一つ息を吸い込んでから、サンジの髪を掻き混ぜる。
ハイウェイのライトに照らされて出来た影が赤のように見えた。
「近寄ったら駄目な人種ってわかってたけど―――ごめん。でも、おまえがトモダチに似てるって笑ってたよ」
反省をしている声だ。
ああ、けれど。駄目だと解っているなら近寄るな、頼むから。
言葉を飲み込めば、苦笑が洩れた。
「多分似ているだろうな、職業も」
アレの“トモダチ”なら上の方、だけどな。
「で、そのミ・ロードは、おれとタバコ一緒だって、」
「あぁ、」
ますます項垂れるサンジの髪を梳く。
「銘柄、変えようか、ごめんね」
「次が無ければいい、それだけだ」
独占欲と保護欲が一緒くただ、オマエもタチの悪いオトコに引っかかったな、サンジ。
「毛並みの良い小熊(オシート)には近付きません」
真面目に言っているらしいサンジは、やはり根本を理解していない。
言ってもムダだろう、何度告げても理解しない。
だから。
「放っておかれると寂しいから、オマエは側にいろよ」
煙草も酒も、一緒に買いに行くから。
ぱ、とサンジが顔を上げていた。
に、と口端を引き上げてみる。
サンジが酷く嬉しそうな笑顔になっていた―――ショウガナイ。
幼さを含めて、オマエを愛したのだから。
「ナイトキャップにどこか酒屋でも寄ろうかと思ったが、今日はナシな」
金をくしゃくしゃに撫でる。
「待ってるよ?」
髪の間から見上げてきたサンジの頬を突付く。
「ばぁか、行くなら一緒に行く。ただ今日はさっさとどこかに落ち着きたいだけだ」
「うん、」
体内に残る氷の塊がある限り、気配は冴えたままだろう。
にこ、と笑ったサンジから目線を道に戻す。
威嚇することが、更に周りを煽ることもある―――忘れてはいけない。
牙を持っていることを、隠せるようにしておかないと、とんだトラブルに巻き込まれちまう。
見逃してくれてサンキュー、と電話を入れるべきか、オシートに?
長閑にボーイズ・グループの曲が流れ出てきて、くっと笑った。
デニムの腿あたりに手を置いてきたサンジの手を軽くポンと上から叩く。
安心してオマエを走らせておける世界だったらよかったのにな―――ああ、けどソレじゃ。オマエと出会えなかったか。
す、と横顔に蒼が合わせられたのが解る。
「あと2時間以上ある、眠ければ寝てていいぞ、」
「やだよ、」
声が柔らかい。
「ふゥん?」
「いまになって、」
声が真面目になっている。
視線をちらりとサンジに走らせた。
「ちょっと恐くなってきた、オシート、……おっかなかったねぇ、」
「アレはおっかないどころじゃない、ヤバいんだ」
ああ、サンジ。オマエは―――飼われている兎だってもうすこし危険には敏感だぞ?
水族館のウツボに勝てとは言わないが―――ショウガナイ。
そうでもなければ、オレみたいなのについては来ないだろう。
自嘲する―――ショウガナイ。
すい、とサンジが自分を指さしていた。
「おれ―――珍獣??」
そう言って僅かに笑った。
「だから構われるのか?」
コワイ悪いのに、と。
そう言っていたサンジに、苦笑する。
「ニューオーリーンズで会った役者が言っていただろう、闇の存在ほど光を求めると」
「おれは、」
「オマエ自身がどう思っているかはともかく」
サンジを遮る。
手が頬に触れてきた。
口端を引き上げる。
「おまえだけを照らせれば、いい」
静かに、けれど強いトーンでサンジが言った。
「―――奪ってでもオマエのような存在をほしいと思うような連中が多いってことだけは、忘れるな。連中はオマエの
心内なんか気にはしない。ただ手を伸ばして捕まえようとするだけだ」
その所為でオマエが闇に沈んでも―――悪いとは思わないだろう。
すう、と頬を指先が撫でていった。
「オマエはオレが護るけどな」
出来うる限り、例え命を落としても―――それがオマエを手に入れると決めたときに自分に誓ったことだ。
「おまえといないおれは、殻なんだから、そんなモノのために居なくならないでナ」
そもそも、何で離れて生きてられるんだろう?その仮定はありえない。
そう続けて、サンジがにこっと笑っていた。
「―――オマエが真っ直ぐ闇に突き進んでいけば、オレでもオマエを護りきれないかもしれない。だから気をつけるクセを
付けてくれ。できるだけオマエと一緒にオレは生きたいんだ」
「――――はい、」
にっこりとサンジがまた笑った。
“理解した”ということらしい。
「でも、」
「でも、はないよ、ベイビィ」
「でも!」
すい、と見上げてきたサンジが語気を強めた。
「おれだって、おまえを護りたいのは一緒なんだからな、力不足だろうと」
にこっとサンジが笑った。
「だから、気をつける」
「オレは充分にオマエに護られているよ―――オレがオマエを護っているのとは違う意味で」
また少し唇を引き上げていたサンジの髪を再度撫でてから道に視線を戻した。
サンジの身体が伸ばされ、肩にキスが落とされた、シャツ越し。
「―――サンジ、」
軽く手を握る。
視線が寄せられたのが解った。
「オマエを誰より、愛しているよ」
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