中が見たいなら交代で入ろうか?とゾロを見上げれば。
「ベイビィ、オレがソレにイエスと言うと思うか?」
とす、と額を指で突かれた。
NYCでも、スペイン語は良く聞くけど。メキシコの国境にすぐのこのエリアでは、むしろスペイン語の方が多いくらいだ。
「ん、折角だし?」
突かれて僅かに顎が上がったままで言った。
「ばぁか、アリエナイだろ」
「そう?」
スペイン様式とメキシコ風が混ざり合っているこのミッションはアメリカで最古のものらしい。
すい、とゾロがサングラス越しに片眉を引き上げていた。本気で言っているのかソレ、だね?翻訳すれば。
「じゃあさ、ゾロ」
見上げる。
「なんだ?」
「おれ、ここにいるからあの教会の入り口までエリィ連れて歩いていってみてくれないかな?」
「行くなら一緒にいけばいいだろう?」
「見たいんだってば、おれが」
「ふン、」
だって、白い壁と影のコントラストの中できっと良い「絵」だと思うから。
長い歩幅、足音はゼロ。ゾロが歩いていく。足元で小石が跳ねる音さえしないや。
ゾロの肩越し、両方の前足を預けるようにして抱かれていたエリィが、真ん丸の金色目でおれを見詰めてくるのに思わず笑う。
なんだよ、エリィベイビイ?エルパソで迷子?大丈夫心配するなって。
割れ落ちてくるんじゃないかと錯覚しそうになるほどの蒼穹、その下に白と光と強いコントラスト。
まさに、そこに居てほしいなと思うポイントでゾロが足を止めて静かに振り向き。首を僅かに傾けていた。
白の麻と、ブラックデニムのコントラストも良いなァ。
写真撮りたくなる。
手でフレームを作って空間を切り取り。
出来上がりに満足した。
このミッションは、エルパソの観光マップに組み込まれているみたいで、
さざめくように、けれども明るく高揚したスペイン語が聞こえてくる。女の子たちから。
きつすぎるほどの陽射しのなかにたたずんでいても、ゾロの周りだけ空気がどこか涼やかだ。
額の上に押し上げていたサングラスを下ろした。
傘をつけたヴェンダーが、氷のつまったボックスの中に絞りたてのフレッシュジュースを入れて売っているのが目に付いて。
くい、と顎を動かして呼んで来たゾロに。手で、ちょっと待ってくれ、とサインしてから、それを買いに行く。
ほんの10メートルばかり。
翠が合わせられるのを感じる。うん、大丈夫だってば。
メキシカン、恰幅の良いおばあさんが店番をしていて。
氷の中からペットボトルを引き出し、料金を払えば。
「イイ男だねえ−−−!!」
心底感心した風に言って、ミッションを指差していた。
「おれも負けてないでしょ?」
そう笑って返して。投げキスを貰っちまった。
それから、足早に。我侭なお遊びに付き合ってくれたゾロのところへ歩いていき。
キャップを開けたフレッシュオレンジジュースを差し出した。
「モデル料」
「サンキュ」
片手で受け取り、一口呷り。
「絞り立てだって、」
ヴェンダの後ろに山ほどあった半切りのオレンジを思い出す。
差し出されたオレンジのボトルを引き取って。
「ドアから中だけ覗いてから、ダウンタウンにでも行く?」
すう、とオレンジの甘い酸味が喉を滑っていくのが気持ちイイ。
「そうだな。適当にぶらりと見て回ろうか」
「オーケイ、はい、ヴィタミンの補給をドウゾ」
すい、と手にオレンジのボトルを持たせ。くったりとゾロに懐いていたエリィを代わりに引き取った。
日陰を選びながら歩いていく。エリィのグレイの毛皮の表面が僅かに熱い。
「ベイビィ、カフェでおまえは水分補給だね」
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