「おれって、アングラ(学部生)にしか見えない?やっぱり」
煙草片手に首を傾けたサンジに、肩を竦める。
「実年齢28でも16にしか見えない連中だっているからな、見た目での判断は危険だが。フツウに考えればな」
口端を引き上げて、肯定。
しっかりと沸かしたての湯を使って出したらしいアッサム・ティは口当たり円やかで、美味かった。
「ふむ、」
サンジがカプチーノを傾けながら言っていた。かなり芝居がかっている。
「ま、さ、」
エリィはテーブルの上に前足を乗せて、器用にぴっちぴっちとミルクを飲んでいた。完璧―――人間だと思ってるんだろうな、
コイツは自分のコトを。
一口飲んで、カップ越しに。サンジが、
「おまえのリーチにいれたのなら、問題ないネ」
そう言っていた。
「オマエに恋した時、年齢なんか構っている暇なかったしな」
囁き声に言葉を乗せる。腹話術に近い特技で。
サンジがカップを置き。思い切り甘い笑顔を浮かべていた。
「恋は盲目?」
そう言って。明るく笑っていた。
「盲目どころか、あっという間か?」
紅茶を口に含み、笑う。
「ガマンしたんだけどね……?」
すう、と僅かに細められた蒼に微笑みかける。
サンジがこちらに腕を伸ばし、一瞬指先が頬に触れていった。
――――――客の何人かが確実にトリップしやがった。
まあ妄想に罪は無い、現実に当てはめようとしなけりゃな。
「そろそろ行こうか。先は長いしな」
「ん、」
液体を喉に滑らせ、カップを置く。
手を舐めて満足気に顔を洗っていたエリィを抱き上げる。
すう、と最後に吸い終え。きっちりと灰皿で煙草を消したサンジに財布を渡す。
「悪い、払ってくれ」
「いいよ」
にこお、と笑ったサンジの笑顔は…口止め料代わりだな。
見せるのは勿体無い―――か?
薄暗い店内に入り、女主人と何か言葉を交わしながら清算を済ましているサンジを、ガラス越しに眺める。
手に入れた"天使"。
支払った"代償"。
「…幸せだよな、エリィ」
それでも、心から思う、穏やかな気持ちで。
愛する機会を得られて良かった、と。
する、とサンジが振り向き。クッキィのパウチを見せてきた。リップリード。
"もらっちゃったよ"。
サンジに見えるように微笑む。
礼を述べておいてくれ、と解るように。
サンジがマダムににこりと笑い。トンと頬にキスしていた。
上出来。ほらハヤク出て来い。鐘が鳴るぞ。
エリィのリーシュを短く持ち。背中を押さえていてやる。
ひらひら、と手を振って出てきたサンジに、口パクでカウントダウン。
カーン、カーン、と。
古めかしく甲高い教会の鐘の音が鳴る。
サンジがぱ、と見上げていた。
煌く蒼の双眸、蒼穹より鮮やかな。
ふわ、と笑みが浮かんでいた。
エリィは僅かに身体を跳ねさせ。けれど暴れることもなく、もぞ、と動いただけだった。
「送られている気がするな、」
教会に背を向け、歩き出しながらサンジに言う。
幸福、と。全身で語っているきらきらと煌く、オレの天使。
「いまね、おまえのこと。心の中で抱きしめてた」
微笑んだサンジに、僅かに距離を縮めて歩く。
「愛しているよ、サンジ」
鐘が鳴り終わる前に告げる。
ふわ、と。サンジが天使の笑みを浮かべていた。
オレの善きモノ、けれどオマエを求めたことを一度たりとて後悔したことはないよ。
目で、愛していると。返されているのが解る。
腕の中で、エリィが静かに、みぁ、と鳴いていた。
ああ、オマエもな、エリィ。いい息子だよ、オマエは。
通行人どものことは、視界に置きながら、意識からは締め出す。
オレたちが"いい家族"なのはいまに始まったことじゃないしな。
せいぜい新学期にでも、必死こいて探してくれ。
まかり間違っても―――痕跡は残さずに消えているからな。
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