Day Fourteen:

9時にホテルをチェックアウトして。うとうとと眠るサンジを乗せてI-25を走る。
途中でカフェに寄り、オレンジジュースとサンドウィッチを買った。
ジュースだけ飲ませると、サンジはまた眠りに落ちていき。朝ご飯代わりにサンドウィッチを齧りながら、インターステートを走る。
今日も快晴で空は青く。国立公園を抜ける道を走るときには随分と気分が良かった。
エリィはそろそろ毛皮が暑いらしく。バスケットから出してやればバックシートでくたりと伸びていた。
意識朦朧となっても求めてきたのに昨夜はしっかりと応えたため。サンジはエリィに輪を掛けてくったりとしてナヴィ・シートに
伸びている。

I-25からNM−6を渡り。インターステート40に乗れば、あとはスムーズなドライヴで。
途中でサンジが目覚めたところで、レストエリアのパーキングに一度停めた。
「サンジ、ランチは食えそうか?」
口を開けたサンジは、けれど直ぐに声を出せないようだった。
「――――――ぅん、」
「オオケイ」
くしゃ、と金を撫でた。サンジの目がほわりと微笑む。
「エリィ、は…?」
「少しここでエリィと待ってな。なにか食うものを仕入れてくる」
「おりる、」
少し声がしっかりしてきたサンジに、どうしようかと一瞬迷う。
「―――帽子被っていくならオオケイってことにしよう」
「えええ、」
「昨日食い過ぎたからな―――オマエまだとろってしてるぞ」
あ、と気を変えていたようだったサンジに苦笑した。

サンジがごそごそとテンガロンをバックシートに積んだ荷物の中から引き出していた。
すぽっと被り。
「これで顔みえない、」
そう言ってふにゃと笑っていた。
「ベイビィ、」
するりとサンジの頤を撫でる。
す、と見上げてきたサンジに、トンと口付けた。
「愛してるよ」


テンガロンを被りっぱなしだったサンジと、カフェテリアでランチを済ませ。
また車は1−40を直走る。
ギャラップとホルブルックの間は、途中で砂漠が外に広がっていた。
そこはニュー・メキシコとアリゾナの州境。
ウィンスロゥを過ぎ去り、フラッグスタッフの街を抜けた頃に、漸く陽が傾き始め。
グランドキャニオンへの玄関口、ピーチスプリングスに入った頃には、時刻は既に6時間近だった。

ゲートでネイティヴ・アメリカンらしい男性が、帽子を脱いで外を眺めていたサンジを見て、どこか驚いている風だった。
「キャニオントップまで行くのか?」
そう男性に声を掛けられて、頷いた。
ふむ、と唸りゲートを開けてくれたその男のトーンに。サンジも気付き、不思議そうな顔で見上げてきた。
肩をすくめて車を走り出させる。

ピーチスプリングスは砂漠の中にある町だ。
グランドキャニオンへと続くルートは、I-40を降りたところから、ルート66となる。
この時間帯はグランドキャニオンに入る車も出る車も少ないらしい。
落ちかけている太陽に横顔を照らされたサンジが、
「なんでおれのことみて驚いたんだろう?」
そう言って見上げて来ていた。
「さあな。もしかしたら、野良猫がこっちに足を伸ばしていたのかもしれないぞ?アイツと一緒に」
「あー…、」
くすくすとサンジが笑う。
「あの、ワイルドライフ嫌いなヤツと?どうかなあ、」
そう言って笑っていた。

「―――そういや野良猫も都会育ちだったな。じゃあこっちに出てきている確率は低いか」
せいぜい行ってヴェガスか?と笑う。
前方から古い型のジープが走ってきた。
「おまえは?好き?ワイルドライフ、」
にこお、と笑ったサンジに、サヴァイバルはお手の物だ、と応えた。

幌を下げっぱなしのジープとすれ違い様、ネイティヴの男性のような男と視線がかち合った。
ステレオから大き目のヴォリュームでRoad Trippin'が流れている。
どこか驚いたように見開いた目が気になった。
けれどサンジは音にすう、と微笑んでいる。
遠ざかる音に合わせて口ずさみ始めたサンジにちらりと目を遣ってから、ナンダ?と眉根を寄せる。

不意にざざざざ、と砂を散らす音がして。
バックミラーに映る、すれ違ったばかりのジープ。
男がしきりにサイドに寄せろ、と手で合図してきた。
前方後方、他に車はなく。
ゾロはスピードを落とし、サイドに寄せた。
サイドブレーキを引きながら、サンジの蒼い双眸が見上げてくるのが解った。
エンジンは切らずにウィンドウを降ろす。
サイドミラーに、背の高いすらりとした先ほどの男がゆっくりと近づいてくるのが見える。
どこか心配しているようなサンジの髪をくしゃりと撫でてから、シートベルトを外した。
背後のジープのステレオからは、相変わらずレッチリの曲が流れる。

