「部屋、どんな部屋?」
両手にヴァニティとバスケットを持って先を歩いて行くゾロに言った。
スーツケース2つなんてなんの負荷にもなっていない足取りだ。
「感激する要素もない部屋、かな」
「おれは、けっこう感動すると思うなぁ、」
ドアの前で言った。
「なにしろ、生涯初!」
「ではどうぞ、感動を」
「いい?」
ドアを指したゾロが頷いて。
「じゃ、お言葉に甘えて」
ドアのノブを回してみた。
押し開いてみる。
「茶色い―――?」
ベージュのカーペットが真ん中に敷かれたウッドのフロアに足音が小さく鳴って。
あぁ、違う―――
壁紙が退色しているんだ、これ元々はクリームだったんだね。
どこかのランドスケープの額がかかった壁からゾロに目を戻せば、
「比較的きれいに整えられている方だな、」
笑みを刻んでそう言っていた。
長方形に大きい部屋、どん、と空間を切り抜いたような。
フルサイズのベッドが二つ、イスが一つ、3人掛けのソファがヒトツ、コーヒーテーブル、変な色のカーテンがぶら下がった
窓が二つ、バスルームへは一段高くなっていて、デンワに、ナイトテーブルに、ああ、ビンゴ。
変な箱が横に着いたテレビ。
「映画やテレビのまんまだね、」
エリイのバスケットを床に降ろす。
「バスルーム覗いて来い、笑えるぞ」
「ノーマンがいるとか?」
モーテルのバスといえば―――サイコ。
「いたら駆除してるさ、」
笑うゾロに、そっか、バスタブにウィッグ落ちてるのか、と笑って。
言われた通りに覗いてみたら―――
「ゾロ!!!」
ドライヤーの横にもコイン入れる箱が、電源のところに付いてて。
バス、シャワーもコイン式?
「感動だろ、ある意味」
くっく、とゾロが笑いを押し殺す声で外から言ってきて。
「―――――――すごいよ」
感心した。
「1コインで10分とかなのかな」
そんなことを呟きながら部屋に戻れば、バスケットから出してもらったエリィが足元にオデコを当てに来て。
「ベイビイ、」
抱き上げた。
「探検、すぐ終わるだろ、ザンネンでした」
とん、とハナサキにキスを落として。
「んなぅ」
ヒゲがぴくぴくしていた。ああ、スミマセンね?まだ途中でしたか隊長。
そんなことを言って、フロアにまた降ろせば。
尻尾を振りたててベッドの隙間に潜りに行っていた。あー、埃…
大丈夫かなあ?
「ゾロ、」
コインをテレビの横のボックスに落としてスイッチを入れていたらしい、部屋にニュースの音が追加された。
ブーツ、いつの間に脱いでたのか、素足でフロアを歩いて
謎の白い箱―――あああ、あれ、冷蔵庫だったんだ!
それを開けて、またコインの落ちる音がしてた、中から。冷蔵庫型自販機??
手にはビールの缶片手で振り向いて。
手で、来い、と呼ばれた。
「ん、」
「何か呑むだろ」
「―――――オレンジジュース?」
や、オレンジ―ナだ、これ。
「コインを入れてどうぞ、」
あ、読まれた。
やってみたかったんだ。
クォータを6枚。
これって、オフィスに両替に行く羽目になりそうだねえ。
かしんかしんかしん、とコインが転がっていく音と冷蔵庫のモーター音がして奇妙な感じだ。
オレンジ―ナのボトルを引き出してみた。
あぁ、冷えてはいるんだね。
「ゴチソウサマ」
わらっていたゾロの頬へキスをヒトツ。
「オツカレサマ、」
手が下りてきて、髪をくしゃ、と乱していった。
「おまえこそ、なんだかオツカレサマでした」
オレンジ―ナのボトルと、缶を軽くあわせた。
肩を竦めていたゾロを視界に収めて、ベッドの端に座った。
ブーツ、これ。とにかく脱がないとナ。
ボトルキャップを緩めて一口。
炭酸が喉を滑り落ちていって、ちょっと気分が変わった。
軽く組んだ足首辺りを捕まえて、引っ張ってみる。
んんんんんん???
脱げない―――。
「―――――よ、っと、ん、」
んんんんん??
オーケイ、まずはもう片足から。
組み変えて引っ張って―――あれ?
足首までは比較的すかすかなんだけど。
んんんん??
踵か?カーブがフィットし過ぎたか?
あれ?
「んーーーっ」
引っ張って、
「わ、」
引っ張りすぎて身体がぐらついた。わ。た、これって。
「む、」
天井を憮然として見上げてみる。
ここで諦めてはイケナイ。
あえて、笑みの気配がゾロのいるほうから伝わってくるのを見ないようにしていた。
ビール飲んでたし。
ここまで世話かけさせるのも―――なんだかさすがに、なぁ?とまだベッドの下にいるらしいエリィに独り言で語りかけた。
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