「アリステア?」
「You asked for it、(欲しかったんだろ?)」
冗談だったのに―――!!!
でも、パイプまで咥えた「カウボーイ」の男性はどんどん近付いてきて。
覚悟を決めた、くっそうー、おまえ、そんなこと百も承知だよな、どうせ。
だったら、もう決めた。洒落でも冗談でもナンでもいいぞ!
―――でも。
ブーツはともかく、ハットは完全にアタマぶかぶかだってば。

くっと笑ったゾロが、店主に向かってサイズを出してくれ、ってもう完全に有無を言わさない口調だった、おれに、だけど。
「ボウズに合うサイズがないかもな、」
店主が、にやり、だなこれは。唇を引き上げて。ああこれは完全に!わかってるよ言われなくても。
どうせおれは細ッこいです、大きなお世話だ。
しかし、ここはどうやら専門店で。―――ヤバイ、ジュニアサイズとかキッズサイズとか言われたら洒落に――
言ってるし。

「どういうのを探してるんだい?」
坊や、と付け足されないだけ親切なのか?でも目で言ってたら一緒だと思うけどね。
「テンガロンは、白かクリームで。素材は―――お勧めに従って、それからサイズは――― 一応オトナの一番小さいのから」
自棄だ、もうこうなれば。
わかった、と頷いた店主が一旦戻って。棚のストックじゃないトコロから白とクリーム、両方を片手づつ持って戻ってきて。
ぽす、と被れば。
ジャストフィット。―――プロですね、でも奥から持ってきてくれたんだよね、オソラク成人サイズじゃないでしょう。
ま、いいや、もう。

色はどっちが―――、
「クリームかな、」
なんでもない風に呟きが聞こえて。
そっか、じゃあクリームにします。迷うこともないね。
「他には?」
店主が目元で笑ってるなぁ、おれ、…アナタの孫じゃないですよ??そんな笑みだ。
「ブーツは、ポインテッドトゥで、色は―――クリ―ムで黄色っぽいステッチがいい…ですか?」
良くわからないものは、プロに訊くこと、これはハリィの教えだけど。こういうときにも有効。
「そうだな、底が茶色いヤツがあればもっとイイ」
「じゃ、それを」

店主は頷くと、また奥に戻っていって。棚の後ろから手が覗いてどきっとした。
棚の裏にストック置いてるのか。
箱を3箱腕に抱えて戻ってきて、ベンチに座るように促がされて。
おれは座ったけど、ゾロは立ったままだった。
戻ってきた店主が箱を開けていって、デザインは3足とも違っていた。とはいっても、トゥの具合とステッチのデザインが違うくらいなんだけど
この差が、好きなヒトには大きいんだろうね?
多分。

サンダルで助かったな、さらっと脱いで。
トゥの形が一番、気に入ったのを履いてみ―――わ、
ぐいぐい、って具合にイキナリ手でブーツの上側を持って引っ張り上げられて脚がバカみたいに浮きかけた。
両足分。
「Wanna stomp 'eround?]
歩いてみるか?と。返事なんて無視でぐいっと腕ごと引っ張り上げてくれたけど。
――――面白い感じだね、足の甲を押さえつけられてるみたいだ。
だけど―――土踏まずのカーブにはぴったり沿ってる。

「How'z it?」
どうだ、と得意げに、にか、と店主が笑って。
「丁度いいかも、」
でも、脱ぐとき少しなれないと大変そうだなあ、と感想。
「他には?」
「もう、充分。ムートンのファーはシーズンじゃないだろうし」
冗談のつもりだったのに。
あるぞ、と言われて言葉を失った。
「奥にある、待ってろ」
ブーツの靴音がウッドになんだか今回は凄く響いて。
何だ?気合はいったんだ??どうしてだよう―――!

「アリステア!!」
店内のカメラの死角に自然と立っていたゾロに助けを求めてみる。
「なんだよ?」
「フーターズどころか、これって―――」
店主のアクセントをきれいに真似て見せたゾロに笑って返す余裕は今のところないです、おれには。
そして、しー、っと唇に指をあてていた。
だけどさ?これに、上にファー、って。
アタマは足りないけど高そうな、そのテのヤツのカッコじゃないのか??