影がす、と入り込み。
視線を遣ればそこには長髪のハンサムなネイティヴの同い年くらいの男が、にこ、と笑っているのが見えた。
敵愾心はないらしい。
「呼び止めてすまん。知り合いかと思った」
す、と耳に心地よい声が、男から放たれた。
サンジもじいっと男を見詰めている。
「二人揃って結構似ていたから驚いた。けどこうしてみると他人なのが解る」
にこ、と。男が笑った。

「そんなに似てるんですか、」
サンジが男の笑みにどこか安心したかのようなトーンで訊いていた。
「雰囲気は丸っきり違うんだが、顔貌は似ている。―――運転しているアンタは雰囲気もかなり似ている」
ゲートでチーフが不思議そうな顔していなかったか、と言われ。男の話がただ引き留めるためだけのものでないことに気付いた。
「―――あ、…うん」
頷いたサンジに、にこお、と男が笑う。

「これからキャニオンに向かうのか?もうゲートは閉じる時間だ。キャンパーじゃないだろう?」
「どこかで一泊できれば、と思って足を運んできたんだ」
「中はいまシーズンだからな、空きはないだろう。―――呼び止めた詫びに、泊まれる場所を紹介しよう」
そう言って、ポケットから引き出した紙になにかさらさらと書き出した男を度々見詰めながら、サンジが目線を合わせてくる。
男が書き出したのは簡単な地図と名前であり、男自身のサインが入った。
愛嬌のあるクセ字なので、それだけでも疑われる余地はないと思われるが、念には念を押してくれているらしい。
随分と社会慣れした男だな、と思った。

「似てる、っていうだけなのに?」
サンジが驚いて男に言っていた。
「魂が似ているってことは、それだけで意味があるんだ。そういう場合は案外名前も似ている。アンタ、サンジ、とかって
言わないか?」
―――チョットマテ。なんで解るんだ?

サンジが大きく目を見開いて、困った顔になっていた。
「で、アンタは狼で。ゾロ、とかって名前なんだろ」
「―――年齢の組み合わせは逆じゃなかったか?」
そう言えば、もう一組いるのか!と男が朗らかに笑った。
「オレの親友と素敵なキャットは、多分アンタたちと同じような年齢の組み合わせだよ。こっちのサンジのほうが若くてセクシィ
だけどな」
あ、でも今はキャットもセクシィなんだった、と男がくすくすと笑い。書いていた紙を差し出してきた。

「アルトゥロにこう言えばわかる。"アグィラ・ブランカは奇跡を見た。偉大なる霊に感謝を"と」
アルトゥロ?スパニッシュ系か?
「アグィラ・ブランカっていうのはアンタか?」
「そう。ワラパイ・インディアンなんだよ―――ああ、それでもって」
まじまじと男を見詰めるサンジに、アグィラ・ブランカはふわりと微笑み。す、とビジネスカードを差し出してきた。
サンジが手を伸ばしてそれをそうっと受け取り。ちらりと目線を投げてきてから、また男に視線を戻していた。
「リカルド・クァスラ…、これはアナタなんだ?」
手書きのカードに無意識に微笑みながら呟いたサンジに、オトコがこくんと頷いた。
「フォトグラファー――?」
「リカルド・クァスラというカメラマンだ。もし許可を貰えるのなら、アンタたちを撮ってみたい。完全にプライヴェート、写真もネガも
アンタタチに渡す。オオケイなら連絡をもらえれば嬉しい。駄目でもアルトゥロのところに是非泊まっていけ。夜のキャニオンは
冷える」

引き留めて悪かったな、ワラパイの町まではあと1時間ほどかかる、と言って。オトコがひらりと手を振った。
「偉大なる霊のお導きに感謝する。アンタたちと出会えてよかった」
「オイ、アグィラ・ブランカ」
す、とオトコが歩き出していた足を止めた。
「どうもご親切に」
そうゾロが言えば、にこお、と笑ってひらりと手を振って返してきた。
それからさくさくとジープに戻り。ひらりと飛び乗って、エンジンを再スタート。

ありがとう、と言っているサンジの声が聴こえたのか、もう一度軽く手を振ってから。
いつのまにかRoad Trippin'からThe Zepher Songに移っていた曲に乗せて遠ざかっていく。
サンジがまじまじと見詰めてきて、ゾロは小さく肩を竦めてから車を走り出させた。
「―――ゾロ、」
「―――どうする、サンジ?変な縁だが、行ってみるか?」




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