バスから出て居間に戻って。
リトルベアの膝から自慢気に見上げてきたエリィの金色目とばっちり眼差しがあったから少し笑って。
ゾロがバスに行っている間も、エリィはリトルベアの膝を降りようとしなかった。
ゾロが戻ってくるまで話している間も。
そして、もう夜もこの家の基準にしては随分と遅いだろうと思える時刻に、オヤスミなさいと挨拶するころになってやっと、
おれを金色目が見上げてきたから。「オイデ、」と呼べば。
リトルベアの肩に頭を擦り付けるようにしてから、足元までやってきた。
「トリック?」
わらって。とん、とゾロの肩に手を軽く弾ませれば。床からぴょん、と飛び上がってきた。
「よくできました」
「な」
ゾロの肩にすっかり両足をかけて、顎下をくすぐられて目を細めていた。

「リトルベアにごはんのお礼をオマエ言ったか?」
エリィの額をくるくると撫でれば。
「なう、」
尻尾が左右に振られて。
「すっかり遅くなってしまって。おやすみなさい、」
「よく休みなさい、」
そう応えてにっこりと微笑むリトルベアにもう一度目をあわせてから、ゾロを見遣れば。
軽く笑みを浮かべて。会釈するようだった。とても珍しいな。、と
”他人”に対して、ここまで自然に接するゾロをみて思う。演技でもなんでもない。
そんなことを思って、ゲストルームまで戻った。

廊下はとても静かで。
この家のヒトはみな眠っているのだとわかる。
「ワラパイの神話をいくつか聞いたよ」
扉を閉めて、そうっとエリィを床に下ろしていたゾロに話し掛ける。
「へえ?」
ふんわりとゾロが微笑む。
「うん、」
ベッドタイムストーリーに話してあげようか、と。肩口にそうっとキスした。
「それもいいな」

髪をくしゃりと掻き混ぜられて、目が勝手に細まる。額に唇で触れられて、長く息が零れていった。
すっきりと片付けられた部屋は、この家のほかの場所と同じように澄んだ気配がする。
大きなベッドの足もとにはもうエリィがすっかりリラックスして、お腹を上向けて寝そべっていた。
「―――わ、」
「どうした?」
「―――や、ほら。ゾロ、あれ」
エリィを指差す。長く伸びてる灰色。
あれだけリラックスされちゃうと、下ろせないね、と。
わらって、ゾロの背中にきゅう、と腕を回した。
「どうこう言われてなかったから、多分乗せて寝ても平気だろう」
「うん、」
「気になるようだったら、朝掃除を手伝ってから出ようか」
「だね?」
ゾロに笑みで返す。
「なぁ?」
「んー?」
ぐ、とまた腕に力を入れ直してみる。
ゾロが笑ってる。耳に気持ちいい。
「今朝…か。たくさん愛してもらってよかった、キスだけで眠れそうだよ?」
そう言葉にして、笑みが刻まれたままの口元にキスした。腕も回したままにして、頬へも。

自然と、抱き合うようにしていたから。
する、と優しく背中をゾロの腕が撫でていって、ちいさくわらって耳元にも口付けた。
「んー…、」
翠を見上げてみる。
「ん?」
「どうだろう、」
「なにが?」
「眠くなった?」
わらう。
「まあ横になれば?」

しっかり乾いた短い髪に指を差し入れてみる。はむ、と唇を啄ばまれて喉奥でまた笑いを抑えて。
「じゃあ寝よう、エリィの邪魔にならないところで」
ぎゅ、と一度強くゾロを抱きしめた。
「一応セミダブルのベッドでなによりだよな」
「んー?」
肩に額を押し当ててみる。
「シングルだったらエリィの独り占めだ」
「別に狭くたっていいよ、くっついてるから」

さらさらと指先に髪を梳かれる。気分が良い。
「エリィが退いてくれないだろ、その前に」
「横になったらおまえの上に乗りに来る」
くくっとわらって。
ベッドの方をみた。
「オマエが?」
「う?おれそんなことしたっけ?」
からかわれてるンだな。判ってるぞ。
「滅多にオマエからっていうのはないな」
ゾロが短くわらって。

見上げようとしたなら、ふ、と吐息を耳元で感じ、小さく肩が揺れた。―――わ、齧ったら…
「ゾォロ、」
「んー?」
「大人しいいい子を煽って遊ぶなってば」
かぷ、とお返しに首もとを齧ろうとしたなら。
ぺろ、と噛み痕を舐められて。ぴく、と背中が揺れる。
「オシマイ」
声が間近で聞こえるのに、強く目を閉じてみた。
「うー、」
腕を解いてベッドカヴァを捲る。
「オヤスミ!」
部屋の扉側にわざと潜り込んだ。

「ベイビィ、詰めろ」
「やだ」
「ヤダじゃない」
戸口に近いほうにいつもゾロは眠るから。それは場所がどこであっても変わらないんだ。
背中を軽く掌で叩かれる、ほら退きなさい、ってことなんだろうけど。
「どうしてもこっち側がいいなら、」
「ん?」
落とされた明かりのなかでも、
ゾロがどんな表情を浮かべているのかわかる。
片眉を引き上げてる、これは。
で、―――あぁ、脅しだな?冗談交じりの。言葉にすれば、”言うこときかないろイタズラするぞ”、あたり。

「上にドウゾ」
威張って応えれば。
「フゥン?」
って言葉と一緒に、ゾロが乗っかって来て。
――――う…、わざと体重ぜんぶかけてきてるな?
きゅう、と抱きしめられて鼓動が感じられる。
「オヤスミ」
低い声がすぐそばでして。
くすぐった…わ、
ブランケットがすこしずれて。首筋、わ、ちょっと
ハナサキ突っ込まれて、くすぐったいって、――――わ、
ふう、と息まで吐いて……
ぞくん、とつま先から首もとまで震えかける――――し、おも…
マットレスが柔らかかったらおれ沈んでる。

「ん、」
顎を少し引き上げて息をしてみる。
ほんのすこしだけ、唇が首筋に触れるか触れないかで。これは―――吐息、くすぐった……っ
「んんん、」
背中に腕を回してみた。
ダメだ、気が散るかと思ったのに。

「―――や、すみ・・・っ」
「んー」
オヤスミ、もろくに言えないし。
う―――わ、声響くって。
くすくすわらってるし…!
自由になってた片足を、ゾロにかけた。う、重…いんだけど、
少し肌寒いくらいな気温に、体温があったかくて気分がいい。
「……ん、」
さらさら、と短い髪に手を差し入れた。
重いのも、気分いいなあ、とぼんやりそんなことを思って。
首を少し傾けて、触れられるところにキスした。
「気持ち良いだけだ、こんなの」
「ベイビィ、実はオマエ、煽って欲しいんじゃねェの?」




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