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 「ゾロ、あのさ―――」
 意識を道路に戻したゾロを見遣る。
 「ん?」
 ハンターグリーンのジープが通り過ぎていった方向から、なんだか風がずっと、吹いているような気がした。
 クルマが走り出す。
 「うん、巧くいえないんだけどな…?」
 さっきの人は、ひどく気分の良いニンゲンだったね、と。そう言葉にした。
 伝わるかな、おれの感じたこと。
 森の生き物みたいだった、と言った方が近いのかな。
 「悪いイメージは確かになかった。世間慣れしてはいたが」
 「うん、」
 ああいう人の知り合いに似てる、のか。
 「どうしようか、」
 「裏はなさそうだったからな、多分本気で言ってるんだろう」
 
 翠が一瞬合わせられる。オマエはどうしたい?と。その色味だけが伝えてくる。
 おれは―――どちらでも構わないんだけど。ただ、ゾロがあまり他人と接触を持ちたくない気持ちは理解できるから。
 「うううん、」
 「確かに今の季節はシーズンで。空きがないかもしれないな、ホテル」
 「いいの、おまえ?」
 「キャンプってわけにはいかないだろう?」
 あの口振りからだと、本当に民家だと思うんだけどなぁ。
 
 「キャンプでも構わないのに、」
 「冗談だろう!」
 くす、と小さく笑ったゾロに頭をくしゃりと掻き混ぜられた。
 「なんで」
 それはそれで面白そうだョ、と答える。
 「その他大勢にオマエを見せるくらいなら、特定少数最小限に抑えたいね」
 
 「―――ミスタ・クァスラの知り合いのところ、寄ってみる?」
 「そうするか、」
 「―――なんだか、」
 とん、とゾロの手を突付いてみた。
 「妙な成り行きだねえ」
 「連中の"偉大なる霊"ってやつが仕組んでるんだろ」
 「偶然すれ違っただけなのにね―――ユングの言うこと信じそうになるよ」
 森羅万象、全ては偶然という名の必然である、って。
 なぁ?とゾロの顔を覗き込むようにした。
 すう、と微笑みがゾロの表情に佩かれて行く。
 「為るべくして成るものだからな、」
 「瞬きくらいの間だけでも。一緒の時に生まれられて良かったよ、おまえとさ」
 
 はははー、とわざと茶化して笑って。
 「あともう1時間だって?ドライブ代わろうか」
 ひょい、と見上げてみた。
 「ん?いいさ、このまま走っちまう」
 「そう?」
 す、とゾロの指先がナビの画面をさして。
 「ここはナビに載らないんだ」
 「へ?」
 目をやれば。
 ただの茶色だった。ルートもなにもあったもんじゃないんだね。
 「さすが、デザート・カントリー」
 「ワラパイ・ネーション、だっけか」
 
 
 
 
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