| 
 
 
 
 外がいい、と言ったなら。
 広く海際にオープンエアのスペースの開いたレストランがちょうどあって。
 暑過ぎないように、オーニングの影にテーブルは散らしてあった。
 エリィは、バスケットの中で動いていて。
 イスじゃなくて地面に置いてやったら、落ち着いたみたいだった。
 おまえ、やっぱり猫だろ、と内心で思って。
 リーシュは持ってこなかったから、エリィ。ランチはテイクアウトに決定。
 
 メニュウは、なんとなく懐かしい感じがしてわらっちまった。
 イタリアンと、アジアン・キュイジーンのイイとこ取り。
 東っぽくないメニュウ。
 どう考えても、ロウファット。
 ホワイトミート多め。
 それから、シーフード。こっちにも、アジアの影響大、な調理法を西流にアレンジ。
 そんな具合だった。
 
 「ワイン飲んでイイですか」
 運転放棄宣言をしてみる。
 「鍵渡したら、オーダをドウゾ」
 ダメって言われるはずも無いんだけどね。
 ひら、と指を動かしていたのを掴まえて。する、と落とし込んだ、キィ。
 グラス越しの目線が優しいし。
 
 笑みのままで。
 手が離れる間際、一瞬だけ指が手の甲を撫でていって。
 心臓がまた跳ね上がった。――――だぁから、ゾロ。反則だってのに。
 
 「喋ったら、声引っくり返るから。オーダ任せた」
 おれはこれとこれが食べたい、とメニュウを指差して、それから押し遣った。
 水でも飲む。
 ウェイタがオーダを取り終わって。さらりと中へ戻っていって。
 ランチタイムのピークは過ぎていたから、テーブルはそれほど埋まっていなかった。
 間隔も充分離れていたからか、ゾロがその場でケイタイから電話していた。
 ――――ホテル?あぁ、そっか。今日の最終目的地、ロングビーチだっけ。
 ここからだとあと―――6時間くらい、だっけ。
 さっき、そう言われたよな。
 
 ツアリストデスク、そこから繋げてもらってるのかな?取次ぎ時間がタイクツなのか、こっちを見てきたから外ではしないように、とからかわれるカオをしてみる。
 "甘えているみたいに誘う"カオ。
 そうしたなら、苦笑して。足先で一回だけコツ、と踝のあたりをノックされて。わらった。
 デンワの向こうに相手がでたみたいだ。
 そして聞こえてきた言葉。
 ――――退院祝い……?誰の?
 
 ゾロを指差してみた。
 笑顔と一緒に、首が横に振られて。
 おれを指差していたら、頷かれた。
 ――――えええ?おれ?
 「…静かなフロアがいい、多少値段が上がっても構わない。愛猫が一緒だ、」
 瞬きしたなら、ゾロが。軽く片目を瞑ってみせた。
 離れたていたはずのテーブルから、少し華やかな気配が立ち上る。
 ふぅん?
 おれも、外でのウィンク禁止、ってオマエに言おうかな。表情で告げてみる。
 
 「――――スウィートで2泊で結構です、」
 会話を締めくくりながら、す、とゾロが方眉を跳ね上げた。
 笑みで返す。
 指を2本そろえて、ひら、と軽く振ってみせる。
 「ゆっくり出来るね」
 夜にチェックインすることと。それから、偽名を出していた。――――助教授。
 いまや、病み上がりのオトウト連れ?
 なんか、――――ウン。
 妙齢のご婦人の好きそうな設定だね。
 ロビーでのアフタヌーンティーのお誘いは。おれ、「病み上がり」だから遠慮させてもらうぞ?
 
 ランチがそれからすぐにサーブされ始めて。
 味は、なかなかオッケイだった。
 ロングドライブには丁度良い程度にさらりとした味。
 エリィのランチは。軽く炙った「マグロ」で。ソースも香辛料も抜いてもらった。
 バスケットを指差して、「ね?これだから」と頼めば納得してくれてたモノ。
 「シェフにお礼言っといてくださいね」
 そう、小さく告げたオーダーが、きちんと、ケーキボックスに入って持ってこられたのにはまたわらった。ブルウのリボンまで付いていた。
 
 そしてコーヒー好きは珍しく、烏龍ティを飲んでた。
 あ、でも。
 「冷たいのは邪道」
 ひら、とグラスを示せば。
 「正道に固執する気はないからいいさ」
 「病気がちのオトウトを可愛がる兄ってのは王道だよ?」
 片目をぱち、と閉じてきたゾロに返した。
 
 ランチを終えて。
 ロッキーズの麓を抜けていく間、エリィは眠りっぱなし。
 なんだか軽口を交わしながら、何時間もがすぐに過ぎて。
 あぁ、でも。途中で、やっぱりゾロは。
 まずいコーヒー買ってたけど。
 
 夕日が落ちきって暫く経ったころ、ロングビーチに到着。
 「ゾォロ?」
 ホテルまでのビーチフロントの道、それをゆっくりと流れていく車の流れにのって進むうちに話し掛ける。
 「不味いコーヒーマニアの道って険しいね」
 すい、とカオを覗き見て。
 くう、と。笑みを口許に刻むゾロを。見詰めた。
 なんだか、うん。
 オマエのこと言い表す言葉、おれわからないんだよ。
 「恋人」より大事なものはなんていうんだろう?
 世界のまんなかに、オマエだけが立っていればおれはそれで満足。
 
 白砂が、くらがりに薄く浮き上がって光って見える。
 波の砕ける白の泡と。
 とてもちかくから、波音が下ろした窓の隙間から入り込んでくる。
 そんな、もののなかにあっても。
 やっぱり、オマエが真ん中に在る。
 だから、どこにいてもしあわせなんだけど。なんだか、この何日かは。
 オマエがとても肩の力抜いてる気がして。うれしいよ…?おれ。
 
 「ゾォロ、」
 また呼ぶ。
 「部屋から出たらさ?」
 「ん?」
 「アリステア、ってなるべく呼ぶようにするから」
 ちら、と。目線が投げられるのを受け止めて、微笑む。
 「笑わないようにして」
 そうっと。
 頬へ指先で少しだけ触れた。
 
 にこ、と。
 微笑み返される。
 「―――あのな?」
 横顔に告げる。
 「ん、」
 「ほんと、あいしてるよ。オマエのこと」
 
 
 
 
 next
 back
 
 
 |