メスカルを何ショットも空にして、その合間にグランドキャニオンで立ち寄るべき場所だとか、
観光客があまり行かないけれども『絶景かの、』とグレートサンダ―フィッシュが薦める場所だとか、そういった話をしていた。
上機嫌でグラスを呷ってサンダ―フィッシュは突然静かになって、おれが隣をみたなら、隣に座ってたんだ、静かに眠っていた。
突然だから驚いた。
「オヤスミになられたんですか、」
ダイニングテーブルでなにか仕事をしていたリトルベアに向かって話し掛ける。
くす、と静かに笑うようだった。
「要領オーヴァしたらしい、久しぶりに飲める客でうれしかったんだろう。寝室に寝かせてくる」
す、と音もなく立ち上がって、リトルベアはサンダ―フィッシュを引き上げると奥へと進んでいった。

ゾロを見遣る。
「飲ませすぎちゃったかな、」
ゾロは、小さく笑ってた。
「潰され慣れているようだったから平気だろう」
「おれと、ゾロだよ?勝てるヒトってものすごく限定されてる気がする」
グラスに残っていたメスカルを喉に滑らせた。
「リトル・ベアが飲まないのが意外と云えば意外か」
とても静かな室内にゾロの声が低く通る。
くしゃ、と髪を撫でられて見上げる。

「この家は朝はやいのかな」
見下ろしてくる翠に言う。
「連中がトラディショナルな生活をしていれば、多分な」
「うん、」
ボトルにキャップを嵌め直して、テーブルを少し片付けた。
「明日はどうしたい?薦められたことだし、観光していくか?」
「うん?」
「ここまできて行かないなんてありえないよ!」
笑う。
「おまえ、そんな意地悪だったっけ?」
「まさか」
する、と頬を撫でられて。目を閉じそうになる。

「眠いか?」
「−−−−意地悪いね、」
呟いた。
ここが、ひとの家だってことはわかってるけどね。
「そうか?」
「おれは飲んだからって眠くならないの知ってるだろうに」
「長いドライヴだったしな、疲れていないわけでもないだろうが」
一瞬だけ、ゾロの手に掌を重ねた。
「フン、そうとも言うね」
いぃっと、ハナに皺を寄せてみても、ふわ、と眼差しが和らぐのを目にして長続きしない。
―――キスしたくなるだけだ。……視線を反らせた。
静かに扉の閉ざされる音がして、リトルベアが戻ってくる気配がした。



気配と物音に視線を遣れば、背の高い男がゆっくりと歩いてきた。
「失礼した」
「いえ、こちらこそ。飲ませ過ぎたかと心配していましたが」
すい、とサンジに目線を遣る。
「な?」
「ごめんなさい、」
サンジの言葉に、リトル・ベアが小さく笑って首を横に振った。
頭をすい、とサンジが下げたのを柔らかな目線で見下ろしながら、どちらも優しい猫だな、とつぶやいているのが聞こえた。
比較されているのは"似ている”誰か。
似ているのは偶然としても―――彼らが自分たちの人生と、間違っても交わらないことを祈る。
オレの代わりに狙撃される羽目になったとしたら、申し訳が立たない。
すい、と。闇色の視線とかち合った。
こちらの思惑を読み取ったらしい、大丈夫だ、と目線が告げてくる。

それがどういう根拠から来るのかは解らないが―――この手の男が大丈夫だというのならば、それなりの根拠があっての
ことなのだろうとゾロは割り切る。
「もう少し別の酒も飲まれるか?」
男が静かな口調で尋ねてきた。
サンジがにこお、と笑って断っていた。同じように首を横に振る。
「こちらは朝が早いかと思いますから、」
サンジの言葉に、男が小さく頷いた。
「ジャスミンが早いからな」
男の目がふわりと和らぐ。

「客人を起こしたら申し訳ないが、ゆっくりと寛いでいってくれてかまわないぞ」
サンジがす、と視線を上げて見遣ってきた。
「折角薦められたので、グランドキャニオンを観光してから行くつもりですので」
「なんならもう一晩泊まっていかれるか?」
「さすがにそこまでは」
「賑やかだとグレート・サンダー・フィッシュもナタリアも喜ぶのでな、居てくれる分には構わんよ。良い客ではあるしな」
「いえ、ご迷惑をかけるわけには」
首を再度横に振れば、男はうっすらと口端を引き上げて笑った。
「ここはモハヴィ・カウンティ。狼の巣作りには最適なのだがな。気候が合わんのかね」
「―――ハ?」
「いや、こちらのことだ。そうか、では休まれる前に珈琲もしくはホットミルクなどは飲まれるか?」
きょと、と蒼を見開いていたサンジに向かって、リトル・ベアが笑いかけた。
「あ、いえ」

「バスをお使いになるだろう?タオルは出してベッドの上に置いておいた。持って行きなさい」
びっくりしていた表情を笑みに変えたサンジに、すい、とバスルームのある方向を指し示した。
「はい、ありがとうございます、」
「じゃあ、お言葉に甘えて。長風呂はしませんからご安心を」
サンジがにこおと笑い。こちらにも笑みを向けてから立ち上がっていた。
「イッテラッシャイ」
笑みを返す。
「イッテキマス」
キスしたい、と告げてくる表情を笑みに隠したまま、する、と部屋を出て行った。




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