「ア―――」
店主が戻ってきて。
そのタイミングでわざとゾロが「シャツとデニムも揃えるか?」と言って来たのに盛大に首を横に振った。
そして、店主の手には。
―――――あまい、ベージュの。
少しだけ毛先のカットされた、内側がファーで、折り返しにまたその同じアクセント。
そんな「羊ちゃんコート」これは、あのヒトの単語、そんなものがあって。

袖を通せ、と店主に言われて。
うわあああ、と内心で騒いで、袖を通した。――――結果。
出来上がった、――――――これは。冗談の度を過ぎていると思います。
「ふゥん?」
ゾロが、にぃ、と笑い。「頂こうか、」あっさりとおそろしいことを口にだしていた。
―――――くっそう。こうなったら、このデニム。もっと裾切ってやる―――!!

「で、にぃさんはどうするね?」
店主が妙に満足気に目をゾロに流して。
「は?」
ゾロが、ほんとうに珍しいことに、「固まった」。
「聴こえただろう、どうするね?」
これは――――チャンス、か?おれもこれだけ遊ばれたんだからおまえも…
店主が、ちらっと目線を投げてきてくれて。そうだよねえ、オーナ!!

「黒系で!」
どうだ、復讐するぞおれは―――!
言い切って、どおだ、とゾロを見れば。
「黒な、」
店主はまた奥へ戻っていて。
ゾロは―――額を抱えて大笑いしてた。

「おれだけ、なんてイヤだし?」
わざと首をハスにして、ハットのリムを指先で引き上げた。
「Why not?」
まあな?と返されて。
しばらく、まじめな顔で見合ってたけど。
「It's for fun, for sure,」
アソビだしな、とゾロが笑って。
「じゃなきゃ、困る―――!」
笑い出した。

暑いからファーを脱いでベンチに置いていたなら、戻ってきた店主は―――さっすが。
重たそうなホースファーの、こげ茶のロングコートまで持って来てくれてた。
黒の、ブーツとハットと。
さーて、と?
じゃあ今度はおれが鑑賞する番なんだからな。
そして、店主の。
「Wanna whip?(ムチもいるか)」
笑いながらの言葉に、ぶ、と吹きだした。

「No thanks,」
苦笑しているゾロ、これもまた珍しいものを見れた。
店主の持ってきた3点をあっさり着こなして。
ぱちぱち、と後ろから拍手した。
「カウボーイというよりは、」
ローンレンジャーだ、とこっそり笑った。
「コートは包む、他はどうする?」
ん?別にこのままでもいいけどね。
「ショートパンツだからなァ、」
鏡越し、言いながらゾロが目を細めるのが見えた。

「ああ、ケツ叩かれるぞ、」
ひょい、と店主に指さされた。
「――――ハイ?!」
おれの返事に、店主が豪快に笑って。
「レザーパンツならあるぞ、」
そう続けていたのがあっさりとまたいなくなって。
スウェードの、甘いサンドベージュのボトムスを持って来てくれたけど。
「え、と、」
ベンチから声をかけてみた。
す、と。フィッティングするコーナを指し示して、「店内でストリップしろとは言わんよ」と
パイプに新しく火を点けて言ってたけど。
―――や、そうじゃなくて。
レザーのボトムスはもうたくさんあるから要りません、って言いたかったんだけど、おれは。

わかっているくせに、ゾロは。
「こげ茶の方が良かったか?」
また笑い出していた。
「ブーツが脱げないんだってば」
負け惜しみ?む。
く、と。ベンチの横にあった板、それを示して。踵を引っ掛けるんだ、と言われた
「フィッティングは要りません、もう目測で完璧だろうし」
自棄だ。

店主も口許が少しだけまた笑みの形になって、コートを入れていた箱に靴べらだとかクリームだとか、入れていってくれていた。
「さすがプロフェッショナル、」
ゾロが笑いながら、シューケースだとか、ハット用のケースだとかも店主に言っていて。
あっという間に大荷物。
それで―――なんでおれは。
いまブーツ履いてるんだっけ…??
サンダル、履きかえる前に箱に入っちゃってるんだけど―――?
はあ、っと溜息。
テンガロンを背中に落として。
なんだかまた墓穴を掘った気がする。

「入ったか?」
ゾロの笑い声が聞いて来る。
ローヴァのトランクに、箱を詰めて。
一旦、大荷物だからパーキングに戻ったんだ。
「入った、でね?もうこうなったら!」
トランクを音を立てて閉めてゾロに振り返った。
「メキシカンレストランでウェイターするぞ、おれは」
冗談にナッテマセン。

「却下」
あっさり返されて。
「冗談だったのに、」
バン、と。
指で作ったピストルでゾロの心臓を撃った。
その後で、すぐに。
誰もいなかったら、肩を掴んで頬にキスもヒトツ。
ごめん、悪い冗談でした。




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