ぱ、と視線のあわせられたグリーンに、少し離れたカウンタを指差した。あそこに売ってるって、と目で伝えて。
僅かに頷いてくるのを確認してから、適度にスツールの埋ったカウンタの方へ歩いていった。
ふぅん?この辺りは―――テーブル席とは少し赴きが違ってる。
―――客層が微妙に違うのかな、と。そんなことを思って。
「Excuse me、」
スミマセン、と声を掛けてみた。
ヒトが二人入っていて、どっちが「ホセ」かわからないし。
イキナリ。知り合いでもないバーテン名前で呼ぶのもね、どうかと思うし。
そうしたなら、一人。
焦げ茶の、巻き毛。ラテン系そのもの、なバーテンが「Si?」と満面の笑みで拭いていたグラスから顔を上げてくれた。
「タバコ、売ってくれません?」
「ブランドはなに?」
「あー、」
無いとは思うけど、ああまでにっこりされたら、仕方ないか。
「GARAM Surya 置いてますか?もしあったらすごく嬉しいんだけど」
「スーリヤ?あるよう、いくつ欲しい?」
ストック持ってき忘れたなあ、とまたちょっとブルゥになることを思い出していたなら、そう返事されて。
「あるの!」
思わず、にかあ、ってヤツだ。しちまったけど、うん仕方ない、嬉しいんだし。
「あるよう?マスタ、コレクタだし。他にもいろいろあるよ?」
それは嬉しすぎるニュースだ。
顔でばれたのか、ホセがますますにこにことした。
「じゃ、スーリヤの缶、ある?」
あれを2つくらいあれば、十分NYCに帰るまでタバコの心配しなくていいんだけどな。
なければ、カートンで買っていけばいいか。
「あるよう?お金ある?」
「アッタリマエ、無ければこれおいてくよ」
しゃらしゃら、とブレスを幾つか手首まで落とした。軽口には軽口で。
「ホンモノ出してくるよ、少し待ってて?」
にこお、と。茶色の目が笑みを弾いて、ホセが奥に消えていって。
にぃ、と口許、自分の口許に笑みが乗っかるのがわかった。―――や、だって。嗜好品の確保は大事だし。
トン、とカウンタのカーブされた縁に軽く寄りかかるようにしたなら、イキナリ、なんだか良く通る声が。
「なんたること……!」
真横から聞こえた。―――は?
「バンビーノ、タバコを吸うのか!」
「――――ハ?」
思わず見上げた、先にいたのは。
ウェーブした長めの黒髪を軽く後ろに流して。無精ひげ、これはわざとだとわかる無造作さで、ひどく、真っ黒な瞳をした―――
「しかも、オシートと同じものをか?」
小熊?オシートって、小熊ってことだよね―――?
「Dulcemente mime gusta lo fumando el mismo cigarro como mi ―――」
え?と。ハイ―――?
言葉を追いかけようとしたなら、イキナリ。ぐしゃ、と視界が黄色に―――ってこれおれの髪じゃないか。
「バンビーノ、おまえのようにカワイイ子が吸うモノか?」
甘い白の麻、そのジャケットの裾が引き上げられた腕の所為でひらひらしていた。
「これは、オシートのようなモノが好むものだがな、」
に、と。
唇が引き上げられて。
「ああ、あとは、ミ・ロードもコレが好きだな、」
すい、と眉を引き上げて。ますます口許が吊りあがっていた。
「バンビーノ、Gatitio dulce (sweet kitten)、唇を甘くする必要もないだろうに」
から、と。明るい、酷く乾いた声だった。
「気に入ったぞ、」
また、ぐしゃ、とアタマを撫でられた。
「これをやろう、オシートからのレガロだ」
白の麻、内ポケットから同じパッケージが出てきた。
「ホセは気に入ると一番綺麗なモノを出したがる、だが どの缶もみなへこんでいるぞ」
また、ぎらり、と。陽気なのにどこか底冷えする光が覗いて。
―――あぁ、このラインは。思い当たった、内ポケットのなだらかな膨らみは。―――ガンだ、携帯しているのは。
「じゃあ、遠慮なく。イタダキマス」
「持っていけ。オシートもいるか?」
―――はい??
「あったよう。」
ホセがスーリヤのキレイに円い濃い赤の缶を二つ、重ねるように持って来てくれた。
「ホセ!どの缶も潰れているんだろう」
「オシート」がそう笑って。ショットグラスを空にしていた。
「キレイ子ちゃんのためにとっておいたのがあるのだ」
にか、と。大自慢をしているけど。キレイコちゃんって―――おれ??
「かぁわいいよね、旅の途中?今日はどこ泊るのオレも一緒、ダメ?」
目線が、―――おれに合ってるんだけど、はい?
「ホセ、バンビーノにツレが居なければオシートがボーダーを越えて連れ帰る」
――――は????
真っ黒目がきら、と笑みに崩れてあわせられ、ハヤク払っちまいな、と告げてくる。
「うーわ、オシートがライバルじゃあダメだね。現金?」
「うん、キャッシュで」
値段は―――ふぅん?NYCより安いんだ。タックスの所為かな。
20ドル札2枚、ホセが、ぱん、と紙幣を引き伸ばして確認しているのを眺めて、ああ、ここはそれほどチアンがよくないんだネ。と思い当たる。
そっか、だからゾロが少し「冴えてた」のか。
「オシート、」
「なんだ、べべ」
べべ??????
「どうもアリガトウ」
パッケージを引き上げて、お礼。二重の意味もこめて。
「なんの、オシートのおそろしい友人にオマエのツレは似ているからな」
引き伸ばした唇の間に、タバコが挟まれていって、またオシートがにやりと目だけで笑った。
返ってきた小銭とスーリヤの缶を手にして、良い旅を、そう言い残して席に戻った。
で、気付いたんだけど。
なんか――――店中の目線、集まってたのか??カウンターに。
「ただいま。ごめん、待たせた」
でもほら、と。
戦利品を見せた。
あぁ、あとで。紙袋貰わなきゃな。
そう思っていたなら、
「もう出るぞ、」
ゾロが、すい、とドアを示していた。
わ、もうチェック済ませてたんだ、ごめんな?
オネ―サンに、ブラウンバッグを貰って立ち上がったゾロの後を追った。
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