今朝起きたときから、アタマが切り替わっていて。
言うなれば、ヴァ―ミリオン仕様からカジュアルダウン、ついでに教養具合も下がったか?ま、いいや。
バカな話と軽めな会話に、ゾロも笑って付き合ってくれているからこの程度までは許容範囲、なんだろ?
ちら、と。
ドライヴァーズシートにいるゾロを見遣った。
I-10にまた戻って、延々と、まっすぐ。クルマは一路―――
どこへ.向かっているんだっけ。
ド田舎、ウシ天国、ステーキカントリー、イエップって返事されそうな地帯。
その名は―――ええっと。
「ゾーロー、」
「んー?」
「怖いからラジオつけれないけど。今何処に向かってるんだっけ」
「最終目的地?それともI-10の終り?」
「I-10の終わり」
ランチを取ってから、現在3時間経過中。
「サン・アントーニオ」
気だるく歌うように返される。
「なぁん時間後かなあ、」
同じように語尾を延ばしてみる。
「あと3時間?」
「あれ?そんなにすぐ?」
くくく、っと。喉奥で笑うようだったゾロにまた目を戻す。
「夕方には着いちゃうね」
「最終目的地はソノラ、だ」
「うし天国?」
「牛も寝ている時刻に着くぞ」
「モーテルの周りはウシだらけの牧草地で10マイル先では石油掘ってる?」
小学生並みのイメージ。
「多分な。油田がどっかにあったのは知ってる。それでもって古い屋敷がいくつか緑の牧草地のど真ん中にあるらしい、」
―――おや?当たらずとも遠からず?
「じゃあ、ディナーはサン・アントーニオで?」
時間の配分からするとそうなるかな、と思っていたなら。
「ダイナースを避けたければ」
そう答えが返ってきた。
「それも悪くないけどね、あぁ、でもどうかなあ」
少しだけゾロに身体を近づけた。
ステーキにはまだ早いか?そう、また機嫌良さそうに笑っていたけれど。
「サン・アントーニオに着くまででもいいし、着いてからでもいいけど。運転、どこかで替わってあげるよ」
とにかく平坦な道だから。
「いいぞ、」
「うん、いつでも言ってくれていいから」
途中で一度、コーヒーブレイクのついでに運転を替わって。
長くなり始めた陽がまだ明るいうちに、サン・アントーニオに着いた。大きな街。
どこに停めようか、とパーキングを探している間に。
「どこか適当なレストランあったら見つけといてな?」
ゾロに頼んでおいた。
からからに乾いた、とまではいかないけど窓から見るだけで空気が乾いていそうなのは伝わってきて。
もうすっかり別の街の顔だ、ここにあるのは。
「あ、ここのでいいかな」
パーキングを見つけた。いかにも、な。平置きでクルマの横にメータが突っ立ってるヤツ。
「問題ナイ?」
「オーケイ、」
ウィンカを出す前に一応確認したなら、そう返事された。
キイを抜き取って、はー、と溜息。
「オツカレサマでした!」
エリィの為に少し窓を開けたままにしておくのは―――仕方がないよね。
クルマを降りれば、ゾロがアラームをセットしていた。
「まだまだだぞ、今日は?」
「ん、でも一旦ブレイク」
とん、と窓を小さく指で叩く。
ゾロも、イイコにしてろよ、と留守番役に声を掛けていた。
「それで、見えてる看板。チャイニーズとメキシカンと、どっちにイクンデスカ?」
通りを挟んだ向こう側、軽く腕で示せば。
「オマエは何が食いたい?」
サングラス越しじゃない、翠が見下ろしてきて。
「久々に、チャイニーズ?イカガデショウ」
右側の、オレンジとグリーンのネオンサインの漢字を指差した。
「ダンプリング食べたいかもしれない、」
猫舌、とかまたからかわれるかと思ったなら、すい、と肩に置かれた手に促がされて。
「―――?」
見上げる前に、
「けどその前にナ?」
「うん??」
その隣、手前のドアに―――
へ??
ここって、だって、―――ハイ?
ころからん、とカウベルの音がする木枠のドアを開けられて。
ウッドの床が目に付いて、壁には無骨な棚があって。
えええっと―――
ここって。
ずら、っと。カウボーイブーツがそれこそスタイルも色も様々並んだ棚と。
また反対にはテンガロンがそれこそ陳列してあって。
牛革の敷物の上には、木のベンチがあって。
そのさらに奥、カウンタの側には随分と恰幅の良い―――「カウボーイ」がいた。
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