しいランチになるね」
 また、トン、とキスが落ちてきて。
 少しだけ目を伏せる。
 「そうだな、」
 甘い、笑みをたくさん含んだ声が耳にキモチイイ。
 
 「いいホテルだったな、」
 笑みと一緒に、腕に抱き締められる。身体を全部預けて、うん、とほとんど吐息に混ぜて返した。
 そうしたなら、ああ、そうだ、と。思い出した風にゾロが言葉にして。
 身体を離したくなくて、また少し肩口に寄りかかるようにしたなら。
 「オマエ、テディを知ってるだろう」
 そう苦笑交じりに聞こえた。
 ―――――んん…?「テディ」……??
 テディ、って
 ――――
 あ。
 
 「“テリ―”??」
 ば、とゾロを振り返った。
 「なんで??え??な―――ゾロ、」
 「テオドール、でテディだそうだ。元将軍」
 「や、――う、」
 テディ、と呼びなさい、とうんとコドモの頃に言われて。でもその頃には上手く発音できなくて「テリ―」で通ってしまってる、
 祖父や父親のとても古くからの―――
 「テオドール・ステッセル氏にオマエが寝てる間にナンパされた、もちろん断ったけどな、」
 「――――はン??」
 おれ、目。いま、まんまるじゃないか?
 そういえば、ジェネラルの家はニューオーリンズにあって―――
 ステッセル家っていえば、南部の旧家だ。
 それこそ……名門中の、名門。
 
 「プールにはすげぇ怪物がいたよ」
 クスクスと笑うゾロを、ぽけ、とみていた、けど。
 「テリ―、元気そうだった?」
 もう、何年もおれは会ってないけど。
 「あと20年はのさばりそうな勢いだったぜ?そりゃあ見事なクロールで泳いでいらした」
 「そっかあ、」
 目に浮かぶ。
 正装の勲章がキラキラするのが珍しくて見ていたなら、「これをやろう!」といくつも外し始めて、チチオヤが「テディ!」と
 困り果てていたことがあったっけ。
 
 「会いたかったか?」
 「また、アタマが無くなるかと思うくらいグリグリ撫でられられそうだから、いいや」
 笑う。
 「健在なのがわかっただけで充分、それに―――」
 ひょい、とゾロのシャツの襟元を軽く掴んだ。
 「将軍とコイビトの取り合いなんてしたくないよう?」
 けらけらとわらって。
 キスをした。
 
 「そっか」
 「いたたたたたた…!!」
 わざと、ぐりぐりぐりっとアタマを撫でられて。
 また大笑いした。あーあ、なんだ、サウスは。
 もしかしたらワシントンより知り合いに逢う確率高かったんだ?
 
 
 
 
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